112.静寂の海境
散々転倒ネタで弄り終え、未佳達はいよいよ、次に演奏する楽曲の話へと、話題を変えた。
「ハハハハ・・・・・・ハァ~、はいっ。ということで・・・。だいぶMCで尺を取ったんですが・・・。ここで! 次に演奏する楽曲の話に、移りたいと思います」
〈〈〈〈〈イエ~イ!!〉〉〉〉〉
「その前に! ・・・この中で大阪の方のイベントにいらしてくださった方、どれくらいいらっしゃいます?」
そう言いながら未佳が右手をさり気なく挙げてみると、会場のあちらこちらからチラチラと手が挙がった。
もちろんその中の大半が常連客であったりするのだが、やはり場所が関東に移ったこともあり、全体的には1/4ほどだろう。
「うんうんうんうん・・・・・・。まあ大体このくらいですよね。あっ、もう下ろしていいですよ?」
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「挙手ありがとうございます♪ ・・・えぇ~、さてっ。次の楽曲なんですけど・・・。次は3日前の大阪では、新曲を2曲目に歌いまして。1曲目は、ライヴでお馴染みの『Endless Requiem』という楽曲を」
〈〈〈〈〈おぉ~〉〉〉〉〉
「披露したんです・・・・・・がっ!!」
〈〈〈〈〈・・・??〉〉〉〉〉
「今回ちょっと楽屋の方で・・・。本日ある意味一番輝いている、小歩路さんが!」
「へっ?」
〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉
「せっかくホテルも移動中も会場も海が見えるのに・・・『海の楽曲は歌わないのか!!』とっ・・・!」
〈〈〈〈〈・・・オオオォォォ~ッ?!〉〉〉〉〉
「少々小歩路さんが吠えたてまして・・・。急遽、セットリストを変更致しました!」
〈〈〈〈〈イエェ~イッ!!〉〉〉〉〉
その瞬間、観客からは期待通りの拍手と、予想通りの歓声が上がった。
特に大阪のイベントにもやってきていたファンからは、一斉に『出向いてよかった~!!』と言いたげな表情が浮かんでいる。
このファンの表情豊かな反応が、毎度ライヴやイベントを行っているメンバーにとっては楽しみなのだ。
「なので本日! 特に今回豊洲公演にいらしてくださった方々には申し訳ないんですが・・・、尺の関係上『Endless Requiem』は、歌いません! どうかご了承ください」
〈〈〈ハ~イ♪♪〉〉〉
〈〈・・・・・・・・・〉〉
「・・・あれ? なんか一部、無言者が・・・・・・」
確かに会場の半分以上は、この未佳達のセットリスト変更に賛成な様子なのだが、どうも1/5名ほどの人間は、少々しょんぼりとしたような表情を浮かべている。
しかもよりにもよって、皆厘のファンの人間ばかり。
どうやら彼らは『Endless』での厘のキーボード演奏が見たかったようだ。
しかし、どう時間を削ってみようと、尺が足りないことには変わりない。
「どうしよう・・・っか・・・。でも尺足りないもんね。二つやるには・・・」
「・・・ポスター手渡しー・・・」
「ん?」
「取り消しやったらできるけど?」
「!!」
まさかの話を振った長谷川から思わぬ提案が飛び出し、3人は一斉に長谷川の方に視線を向ける。
だがそれは、会場にいた観客全員も同じであった。
〈〈〈〈〈!! やだ! やだ!! ヤダッ!!〉〉〉〉〉
「嫌? ほならぁ~・・・ポスターと『Endless』どっちがええ?」
〈〈〈〈〈ポスター!!〉〉〉〉〉
「よしっ!」
〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉
「みんな意見揃ったし♪ 今回は『Endless』ベンチ入りで異論ないね?」
〈〈〈〈〈イエ~イ!!〉〉〉〉〉
この時未佳は、本気でこの長谷川の言動が素晴らしいと、心からそう思った。
