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114.ミニライヴ最終演目

気付けば既に午後6時。

辺りもやや日が落ち、薄明りとなった空の下、未佳は最後のMCトークへと、話を移した。


「えぇ~・・・、皆さん。ではここで・・・このミニライヴ後に行われます、ポスター手渡し会の内容について。えぇ~、私坂井未佳の方から、簡単なご説明をさせていただきたいと思います。・・・まずポスター手渡しに関してなのですが、今回私達がリリースいたしましたニューシングル『“明日”と“明日”と“昨日”』・・・っをお買い求めいただきました皆様に、えぇ~・・・、ポスター手渡・・・」


ふっとここで、何やら足元のモニターが切り替わったのが見え、未佳はチラリと横目で確認してみる。

案の定画面に表示されていた文章っはまったく別のものに変わっており、そこにはたった一言。


(『衣装のポケットの中』~・・・? 何、この断片的な文章・・・。しかも『ポケット』って・・・・・・)


とりあえず指示された通り、未佳はさり気なく上ポケットに右手を突っ込み、何が入っているのかをガサゴソと探る。


一応スタート時からポケット内部に違和感を感じなかったので、自ずと中に入れられているものの想像は付いた。

そしてその予想の下取り出してみれば、案の定モノは未佳が予想していた通り、ポスター手渡し券。

しかも中心部には堂々と『SAMPLE』と書かれた赤いハンコが押されている。


ついでにこんなものが未佳のポケットに入っていたということは、必然的に未佳以外のメンバー衣装にも入れられているに違いない。

でなければ未佳のいるセンター側の観客以外、見本を見ることができないままなのだから。


「・・・ちょっとみんな・・・自分の衣装ポケット漁って」

「えっ?」

「へっ?」

「えっ??」

「ちょっとモニターに・・・」


とりあえず小声でそれだけ言って見本を見せると、3人もようやく意味を理解したのか、いくつかあるポケットの中を探しに掛かった。


「あぁ~、はいはい・・・。ポケットね?」

「あぁ~、見本? えぇ~っとー・・・あっ。コレか?」

「ぇっ・・・。・・・・・・待って、ウチ・・・。ポケットないんやけど・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ・・・・・・〉〉〉〉〉


ふっと、たった一人だけポケットが見つからずシドロモドロしている厘に、観客からはやや苦笑いのような笑い声がこぼれる。

そんな観客の状況に、真っ先に行動を起こしたのは、やはりこの男だ。


「どうもすみませんねぇ~。グダグダで・・・!」

〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉

「僕らのイベント結っ構あるんっすよぉ~。こういう予告なしの命令! ハハハ・・・ちょっと堪忍してくださ~い♪」

〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉

「ハハハ・・・。用意できました? ・・・大丈夫っすか?」

「・・・はい。・・・みかっぺもう大丈夫よ?」

「あっ、じゃあ・・・、気を取り直して・・・。こちらの『ポスター手渡し券』と書かれた用紙が、CDに同封されていたかと思います。あっ・・・こちらはサンプルですけど」


そう一言忠告しつつ、未佳を含む4人は同時に、四方から観客全員に見えるよう、勝手に入れられていた見本用紙を掲げる。

心なしか、今現在一番動きの激しかった長谷川のものだけ、妙に皺くちゃだ。


「・・・シワってるね」

〈〈〈〈〈シワってる・・・〉〉〉〉〉

「あの・・・。『入ってる』って知らなくて・・・。気が付いたら他よりくちゃくちゃでした・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉

「確かに・・・。ちょっと今日、かなり動いたもんね? 2曲目で」

「うん」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「はい・・・。あの・・・、コレ1枚で! サイン入りポスターを一つ! えぇ~、メンバーの方から。皆様へ。直接手渡しで差し上げます。あとですねぇ・・・。私から見て左手奥の方にあります、物販コーナー!」


