111.あの時の転倒原因
新曲の演奏終了後。
まるで周囲を囲むかのように巻き起こった拍手の音に、4人は何度も一礼を繰り返す。
先陣を切って先に話し始めたのは、MC担当でもありヴォーカルの、未佳であった。
「はい。ということで・・・。改めまして皆さん! こんばんわ~っ!!」
〈〈〈〈〈わぁ~っ♪♪〉〉〉〉〉
〈〈〈〈〈こんばんわ~!!〉〉〉〉〉
「CARNELIAN・eyesでーす!!」
〈〈〈〈〈イエーイ!!〉〉〉〉〉
いつもながら毎回同じ言葉での挨拶なのであるが、やはり今回は集まってきている人数が多いのか。
いつも以上の返答が観客席から返ってくる。
「凄いですね! 今日・・・。観客席からの声の多さが・・・」
〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉
「『さすがは関東!』と言った・・・感じなんですが・・・。手神さん、どう? この関東の人の多さ」
「っ・・・おっ。またいきなり振ってきましたね」
あまりの前触れのない振りに、思わず手神が苦笑交じりに失笑する。
心なしか、周囲からも微かな笑い声が聞こえてきた。
「いや、でも・・・。今ふっと見上げて気が付いたんですけど。3階にまでこんなに人が・・・、集まってきてくださって。・・・ねぇ? 私としましては、本当に嬉しい限りです。どうもありがとうございます!」
そう手神が頭を下げると、会場からは本日4回目の盛大な拍手が巻き起こった。
「はい。・・・えぇー・・・。ただ今私達が披露、いたしました楽曲は。つい3日前にリリースされたばかりの新曲『“明日”と“明日”と“昨日”』という楽曲なんですが・・・。もう、聴いてくださった方とか・・・」
〈買ったよ!!〉
〈聴いたよ!!〉
「ありがとうございます!!」
ここでまたしても笑いと拍手が起こったのだが、その発言の直後に長谷川がこんな水を差す。
「『今ステージで聴いた』は無しよ? コレ」
〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉
「ちゃんとCDで聴いたかどうかっすからね? コレ。・・・聴きました?」
〈聴いた~♪〉
〈聴いたよ~!〉
「なら、無問題! 失礼シマシタ」
〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉
「はい。・・・今日のお客さん・・・、若干ツボ浅いね」
確かに言われてみれば、本日はいつにも増してMCでの笑い声が目立つ。
まだイベントを開始したばかりで興奮が冷め止んでいないのかもしれないが、それにしても観客からの笑い声が多かった。
「もしかして・・・疲れた? 待ちくたびれた?」
「なんかね。今日朝からいらしてた方も・・・」
「いましたもんね」
「そうそうそう!」
「う~ん・・・。大丈夫? ちょっとブレイクタイム・・・、尺取ろうか? ・・・そっちの方が疲れるかもしれんけど」
〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉
〈〈〈〈〈大丈夫ー!!〉〉〉〉〉
〈〈〈〈〈さとっちありがと~う♪♪〉〉〉〉〉
半分どっちの意味で言っているのか分からない声も返ってきつつ、気を取り直して未佳は、再び本題の新曲の話題へと話を戻す。
「ハハハ・・・。え~っと・・・。今回のこの新曲は・・・、どう言ったところが聴きどころだったんでしょうか? 手神さん」
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「えぇ~っと・・・。聴きどころ、っは~・・・。まあ我々のバンドでは十八番なんですけど、ちょっと歌詞が切ない感じだったので・・・。だけどまあ、なんかサラッとしてるというか・・・。涼しい感じというか・・・。そんな切なさのメロディーに、アレンジしてみました。・・・まあ『秋の風』というか。『初夏の風』というか」
「なるほど・・・。ちょっと風を感じるような、メロディーということですね。うん・・・・・・。歌詞とかで、何か印象に残っていることはありますか?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
〈〈〈ハハハ・・・・・・〉〉〉
「もしもーし?」
「・・・・・・! えっ? あたし?!」
既に手神の方での話が終わっているとは気付かず、ついつい観客席の方に視線を向けていた厘は『ハッ!』と顔を上げる。
その厘の行動に、未佳達ステージメンバーは苦笑していたのだが、観客席からはドッとした笑いが起こった。
「あ、はい。・・・えっ? 歌詞?」
「そうそう。歌詞とかで、何か印象に残っていることとか・・・」
「う~ん・・・・・・・・・特にない・・・」
ズルッ・・・!