「はい。フフフ・・・。まあ、私達結構ね? 『海』をテーマにした楽曲あるんですけど。その中のどれに、しようかなぁ~っと。メンバーみんなで『う~ん』と考えていたんですが・・・・・・。なんか『爽やかさ』というよりは・・・ちょっと『肌寒い』・・・。『涼しい風』、を今日は感じるので、それに似合った1曲に・・・、絞りました」
〈〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・〉〉〉〉〉
「じゃあちょっとインタビューっぽい感じで・・・。どんな感じの楽曲ですか? 手神さん」
「・・・はい?」
〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉
「この楽曲の・・・印象は、どんな感じですか?」
またもや何の前触れもフラグもないうちに話を振られ、手神は困ったように笑いながら腕を組む。
未佳のこう言った無茶ブリは決して初めてではないが、やはりこちらが予想していた内容通りの振りがこないので、毎回受け答えには戸惑う。
「さぁ~って・・・・・・。またいきなり・・・話を振られたぞぉ~」
〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉
「『印象』ですか?」
「印象・・・でも。アレンジのことでも・・・。なんでもいいです」
「う~ん・・・・・・。そうだなぁ~・・・。僕的にはなんか・・・歌詞に『気合い』みたいなを感じて・・・。その歌詞のストーリーに必死に合わせようとした印象がある」
意外にも手神が『印象』として挙げてきたのは、自分のことではなく厘の話であった。
「『気合い』・・・?」
「『気合い』というかね~。なんか・・・『このメロディーに付ける歌詞はこれしかない!』みたいな・・・。なんか最初歌詞カードを見た時、今までで一番・・・。文字が雑で、紙がもうっ・・・」
「くっしゃくしゃっ!」
「そうそう! 長谷川くん、覚えてる?!」
「覚えてます! 覚えてます!! あれっ・・・! 何かぁ~・・・いもっ、歌詞書き直したんやろなぁ~って」
そう言われて思い返してみれば、確かにあの当時受け取った歌詞カードには、普段の厘では到底考えられないような斜線や書き直し。
シワや汚文字などがいくつも見受けられた。
基本的に厘は、先ほども自身で口にしたように、メロディーから読み取れる言葉をそのまま、歌詞として当て込むやり方を行っている。
仮に歌詞となる言葉が出てこなかった時は、それが出てくるまでとりあえずは放置。
そんなやり方なので、基本的に歌詞の書き直しなどは行わないのだ。
にも関わらずあそこまで紙がボロボロであったということは、それはわざわざ歌詞を幾度も書き直したという証拠である。
「そうそう! だから僕、そこまで捻り出して考えついた歌詞のイメージを失わないように、必死に歌詞に合ったアレンジを意識したんだよねぇ~・・・。今思い出すと・・・」
「なるほど。じゃあこの曲は・・・歌詞を前提にした上でのアレンジであったと?」
「うん。・・・あのー、さっき僕『切ない系は我々の十八番』っと言いましたけど・・・。これはそんな切ない内容というわけではなくて・・・。歌詞の中に出てくる主人公の少年が、その・・・愛する彼女といつまで、一緒にいられるか。突然の別れは、意外と早い未来に訪れてしまうんじゃないかって・・・。もう尋問自答と葛藤の歌なんですけど・・・。まあ・・・・・・、最後は先の未来を信じてみよう。二人、隣にいる未来を見に行こう。そういう前向きなストーリーに発展する、曲なんですよね。物語になってる・・・楽曲。・・・という印象が僕は強いです」
〈〈〈〈〈「「おぉ~・・・」」〉〉〉〉〉
「なるほど・・・・・・」
ここから先は毎度のごとく厘の話なのだが、先ほどのように歌詞のことで話を振ると、またしても予想だにしない返答が返ってき兼ねない。
そこで未佳は、あえて手神が言っていた『くしゃくしゃになった歌詞カード』について、話を振ってみることにした。
「・・・っという話が出てきましたけど・・・。あれは何回か書き直したの・・・?」
「・・・・・・うん・・・。せやね」