するとその未佳の声に反応したのか、物販コーナーの会計店員でもある若い男性二人が、CDの通常盤と初回限定盤を片手に持ち、観客の方に笑顔で振りながら宣伝していた。


ちなみに店員を若い男性従業員にしたのは、どの世代でも抵抗感なく買いに行けるように配慮したため。

特に関東組の女性ファン達からは、以前から物販コーナーの店員についての希望で『若い人にしてほしい』。

もしくは『女性だけにしてほしい』などの意見が、多く上がっていたのだ。


ちなみにそれなりの熟練店員を嫌う理由に関しては『雰囲気で買いに行きづらい』や『笑顔がなくて恐い』。

さらには世代感覚からの違いからだったのか。

常連ファンには定番でもあるリターン行動の場においても『CDを2回買いに行った時点で「またですか?」と半笑いで言われた』など、今回のような2種販売の場では有り得そうなところで、色々とファンの感覚とのすれ違いがあったのである。


しかし今回のあの店員の仕種などを見ると、どうやら今回はかなり行きやすい、ノリのある従業員のようだ。

ちなみにこちらの二人は未佳達のスタッフではなく。

このステージと同じ階にある、大手CDショップの出張店員である。


「踊ってますね。フフフ」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「はい。・・・ただ今あそこの物販コーナーにもですね。えぇ~、今回の手渡し券同封の新曲CD、通常盤・初回限定盤全て・・・多数持ち込んでおります!! なのでまだCDを購入していなくて、手渡し券をお持ちでない方。もしくは今日慌ててやってきて『あぁ~っ! 手渡し券置いてきちゃった~!!』っという方もですね。あちらの・・・“物販で!!”」

〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉

「ご購入していただければまだ間に合いますから・・・。2枚3枚買っても損のない作品ですので」

「買うんか?! 3枚!!」

「ッ!!」

〈〈〈〈〈ハハハハ!!〉〉〉〉〉


まるで背後から追突されたかのようなツッコミに、未佳は一瞬驚きつつも、声の主を振り返りながら睨み返す。

ちなみに突っ込んだ張本人は、何とも未佳の反応を面白おかしそうに笑っていた。


「もうっ・・・うるさいっ!!」

「はい、すみませんっ」

「ちょっと今日話すこと多いんだから・・・、邪魔せんといて」

〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉

「今聞きました? 坂井さんの関西弁・・・コレ結構レアっすよ?」

〈〈〈〈〈おぉ~・・・〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈へぇ~・・・〉〉〉〉〉

「ちょっと素に戻るようなことない限り、この人言わへんから。関西弁・・・。なんか焦った時とか~。地元に戻った時とか~・・・。あとなんや? キレた時やったっけ??」



ギロッ!!