〈〈〈〈〈ハハハ!〉〉〉〉〉
「だってメロディーから出てきた言葉・・・並べただけやもん」
「ははは・・・、いつも通り?」
「いつも通り。・・・つるっと」
「出てきた?」
「出てきた。・・・まあ何か言うんやったら~・・・・・・。解放された・・・一人、旅」
〈〈〈〈〈おぉ~・・・〉〉〉〉〉
「“愛”っていう鳥かご、っからー・・・、解き放たれた鳥。みたいな感じ・・・」
「あっ、でもなんかちょっと・・・。手神さんのアレンジと、ちょっと共通項がある感じですね。『風』と『解き放たれた鳥』って・・・」
〈〈〈〈〈あぁ~・・・〉〉〉〉〉
「ねぇ? ・・・・・・よかった~。内容のある振りになってー・・・!」
そう思わず胸を撫で下ろす未佳に、3人と観客の人々は、一斉に大声を上げて笑い出す。
「「「〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉」」」
「このままスカスカなMCになったらどうしよう、って・・・!」
〈〈〈〈〈アッハハハハ〉〉〉〉〉
「よかったぁ~・・・。・・・じゃあ、さとっち! この楽曲で・・・印象に残っていること」
「はい! えぇ~・・・・・・・・・」
〈〈〈〈〈・・・・・・・・・ハハ・・・〉〉〉〉〉
「間奏! 間奏のソロパートっすね! ギターの・・・」
「自分の?」
「そう! 若干鳴きメロ風な感じで・・・。でもそんなに、コード自体は難しくはないっすね」
「練習すれば?」
「練習すれば、誰でも・・・。今回はちょっとアコースティックでしたけど・・・。オリジナルはエレキなんでね?」
「ちょっとギターキッズ達には」
「そうっすね。練習の一環として・・・やってみるのにはいいと思います。はい。・・・CD音源、耳で起こして」
「なるほど・・・」
しかしそう口にする長谷川であったが、その手元はちょくちょくギターの弦に触れていた。
しかも、誤って音が鳴ってしまわぬよう、指を軽く浮かせた形で、だ。
ただこの時の長谷川が必死に弦を確認していたのは、ただ今披露した新曲のギターではなく。
急遽このあとに演奏することになった、あの楽曲のギターコードである。
「まあ歌っている私も・・・、ちょっとこの楽曲は冬の終わりとか・・・。秋を感じさせるかのような楽曲なんですが・・・。是非とも皆さん、今回披露させていただきました、アコースティック ver.だけでなく・・・。今回あちらのブースにて販売しております、オリジナルの方も・・・。是非是非聴いてみてください♪」
「数に限りがあらへんから」
「・・・そうね。あちらの方で、皆様分ご用意いたしておりますので。是非とも皆さん・・・物販で!」
〈〈〈〈〈ハッハッハッハッ!!〉〉〉〉〉
「お買い求めくださ~い♪♪ ・・・・・・さて」
とりあえず新曲の宣伝もやり終え、お次は何のMCにしようかと、未佳が考え始めていた、その時。
ふっとここで、ある人物の姿が長谷川の目に止まった。