〈〈〈〈〈へぇ~・・・〉〉〉〉〉
「それはー・・・『難しかったから』ってこと??」
「いや『難しい』言うより~・・・。何やろ? 初めてデモ聴いた時に・・・」
「「「うんうん・・・」」」
「『あっ・・・。曲が完成してる!』って思ったの・・・」
「・・・・・・えっ?」
一瞬、厘が何のことを言っているのかまるで理解できず、未佳は思わず瞬きをしながら聞き返してしまった。
その間にも、厘は坦々とその先の話を続ける。
「なんか・・・。まだアレンジとかしてない状態やったけど・・・『メロディーが完成してる』って思ったの」
「あっ! ・・・歌詞付ける前段階の時点でね!?」
「そうそうそう! 久々に『デモの時点で当たり曲来た!』って・・・ウチ」
「え゛っ・・・? 私何にも感じなかったんだけど・・・」
「えぇっ!? ウチ『みかっぺの上に何か降ってきた』思たよ?!」
〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉
しかし今の話を聞いていると、余計にあのしわくちゃになっていた歌詞カードのことが謎になってくる。
というのも厘がいつも悪戦苦闘する楽曲というのは、A・Bメロとサビが継ぎ接ぎに繋ぎ合わされたもの。
メロディーが単調、もしくは激し過ぎるあまり、歌詞の直地点が分からぬもの。
少々地味な印象を受けてしまうようなもの、など。
逆にメロディーがデモの時点で完成していると感じるものは、厘からするとイメージが浮かびやすく、作詞しやすいのだ。
おのため場合によっては、初聴きの時点で全ての詞が書けてしまうことも珍しくない。
にも関わらず厘は、この楽曲の作詞に難色を感じてしまったのだという。
そしてその原因は、奇しくもメロディーが完成しすぎていたが故でのことだった。
「でもそれなら書きやすかったんじゃないの? 詞・・・」
「その逆。メロディーで思い付く~・・・内容? の、イメージが強すぎて・・・歌詞で思うように表せへんのよ。逆に・・・」
〈〈〈〈〈「「「あぁ~・・・」」」〉〉〉〉〉
「なんかね。・・・書くやん? 詞・・・。ほんで全部書いて見直してみて・・・『ん? ・・・コレ違~う!』みたいな」
〈〈〈〈〈「「「あぁあぁ!」」」〉〉〉〉〉
「ほんである程度まで書いて、紙くちゃくちゃやん? せやから新しい紙に歌詞書き直すとー・・・」
「また『コレ違う!!』ってなっちゃうんだ!」
「そうそうそう! ・・・もうずっと同じトコ回り続けてるの! ぐるぐる、ぐるぐる!!」
それを聞いてようやく、未佳はあのくしゃくしゃになった歌詞カードの意味を理解した。
つまりあそこでまた歌詞をキレイな紙に書き直してしまうと、また歌詞を書き変えたい衝動に駆られてしまい、先へ進めなくなってしまうからだ。
それを防ぐために厘は、わざとくしゃくしゃな状態のままの歌詞カードを寄越してきたのだ。
「それで歌詞カードがあんな感じだったのね!?」
「そう! もう歌詞プリントされたら修正できなくなるから、それ見越してあのまんま」
〈〈〈〈〈ははは〉〉〉〉〉
「でもいざ曲完成して・・・。みんなで一緒に聴いたやん? 聴いた時・・・・・・うん♪」
〈〈〈〈〈「「「ハハハハ!!」」」〉〉〉〉〉
「『よ~しっ!』みたいな?」
「そうそう♪ せやから歌詞は・・・あれでええの」
「なるほど・・・。ねっ。まさか当時語られなかった話を・・・ここで聞くとは・・・」
〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉
しかし今ざっと思い返してみれば、厘がそこまで歌詞カードをくしゃくしゃにしていたのは、あとにも先にもアレ一度っきりであったように思う。
もちろん厘の口から『メロディーが完成してる』という言葉を聞いていないわけではないが、それでも初聴きで掛けてしまうものが大半なようで、これほどまでに歌詞が二転三転するようなものには出会っていないらしい。
もっとも厘本人から言わしてもらえば、そちらの方がかなりありがたいようだが。