「あっ、はい。スミマセン・・・」

〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉


しかし始めこそそんな笑い声が出たものの、その後は観客が気まずい雰囲気だと思い込んでしまったのか、その声は風に吹かれるかのごとく消えていってしまった。

その観客の様子と反応に、見本手渡し券を片付けようとしていた未佳は、少々慌ててマイクを握る。


「あっ、みんな心配しないでね?! コレいつものことだから!! うん!」

「いつもの僕らの漫才コントやから! どぉーぞっ、お気になさらずに・・・!!」

〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉

〈どっちがボケ~?!〉

「ん~? ・・・どっちに見える~??」

〈みかっぺー!〉

「え゛っ? あたし??」

〈〈〈〈〈アッハハハ!〉〉〉〉〉

「しかも即答?! ・・・・・・一応~・・・、本当はお互いツッコミなんだけどね? ・・・・・・私今日そんなにボケてたかな~・・・?」

〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉

「あのぉ~・・・。お取り込み中ちょっと悪いんだけどー・・・」


そう何故か遠慮がちに声を掛ける手神に、未佳や長谷川。

さらには未佳から手神までの位置にいた観客が、一斉に手神の方へと視線を向ける。

しかし、手神が言いたい話の相手は、こちら側ではなかった。


「あの・・・。あれ~・・・」

「「うん? ・・・!!」」


ふっと手神が示す方へと視線を向けてみれば、そこにはあの厘が、なんと勝手にステージの一番端にいた男性観客へ、何かを必死に手渡しで渡していた。

実はこのステージ、先ほども説明した通り、一応アーティストと観客との回避距離は設けられているのだが。

ステージ両サイドの一番端側に関しては、湾曲している分ファンとの回避距離がセンターよりも短く、厘くらいの腕の長さであれば、先頭側の観客には平気で手が届いてしまうのだ。


そんな位置関係の場所で厘が手渡していたのは、こともあろうにあの見本用のポスター手渡し券。

しかもスタッフでも関係者でもない、一般のファン男性に、である。


もちろん言うまでもないことではあるが、厘が手渡しているあのポスター手渡し券は、当然無効用紙。

厘の指紋が付いていること以外の面では、ただの紙切れ同然の代物だ。


「ちょっ・・・! ちょっと小歩路さん!?」

「・・・ほぇっ?」

「今勝手に何してたの?! ・・・手渡し券渡してなかった??」

「しかもあれ『サンプル』っすよ!?」

「えっ・・・あっ、違う違う。今渡したの本物。・・・本物の引き換え券。ほら」


確かにその男性に手渡された手渡し券を見てみれば、そこにはあの『SAMPLE』という赤いハンコはなく。

周りの観客が持っているのと同じ、正真正銘本物の手渡し券であった。


「あれ・・・? でもなんで??」

「さっき借りたんよ」

「かっ・・・、借りたァっ?!」

「うん、そう・・・。借りた・・・。だってウチの衣装、ポケット全然見つからへんやもん! そしたらあそこのファンの人が『コレ使ってくださ~い!!』って・・・めっちゃええ人! ホンマありがとぅね?!」

〈! いえいえいえいえっ・・・!! そんなっ・・・! 滅相もない!!〉

〈〈〈〈〈ハハハハ!!〉〉〉〉〉


しかしよくよく考えてみれば、今の厘の行動は完全にご法度行為だ。

ましてやメンバーの中で一二を争うほどの人気な人間が、身の安全確認も無しに観客に近付くこと自体、決してあってはならないことなのである。

おまけにこの男性にも、何かしらで迷惑を掛けたことには変わりない。


基本的にこう言った行為をメンバーが行った場合、全体的な説教を行うのは栗野の役目なのであるが。

今回はこの場にいたということもあり、栗野の代わりに、リーダーでもある手神が深々と頭を下げた。


「どうもこの度は・・・うちのバンドメンバーがご迷惑をお掛けしました・・・」

〈「え゛っ!?」〉

〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉

「あとでしっかりっ! 楽屋の方でシバからせていただきますので」

「えぇ~っ!? 手神さんの説教嫌やァ~ッ!!」

〈〈〈〈〈ハハハハハ!〉〉〉〉〉

「めっちゃサングラスの向こうで睨むんやもーん! ウチ嫌やぁ~っ!!」

((さっきの京都弁アレよりはマシだよ!!))