その人物は、観客席3列目のステージ正面にて回覧していた、常連の関東組男性。
「! あぁーッ!!」
「「「・・・ん?」」」
「兄ちゃん、さっき大丈夫やった?!」
〈!〉
長谷川が話し掛けたその男性。
それは、今朝入り待ちの際に顔面から豪快に転倒した、あのがたいのいいファン男性であった。
さらによくよく周りを見渡してみれば、同じく入り待ち時に見掛けた顔の人間が、その近くに大勢固まっていた。
どうやら、あの時のグループは皆連れだったようで、入場の際にこの場所を陣取ったようだ。
「大丈夫やった? ・・・怪我してない?」
〈は・・・、はい。大丈夫です〉
〈半径1センチくらい擦りむいてます!〉
〈ちょっ・・・!〉
〈〈〈ハハハ〉〉〉
「擦りむいた?! 何処を?」
思わず長谷川が聞き返してみれば、男性は素直に、長谷川に見えるようジーパンの上から右膝辺りの箇所を軽く叩いた。
その叩いた箇所に微かに泥が付いているところを見ると、どうやらジーパンの上から擦りむいたらしい。
「・・・膝? あ、でもよかったねぇ~。大した怪我しなくて・・・」
「あのー・・・。入りの時にね」
「そうそう。入りの時に・・・我々の目の前で思いっきり転倒したんですよ。彼・・・」
〈〈〈〈〈えぇ~っ?!〉〉〉〉〉
その未佳と手神の説明で内容を理解したのか、観客席からは一斉に驚きの声が上がる。
「ホント本人・・・『穴があったら入りたい』な気分だったと思うんだけど」
「めっちゃキレイにこう・・・目の前で『ドカッ!』って。もうっ! 『ドテッ!』っていうレベルじゃなかったんっすよ! 効果音が」
〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉
「私最初音しか聞こえなくて・・・『えっ?』って思ったらもう倒れてた・・・」
「いや、僕らはすぐ気付きましたね。えぇ。目の前やったんで・・・。そんで駆け寄ろうとしたら・・・」
「周りの対応が大人だから・・・。『大丈夫だから行ってくださーい!!』ってね」
「ちょっと通路入ったあとで『大丈夫だったかな?』ってなりましたけどね? うん」
ちなみにこの話を長谷川達が行っている間。
とっさにメンバーに対して『行ってください!』と告げた入り待ち組は、全員肩を震わせながら笑いを噛み殺し。
転倒してしまった男性当人は、顔を真っ赤に赤面させながら下を向いてしまっていた。
確かにこんなにも大勢の人間が集まっているような場所で、自分のこんな失態談などをされたくはないだろう。
ましてやその話題を、大好きなバンドメンバーがMCネタで話しているのだから、尚更だ。
そんな男性の様子に即座に気が付いた未佳が、素早くその話題を中断させるよう、長谷川にアイコンタクトで指示を出す。
ちょうどタイミングよく目が合ったこともあり、指示された側も即座に行動に移った。
「あっ・・・。じゃあこの話はこの辺りで」
「えっ、で? ・・・転んだ原因は何やったの?」
ズルッ!!