「じゃあ最後さとっち。・・・何か思い出に残っていることとかありますか? この楽曲・・・」
「・・・『思い出』?」
「思い出」
「思い出・・・かぁ~・・・。あの・・・。やっぱり僕はPV撮影、ッ! ・・・って言ったらみんな・・・、何の曲の話してるか想像付いた?」
〈〈〈・・・あぁ~!!〉〉〉
〈〈分かったー!〉〉
「分かった? ・・・うん。それだとだいぶ限られるもんね。・・・PVですね! 僕は」
「あの・・・雨の?」
「そうそうそう! あのっ・・・土砂降りの中撮ったやつ・・・!」
実はその楽曲は『アルバムの代表曲』という立場であったため、特別にPV撮影が行われた楽曲であった。
さらにそのPV映像の全編には、人工的に降らせた大雨の中で、メンバー3人が楽器を演奏。
歌い手である未佳が、全身をずぶ濡れにしながら熱唱するという、今では到底考えられないようなハードな撮影を行ったことでも有名な楽曲であった。
「アレ雨、ニセモンなんですけど・・・。とにかく勢い強くて・・・。みんなでデッカイ砂場みたいなトコに、こう。丸くなるみたいに楽器置いて立って・・・やったんっすけど。いやいやいやいや~」
「あの楽器・・・みんな最初から壊れてたんやったよね?」
「「そうそうそう」」
〈〈〈〈〈へぇ~!〉〉〉〉〉
「雨に濡れるから自然と壊れるのは分かり切ってたんっすけど・・・。楽器無駄にしたくないから。最初っから色んなトコで壊れた楽器集めてきて・・・。まるでホンマに演奏しているかのごとくやったんっすよね? アレ・・・」
「私あの時ー・・・」
ふっと当時のその撮影風景のことを思い出し、未佳はやや苦笑混じりな表情を浮かべながら、あの時の苦労秘話を口にした。
「あの大雨に打たれながらうたったじゃない?」
「「「うんうん」」」
「それで私あの・・・あの時ちょっと前髪伸び気味で・・・」
〈〈〈〈〈「「「・・・・・・ハハハ・・・」」」〉〉〉〉〉
「展開読めるでしょ? ・・・すっごい目元に髪張り付くの!」
〈〈〈〈〈「「「ハハハハ!」」」〉〉〉〉〉
「しかも前髪伝って滝みたいな水が・・・もうっ! 口開ける度に入ってきて・・・!!」
〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉
「ツラいな」
「すっごい大変だった!! 咽そうになるし・・・、目は髪で開かないし! ・・・あと気温!!」
「アァッ・・・。真夏だったもんね」
「もうアレ、クッソ暑かったわぁ~。ムシムシ、むんむん」
「そう! もう濡れた髪が肌に張り付く感覚とか・・・。すごい気持ち悪かった~」
まるで罰ゲーム並のPV撮影だったと言いたげに、メンバーの口からは次々と、あのPV撮影についての苦労や過酷話が飛び交ってくる。
仕舞いには本日発言数の多い厘が、こんな裏話まで言いこぼしてきた。
「その前日なぁ~・・・。スタッフさんにみんな・・・。『明日・・・黒いの着て来い』って」
〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉
「『見えてもいいように明日黒い上下着て来い!』って、全員」
〈〈〈〈〈ハハハハハッ!!〉〉〉〉〉
「衣装がみんな『黒』やったからね?」
「そう。あと中も全部濡れるから『着替えも全部持ってきて』ってめっちゃ大荷物・・・。夏場やったけど」
「確かに!」
「私着替えは大丈夫だったんだけど・・・。黒い下着ー・・・私物で持ってなかったの。あの当時・・・」
「「・・・え゛?」」
〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉
「だから私コレのためにスーパーで買ったの~! わざわざ・・・」
「黒い服結構持ってたのになかったんっすか?」
「なかったの。持ってなかった・・・。だから前日に急いで買ったの~・・・。しかも上下で800円!」
「エ゛ェッ?! 普通500円切るでしょ?!」
「ネェッ!?」
〈〈〈〈〈「「ハハハ・・・」」〉〉〉〉〉