思わず昼時のあの光景が蘇り、未佳と長谷川は口に出さずとも突っ込む。

ここだけの話、あの怒り目を手神や栗野に向けてしまえば、余裕で勝てそうな気がする。


「それにあの・・・。その手渡し券・・・、ある意味『小歩路さんの指紋付き』っすからね?」

〈〈〈あっ・・・〉〉〉

「でも・・・。ポスターの時は受け取っちゃうから・・・。だって『引き換え券』だもん」

〈・・・・・・・・・・・・〉

〈〈〈〈〈・・・・・・ハハハ・・・〉〉〉〉〉

「お、お兄ちゃ~ん? 起きてる~??」

〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉

〈どうしよう・・・。俺もう1枚買っちゃおうかなァ~・・・ッ?!〉

〈〈〈〈〈「「「「アッハッハッハッ!!」」」」〉〉〉〉〉


このファンの発言に、会場からは本日最大の爆笑の嵐が起こった。


さらにこの直後、長谷川の口からはもう一つ、厘に対してこんな指摘が飛び出す。


「それとついでにっすけど、小歩路さん。その上着の下にある衣装の左胸元ファスナー・・・。たぶんポケットっすよ?」

「えっ? ・・・・・・あっ、ホンマやぁ~!!」

〈〈〈〈〈「「「ハッハッハッハッ!」」」〉〉〉〉〉

「しかも見本入ってるし・・・!」

〈〈〈〈〈「「「アッハッハッハッハッ!!」」」〉〉〉〉〉

「・・・でも説明終わったし・・・。もっ、いらーん」



ぽいっ



「「「ちょお゛お゛おぉぉぉー・・・ッ!!」」」

〈〈〈〈〈あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁぁ~っ!!〉〉〉〉〉

「ダメ! ダメ・・・ッ!! 小歩路さん、捨てちゃダメ!!」

「だっていらんや~ん!!」

「怒った勢いで捨てんといてくださいよ!! まったく、もうっ・・・!」


ちなみにただ今厘が放り捨てた手渡し券見本はというと、放り捨てた直後に未佳と手神が拾いに走ったため、何とかゴミにならずに事無きを得た。


しかし、もし放り捨てた直後に風などが吹いてしまったら。

あるいはあらぬ方向へと飛んでいき、ステージ上のメンバーには届かないような場所にでも言ってしまったら。

危うく会場のゴミになっていたところである。


「え、えぇー・・・。

話がだいぶ脱線しましたが・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉

「続いて今回のポスターについてなんですけれどもっ。・・・大阪でもそうだっやんですが、今回はサイン入りポスターを、お一人様・・・1枚! 1枚のみ、差し上げます。ですのでポスター手渡し券を2枚以上お持ちのお客様は、1枚はサイン入り! それ以外のものは全て、サイン無し! の、ポスターとなります。えぇ~、なるべく多くの方に・・・、私達のサイン入りポスターをお渡ししたいので・・・。少々予定と内容が変更になりましたが、どうかご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします・・・」