まさかここにきて、ずっと口を閉じていたはずの厘が突然話し出すとは思わず。
またこの転倒の話も、てっきり厘は聞いていなかったのではないかと疑わなかったので、その全ての唐突さから、3人は勢いよくその場に滑る。
一方の観客席からは、その厘の発言と未佳達の滑る様子が見れたからか、またしても爆笑の嵐が起こっていた。
〈〈〈〈〈アッハッハッハッ!!〉〉〉〉〉
「へっ? ・・・・・・ウチ~・・・、なんかおかしいこと言うた?」
「なっ、なんで聞いちゃうのよぉ~!」
「今『ここまでにしよう』って話そうとしとったんに・・・!!」
「だって一番気になること聞いてないんに、話題止めようとするんやもん! あんな場所で一体何を踏んだら転ぶん?!」
確かに転倒した原因は気にはなるが、当人が嫌がっていることを深く追求してもどうしようもない。
それに、転倒した原因に関しては、何となく予想が付いていた。
「でも『転んだ理由』って言ってもねぇ~・・・」
「アレってなんか踏んだんっすよね? 石とか、ちょっと大きめの小枝とか・・・」
〈あっ、いや・・・。珊瑚ー・・・・・・〉
「さっ・・・、サンゴォ?!」
〈〈〈〈〈ハハハハッ!!〉〉〉〉〉
「えっ?! さ・・・『珊瑚』って、あの・・・。木みたいな動物の? 海にいる・・・?」
〈はい・・・〉
「・・・・・・えぇっ?!」
その後の詳しい話によると、その珊瑚は入り待ちエリアのコンクリートの上に落ちていたらしく。
その存在にはまったく気付かなかった男性は、バスから下りてきたメンバーを追い掛けようとして、誤って珊瑚の上に足を着地。
一般的な枝よりも遥かに丸かったため、男性はまるでローラーの上に足を置いたような状態となり、そのまま進行方向に転倒したとのことだった。
ちなみにその根源となった珊瑚は、男性の友人でもある女性が記念品として拾っていたが、その女性の持つ珊瑚を見て、ふっと未佳の脳裏にこんな疑問が浮かぶ。
「あれ? でも『珊瑚』って・・・豊洲の海にもいるの?」
〈〈〈〈〈「「「・・・・・・・・・・・・」」」〉〉〉〉〉
「・・・この中で、野生の珊瑚見たことある人!」
とりあえず長谷川が迷った時恒例のアンケートを始めてみると、意外にも観客席からの挙手は多く、ざっと全体の半分以上を占めていた。
ちなみにステージからは、ちゃっかりと厘が手を挙げていたりする。
「おぉ~、半分以上! 皆さん環境ええっすねぇ~。小歩路さんも挙げてるし・・・。じゃあその中で『豊洲で見た』っていう人!」
〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・〉〉〉〉
「一斉に手が下がったし・・・。あっ、と言うかその前に。豊洲の海潜ったことある人♪」
〈〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・〉〉〉〉〉
「こっからやんか! 問題!!」
〈〈〈〈〈アッハッハッハッ!!〉〉〉〉〉
その後長谷川が何処で珊瑚を見たのか尋ねてみれば、返ってくる返事は沖縄やハワイなどの南国地ばかり。
中にはかなりレアな例として、オーストラリアのグレートバリアリーフやら、地元の水族館などという変わり種の声も返ってはきたが、やはり『豊洲』と答える者はおらず。
挙句の果てには豊洲在住の観客から『クルージングはするけど、海には潜らない』とまで言われてしまい、その男性が踏ん付けた珊瑚の出所は、一切不明となってしまった。
そもそも、はたして豊洲の海の環境は、珊瑚が暮らしていけるようなものなのか。
その辺りがまず怪しい。
「ちょっとー・・・、珊瑚は無理な気ぃする・・・」
「あっ、豊洲だと?」
「うん。だって・・・寒いやん。関東・・・」
「確かに・・・。私も『珊瑚』って聞くと、南の海のイメージがある・・・」
〈〈〈〈〈あぁ~・・・〉〉〉〉〉
実際先ほど上がった例を踏まえて考えても『水族館』以外に挙がっていたものは、全て南国地帯。
さらにダイビングでの経験が長い厘は、こんな推測を熱く語り始めた。