ちなみにその時購入した下着はどうなったのかというと、実はその後もライヴの衣装であったり、遠い親戚の葬儀や墓参りであったり。
一応ちゃんとした使い道があったので、どうにか無駄にならずに済んだ。
現に今回のこの衣装の下に着ているものも、実はその時に購入した下着であったりする。
「ハハハ・・・。でもちょっと大変だった思い出はあるけど・・・。完成したPVはよかったよね」
「うん。あの背景の雨空っぽい色と雨が、すごい雰囲気出してて・・・。ちょっと雨上がりみたいな海も・・・虹とかも別撮りのやつが映ってたり」
「僕は小歩路さんの撮った写真のシーンっすね。あの・・・、水の入ったケースに、写真が沈んでくシーン・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・! あぁ~! ビー玉のやつ?」
「そうそう! たぁ~っくさんビー玉が映ってる写真が、水に沈んでくやつ・・・。あれスロー映像みたいで。沈んでく写真から横ショットで、赤とか緑とか青とかのインクが、じわぁ~って写真から出てくるとこ・・・。ちょっとキレイでもあるし・・・写真が消えていって切なくなっていく感じもあるし・・・。『こんな技法もあるんだなぁ~』って・・・」
「何とも言えない・・・シーンでしたよね。さて・・・。まだまだ当時の話が尽きないんですが」
そう話を区切りつつ、未佳は再びマイクスタンドの方へと向き直り、観客席の方へと真っ直ぐな視線を向ける。
その未佳の動作と共に、残りの3人もまた楽器へと手を添え、正面を向き直った。
「ここで、・・・急遽セットリストに入れたので、どこまでやれるか分かりませんが」
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「懐かしのナンバーを1曲、聴いていただこうかなぁ~と、思います。2003年リリースの、私達の3rdアルバム『Silent Oceans』より・・・。『静寂の海境』」
まるでその曲名を噛み締めるかのごとく口にしてみれば、観客席からは『おぉ~!!』とも『キャ~ッ!!』とも似た歓声と、頭上高く挙げられた両手による拍手が起こった。
その背中の中、未佳は先ほどと同じように、両手でマイクスタンドを握り締め、さらにマイクに額を当てるかのような体勢で、メロディーが鳴るのをひたすら待つ。
今回はドラムの音源もないので、手神からのスタートカウントも無し。
演奏開始の合図は全て、長谷川のギター演奏に掛かっていた。
そして全員の用意も整い、辺りが再び静まり返ったのを確認後。
自身の頭の中のみでカウントを行いながら、意を決して、長谷川のアコースティックギターが軽やかに鳴り出した。
その音色に乗せるよう、1テンポ遅れた辺りから、厘のキーボードがピアノ音を響かせる。
そして最後に手神のシンセサイザーと、出だしを静かに弾いていた長谷川のアコギが激しくコードを引き奏で、本編のメロディーがスタート。
閉じられた瞼の向こうでリハーサル時のタイミングを思い出しながら、出だしだと5感で感じ取った場所で、未佳の両目と口が開く。
ねっ もう・・・終わりにしよぉ~うよ
虚ろな眼差しっがぁ 僕に言う
君をぉー 愛してたぁー 今が・・・
壊れてゆくのを見たぁー・・・
ふっとっ 雨音に 目がぁ覚めてぇ~
あぁ~・・・ また夢落ちかぁって・・・
ちょっとだけ 安堵
してぇ~みてはぁ またぁー・・・
不安に かぁらぁ~れる!
いつか僕ら 離れぇ~てくのか
想いはすれ違ってくのぉか・・・
あぁーがくこともー
もがぁ~くこともできずにぃー ただ~・・・
いまをぉ~駆け出ーしたぁ!
ゆぅ~だぁちの 雨降る空でぇ~
ア~スファルト蹴り かぁーけ下ぁってくぅー・・・
きぃ~みにだけは 見ぃせることのな~い
なぁ~みだひとつ こぼぉ~しなぁーがらぁ~・・・
ねっ どうしたのぉってぇ・・・
何も知らぬ 君がぁ聞いてきたぁー
僕ですらぁ~ みぃーえない~・・・
君の・・・心の闇 あぁ・・・
受け止めぇ・・・さぁせぇ~て!