未佳の説明と共にステージメンバーが頭を下げると、会場のいたる箇所からは『うんうん』と納得あり気に頷く人々の姿が目に飛び込んできた。

どうやら既に何人かの人間は、大阪での予定変更内容を耳にしていたらしい。


「さて・・・。こちらのサイン入りとサイン無しのポスターは・・・、目印として袋の色が違うんですけど・・・。袋は大阪と同じですか? さとっち」

「・・・ん?」

〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉

「あっ・・・。それ僕の担当なんね?」

〈〈〈〈〈「ハハハ・・・」〉〉〉〉〉

「大阪でも僕が報告係でしたけど・・・。え~っと・・・・・・今回も大阪と同っ、あっ! 違う!! ・・・違います! 色!」


そう口にする長谷川の視線の先には、またも左右でビニールカラーの違うポスターを掲げている栗野がいた。

しかも今回は白と黄色の袋ではなく、赤と青の袋である。


しかしその栗野がいる場所はと言うと、またしても物販コーナーからほど近い、ステージからは一番離れているような場所。

当然この距離感では栗野の声は聞こえないので、長谷川はあえてマイクで尋ね、栗野はそれに軽くジェスチャーなども交えながら答える。


「どっちがどっち? ・・・・・・青・・・、がっ? ・・・・・・。はあはあ・・・、了解です! えぇ~っと・・・」

「・・・大丈夫ですか?」

「はい。今内容理解したんで・・・。えぇ~っと・・・。今回、サイン無しの、袋は・・・ブルーですね。ブルー! ちょっと水色っぽい感じの・・・」

「なるほど・・・。『あり』の方は?」

「サイン入りは・・・正しく“CARNELIAN”色です! 朱色みたいな」

〈〈〈〈〈おぉ~っ〉〉〉〉〉

「ビニールやから、赤にしようとして失敗したんかもしれへんけど・・・」

〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉

「まぁ、そんな感じです。はい」

「なるほど・・・。あっ、あと・・・! もう一つ、思い出したっ」


ふっと、未佳の脳裏を過ったもの。

それは、大阪のイベントで急遽行った、あの追加サイン記入。

自称『プランB』のことであった。


一応今回は、あの大阪でのハプニングにも考慮し、前日に大量のサイン記入を行っておいた。

なので『プランB』での光景を期待していたファンには申し訳ないが、今回はそれを行うつもりも理由もない。

そのことをキッパリと、このステージで言わなければならなかったのだ。


「えぇ~・・・。それと大阪ではですね。途中『サインが足りなくなる』というトラブルが・・・」

〈〈〈〈〈あぁ~・・・〉〉〉〉〉

「なんか『プランB』とか・・・。そもそもAもCもDもなかったんですけどね!?」

「言っちゃったっ!」

「言っちゃったよ! 坂井さん!!」

〈〈〈〈〈ハハハハハ!〉〉〉〉〉


思わず『プランB』の正体を口にしてしまった未佳の言動に、長谷川と手神はやや慌てつつも苦笑する。

そんな二人の様子に未佳も笑みを浮かべていた矢先、会場の一番奥に立っていた栗野が、不意に自らの右腕に数度。

左の人差し指を当てるような指示を出す。


そしてその動作が合図であったかのように、ふっと再度未佳がモニター画面に視線を移した時には、画面の文字は最終楽曲の歌詞に切り替わっていた。


「フフフ・・・。今回はそんなことのないよう、たぁ~っくさん! 用意いたしましたので。どうぞご心配なく・・・・・・。それでは。次の曲で最後の楽曲となりましたが。最後は、皆さんと、一緒にっ! 歌って、盛り上がりたいと思います!!」

〈〈〈〈〈イエ~イ!!〉〉〉〉〉

「それでは行ってみましょーっ!! flying~! ship~!!」

〈〈〈〈〈イエーイッ!!〉〉〉〉〉


曲のタイトルを言い述べたと同時に、未佳は空いていた左腕を大きく横へと広げる。

するとその仕草がまるでスタート合図であったかのように、ステージからはやや激しい、長谷川の鳴きメロギター。

そして左右両サイドに設置されていた巨大スピーカーからは、最終楽曲『flying ship』のドラム音が鳴り響く。

やがて残り二人のキーボード演奏も合わさり、会場からノリノリの手拍子が巻き起こる中。

未佳独特の深みのある歌声が、ステージ一帯に力強く響き渡った。



天気のいい~ ひーはねっ

〈〈〈〈〈ひぃ~わねっ〉〉〉〉〉

一人で何処かぁ~に 出掛けー てくの~・・・


時には公園っ

〈〈〈〈〈こうえんっ・・・〉〉〉〉〉

時にはお気にいりぃ~のカフェっ(カフェっ fuー・・・)

でも一番はー・・・ 宛てナシの日帰り 旅行・・・


今日は一日中・・・ 美術館にこーもぉりっきり

ベンチに座って 見飽きた画家の絵を見つめてるー


いつか~ こんな風に~

君とぉー なれたらいいのになぁっ

こんな呟き もう空を旅してぇ~・・・ 何回目ぇ~・・・?



君と私の飛行船(fuー・・・) 道はないけどまだっ! とぉーい♪♪

時々風に煽られては(fuー・・・) 激しく左右に揺れ! うごぉ~くぅ~♪


さぁ! このふぅ~ねもっ♪ あの雲と共に 羽ばたいていけぇーっ!!


Hey!


〈〈〈〈〈Go in the sky・・・〉〉〉〉〉


Go in the sky~!!