「それに海底も違うやん? 沖縄とかってもう・・・『砂!』っていう感じの海底やけど・・・。東京湾って・・・『泥に砂混ぜた感じ』いうか~・・・。『サラッ』よりは『ドロッ・・・』みたいな・・・」
〈〈〈〈〈ハ、ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「! あっ・・・! みんな、違うよ!? 別にウチ『東京の海底汚い』言うてるんと違うからね?!」
〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉
「キレイよ?! キレイ!! 東京湾も・・・! めっちゃキレイな泥やから・・・!!」
「き・・・『キレイな泥』って・・・」
「!! だってさとっち! あんさん昨日、ホテルでハマグリのお吸い物食べたやろ!? アレここで獲れた魚介類やったやん!!」
「ぁっ・・・」
「あと他何獲れるんやったっけ・・・? アサリとか~・・・。キスとかコチとかカレイとか・・・めっちゃ美味しい魚介類、みんなここで獲れるんやろ?!」
〈〈〈〈〈うんうんうん!!〉〉〉〉〉
「だから海はキレイなんよ。泥もキレイ。・・・でも珊瑚が暮らしていける環境とは違うから、そういうのは生きていけへんのよ。・・・逆に今挙げたの、カレイ以外は沖縄居てへんからね?」
〈〈〈〈〈! えぇ~?!〉〉〉〉〉
「ホンマよ? 違う種類やったら居てるかもしれへんけどね? ・・・・・・そう・・・。ほら、よう詩人の言葉で言うやん? 『みんな違って。みんないい』みたいな・・・。あれとおんっなじやと思うの、ウチ・・・。砂の環境やないと生きてられない命もあるし。泥の環境やないと暮らしていけない命もあるから・・・・・・。だからここには珊瑚は居てない。・・・そういうことなんと違うかな~」
〈〈〈〈〈「「「・・・・・・・・・・・・」」」〉〉〉〉〉
「・・・とかってウチ、めっちゃ図々しく語ってもたけど・・・。大丈夫やったかな? ハハハ・・・」
その次の瞬間。
突然会場全体から大きな拍手が巻き起こり、驚いた厘は思わず『えっ?』と、会場を見渡す。
拍手をしていたか客の顔には、まるで厘の話に共感するかのように頷く者。
笑みを浮かべる者。
さらには感動のあまり泣き出す者など、その反応は人それぞれであった。
そして毎度のことながら、語っていた当の本人は、一体なのがそこまで感動めいたものだったのかを理解できず、半分戸惑ったような瞳をメンバーに向けていた。
「えっ・・・? な、なんで?? なんでみんな拍手してるん・・・??」
「いや、小歩路さん! 素晴らしかったっすよ!!」
「私ちょっと聞いてて泣きそうになっちゃった・・・」
「えぇ~っ!? なんで? なんで?? どないして?!」
「いやいや。今のはそれくらい熱いスピーチでしたよ。小歩路さん」
「えぇ~? そんな・・・、ウチ当たり前なこと言うただけなんに・・・」
「ソコがまたいいんじゃなーい!! そんな『当たり前なこと』、今の私達は忘れかけてるんだもん・・・。それを熱く語った小歩路さんはスゴイよ!!」
「そう・・・?」
しかしそんな厘のスピーチで湧いていた会場は、次の手神の一言によって、一瞬にして冷め止んだ。
「ところでー・・・。結局その珊瑚は何だったの?」
「「あっ・・・」」
〈〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・〉〉〉〉〉
「そんなん知らんわ!! どっか潮に流されてきたんちゃう!?」
〈〈〈〈〈ハッハッハッハッ!!〉〉〉〉〉
「いや、でも・・・! あそこだい~ぶ海岸から離れてますよ?!」
「ほな突風違う?! 竜巻とか!」
「いや『突風』って・・・! 一番珊瑚がいるとこで近いの沖縄っしょ?! めっちゃ無理あるやん!」
「じゃあ台風よ! 台風!!」
〈〈〈〈〈台風ッ・・・!〉〉〉〉〉
「せやせや! 台風!!」
「『台風』ってソレ、去年じゃないっすか! しかもどんだけ運んできてんねん!! そんな風の威力あるんやったら、どっかん家のシーサーまでこっち飛んで来てんでぇ?!」
〈〈〈〈〈「「「アッハッハッハッ!!」」」〉〉〉〉〉