終わらぬ不安は 絶えずやぁ~ってきぃてー・・・
消えぬ想っいっはぁ・・・
いつもぉ~押し寄ぉ~せる!
板挟みに傷つきぃ・・・
無力さに捕らわれてもぉー・・・
僕はぁ ここに立つ!
たぁ~え間なく 波打つう~みにぃー
ふぅ~たりのこころ 図りかけぇ~てるー・・・
あぁ~めの中で 広げたこのぉ~手ぇはぁ~・・・
いぃ~ま誰ぇ~を 守れぇーるだろぉかぁー・・・
心に見えるのはぁー カタチ在るものだぁーけとぉ・・・
誰かがぁ~ 言ってぇいた
この言葉を くつがえぇ~・・・したぁーい・・・
君とぉー生きていたいっ!!
はぁ~れ間射すぅ スコォールの下でぇー
ぬぅ~れる君のぉ手を 握りぃー返~したぁー・・・
消えぇ~ゆきそうなぁ~ こぉーの温もりがぁ~・・・
さぁ~めきらぬよう・・・ 伝う雨さえっ
閉ざぁすよ!
せぇ~い寂のぉ 海境目指しぃ~・・・
砂ぁ~浜の道 歩き進んでぇ~くー・・・
ずじょぉ~に掛ぁ~かる おぼろげなはぁ~しっをぉー・・・
どぉ~こまでぇも 追い掛ぁ~けてゆこぉ~う・・・
握ぃ~ったその手を 離さぬぅ~・・・ よぉーぅにー・・・・・・
Just under a shower
(Just under a shower-...)
It starts running in search of you
Tomorrow when it will not be visible
(Tomorrow when it will not be visible-...)
You may believe?
(You may... believe~...)
It is if it can live with you...
(It is if it can live with you-......)
演奏終了後。
歴代曲を知る多くのファンや、そうでない回覧者達の拍手に包まれつつ。
一人、曲を歌い終えた未佳はそのまま、無言でマイクスタンドの前に佇んでいた・・・。
『サイン』
(2001年 1月)
※事務所 控え室。
みかっぺ
「えっ? サイン??」
栗野
「ええ。皆さんこれからそういう機会が増えると思いますので、皆さんでそれぞれ、自分のサインを考えておいてくださいね?」
厘
「ウチの『厘』だけじゃダメなん?」
栗野
「ダ・メ・で・す! あくまでもその人個人を表すものなんですから、ハンコみたいに簡単な感じのものはNGです!!」
さとっち
「要するに手神さんのみたいなやつを考えればいいんっすよね?」
手神
「そうそう♪ 僕は2年くらい前から、自分のサイン形態は考えてあるからね?」
さとっち
「色々工夫したんっすか?」
手神
「そりゃ~もう(当然) 見た目のデザインとか、文字の形とか・・・。ちゃんと何て書いてあるのか分からないといけないし、書きやすさも求められるしね。・・・色々凝ったよ~(しみじみ)」
厘
「でも書くスピードは上がらへんのやね・・・(ズバッ)」
手神
「い、一応・・・間違えないように書いてあるから・・・(汗)」
みかっぺ
「・・・・・・よし! できた♪♪ こんなのどう? 一筆書きなんだけど」
さとっち
「ん?(凝視) ・・・・・・・・・・・・すまん、読めん(結論)」
みかっぺ
「ズズッ・・・!!Σ/(__;/)」
さとっち
「だってグチャグチャやないっすか~(呆)」
みかっぺ
「う゛ぇ゛~ん゛!! ゜。°(p>□<q)゜。° これでも手神さんよりお洒落に書いたのにぃ~・・・っ!!」
手神
「エ゛ッ・・・!?Σф(゛ ̄)オ・・・、オシャレ?」
おい、ちょっ・・・!
みかっぺ!!(爆)