〈〈〈〈〈in the sky・・・〉〉〉〉〉


huー・・・ Yeah! Yeah! Yeah!



約束のじか~ん 過ぎても来ずっ

〈〈〈〈〈来ずっ!〉〉〉〉〉

慌てた君からのぉ~ じゃざい~電話


しん~っけんにっ

〈〈〈〈〈しんっけんにっ〉〉〉〉〉

ごめん~っと言ってるのぉに 私はおお~笑い♪

でもこの~ 腑に落ちなーい 気持ちはなに~・・・?


時々空いた わずかな時間 カメラを構えてぇ~

寝返り撮りっ そうしてまたっ 小さないざこざ起こるぅ~よっねぇー


ふざけていぃ~った 別れ話もぉ~・・・

眠りの中じゃ ごちゃ混ぜで・・・

朝になぁーたっらぁー 忘れてるぅー・・・



一緒に歌おうっ!

せーのっ!!



〈〈〈〈〈「空を泳ぐ飛行船」〉〉〉〉〉

(fuー・・・)

時々嵐にっ! のぉーまれてはぁーっ!!


〈〈〈〈〈「フラフラふらり揺れながら」〉〉〉〉〉

(fuー・・・)

まだ見ぬ先へっ! 飛んでいく~♪♪



もぉ~1回!!

せーのっ!!



〈〈〈〈〈「白い線を引く飛行船」〉〉〉〉〉

(fuー・・・)

これはその日のっ! 目印でぇーッ!!

〈〈〈〈〈「一日で白紙に戻しては」〉〉〉〉〉

(fuー・・・)

明日の線をっ! ひぃーき進む~ッ!!



〈〈〈〈〈Go in the sky・・・〉〉〉〉〉


Go in the sky~!!


〈〈〈〈〈in the sky・・・〉〉〉〉〉


huー・・・ Yeah! Yeah! Yeahッ!!


〈〈〈〈〈Ⅰ’m in the sky・・・〉〉〉〉〉


in the sky・・・ huー・・・・・・



Thank You♪♪



その後楽器メンバーがラストの演奏を行っている最中。

一人観客との一体感熱唱を終えた未佳は、演奏が完全に終了するまで、笑顔で両手を振り続けていた。


『想定外』

(2006年 6月)


※30分後。


栗野

「やっぱり量多いわねぇ~(苦笑)」


「でもまだ1切れ分残ってるよ?(orz)」


手神

「スタッフのみんなは~・・・、大体お腹いっぱいっみたいだね」


栗野

「未佳さんの最後のケーキどうします?」


みかっぺ

「ん?(食) 入りそうなら食べちゃうけど~・・・。栗野さん、まだお皿にケーキちょっと残ってるよ?」


栗野

「ちょっと私休憩・・・。食べ切れないわ(苦笑)」


みかっぺ

「やっぱりカットが大きかったか・・・(orz) 食べ残し担当スタッフは~?(笑)」


手神

「なんかー・・・、全員満腹みたい・・・」


「大体30人しかいてへんのに、縦横50センチのケーキが大き過ぎるんよぉ~(ジト)」


さとっち

「あのぉ~・・・。坂井さ~ん(小声)」


みかっぺ

「ん? ・・・あぁ。やっぱりさすがにアレは大きかったよね(反省) 食べ切れなそうだったら残してもいいよ? 無理に食べて体調崩されても・・・」


さとっち

「いえ、あの・・・・。まだケーキ、残ってます?(尋)」


みかっぺ

「・・・・・・・・・!! ふあァッ!? まだ食べんのぉ!?(爆)」


さとっち

「別にあんなの食べた内に入ら・・・あれ? ・・・・・・なんでみんなちょっとずつ残ってんの??」


みかっぺ・厘・手神・栗野・スタッフ一同

「「「「「Σ(゛OДO)・・・・・・・・・(ア然)」」」」」


恐るべし・・・スイーツ長谷川!!(誰!?)



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