もちろんそんなのは冗談の範囲内での推測であり、その珊瑚の大きさや形などから想像するに、一番可能性として高かったのは、海沿いの店屋限定のあるものであった。
「これ、アレじゃない? ・・・ほら。よくお土産屋さんとかに売られてる・・・貝殻とかの詰め合わせみたいなの」
〈〈〈〈〈あぁ! あぁ!〉〉〉〉〉
未佳が予想したのは、よく海沿いでの土産屋などに売られている、宝貝や巻き貝などの貝殻が箱詰めされた定番の土産品。
透明なプラスチックケースに箱詰めされているそれは、中の貝殻の量もケースサイズで選べ、値段もかなりお手頃。
あらに洗面所や玄関などに飾れば、それなりのインテリアとしての価値も出せる。
一般的にはその海で獲れた貝殻などが詰められているが、ものによってはその場所以外の貝殻を詰めていることもある。
そして何より、最近のその貝殻の詰め合わせには、他に白骨化したウニの殻や、ヒトデ。
そして例のアレも入っていた。
「アレって確かー・・・珊瑚って入って」
〈〈入ってる! 入ってる!!〉〉
「入ってるよね? 私アレの詰め合わせのだと思う。大きさもこれくらいだし・・・形もキレイだから。踏まれてるけど・・・」
〈ガクッ・・・!〉
〈〈〈ドンマイ! ドンマイ!!〉〉〉
「確かにあそこー・・・。一応『一般通路』やもんね」
「うん。・・たぶん開けた拍子に『ポロッ』ってなっちゃったんじゃないかなぁ? 結構アレ、ギュウギュウ詰めに入ってるし・・・」
ちなみにあの詰め合わせがギュウギュウ詰めにさえている理由は、余計な振動などで貝殻が空きスペースから動き、割れてしまうのを防ぐためである。
なので購入時にソコソコ乱暴な開け方をすると、その勢いのまま中の貝殻が飛び出してしまうことがあるのだ。
しかし長谷川の予想はそんなウッカリとしたものではなく、かなり人為的な予想を出してきた。
「いや・・・。案外『誤って』じゃなかったりするかもしれないっすよ?」
「・・・はっ? ソレって、何? 誰か人転ばそうとして落としたってこと??」
「いや、そういうのじゃないっすけど・・・。アレって商品名『貝殻の詰め合わせ』じゃないっすか。だから案外・・・。『え゛っ・・・? 別に貝だけでいいし・・・。珊瑚要らん・・・ポイッ』みたいな」
「ちょっ・・・!!」
〈〈〈〈〈「「ハッハッハッハッ!」」〉〉〉〉〉
もちろんどちらの予想が真実であるのかは、実際の落とし主以外、永遠に謎のままである。
『誤字』
(2001年 8月)
※大阪イベント会場 楽屋控え室。
さとっちの母
「あっ! そういえばあんさんが『栗野さん』やったっけ?」
栗野
「あっ、はい。私が栗野ですけどー・・・」
さとっちの母
「あんさんマネージャーなのに、一体どういうつもりなん?!(怒)」
栗野
「えっ?! ど・・・『どういう』って・・・(困惑)」
さとっちの母
「息子のマネージャーでもあろう人が『“アレ”はどういうつもりなんか!?』って言うてんねん!!(激怒)」
さとっち
「ちょっと待ってや、オカン! 栗野さんは普段は坂井さんのマネージャーであって、僕にはマネージャーなんて居てへんよ!! 大体『アレ』って何のこと・・・?!」
さとっちの母
「そら会場のあっちゃこっちゃに貼られてるポスターのことに決まっとるやないの!(当然)」
さとっち
「ぽ、ポスター・・・?」
さとっちの母
「栗野さん。改めてあなたに言わしたりますけど・・・」
栗野
「あぁっ・・・、はいっ!(@_@;)」
さとっちの母
「私の息子は・・・」
栗野
「・・・はい」
さとっちの母
「名前に『志』の字は付かへんのよ!!(ズバッ!)」
みかっぺ・さとっち・栗野
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
さとっち
「アレは俺のアーティスト表記名やァ!!(怒) バンド活動中はコレで合ってんねん!! コレで!!(言聞)」
みかっぺ
「えっ? ・・・さとっちアレ本名じゃなかったの?!Σ(゜゜;)」
さとっち
「おい、今更かい・・・(″-.-)」
ついこの間言うたんに・・・(By さとっち)