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104.さとっちのデコメ画像

ステージ上でのリハーサル終了後。

栗野が楽屋へとやってくるまでの間、未佳達は再び、ファンよりプレゼントされた紅茶などで、ティータイムを満喫していた。

ただし今度はこのすぐあとに昼食が控えていたので、出来るかぎり茶菓子を挟まない程度のティータイムである。


そしてそんなティータイムの最中。

ふっと何やら携帯電話で作業を行っている様子の未佳に、リオは横目で視線を送る。


〔・・・・・・・・・〕

「・・・・・・・・・」

〔・・・・・・・・・〕

「・・・・・・・・・」

〔・・・・・・・・・何やってるの?〕

「・・・う~ん・・・。ちょっとね~・・・・・・」


そんなハッキリとしない返事を返しつつ、未佳はなおも携帯を操作する。

どうやら何かを携帯で製作しているようだが、椅子よりも微かに高いくらいしかないリオの身長では、未佳の持つ携帯の画面はまったく見えない。

そもそも未佳の顔と携帯との距離から見てみても、両者はほぼ目と鼻の先。

さらに携帯の画面がやや天井側に向いてしまっているのだから、下にいるリオには当然見えるはずもなかった。


〔ねぇ、見せて!〕

「ちょっと待って。完成したら見せるから・・・」

〔か・・・、完成?〕


ということは、やはり何かを作っているらしい。

それからしばらく経たぬうちに、未佳はそっと周りに気付かれぬよう、右手に持った携帯を足元の方へ。

そして足元にいたリオに、その問題の画像を見せ付ける。


〔ん? ・・・・・・・・・!!〕


一瞬、コレが一体何の画像であるのか、リオにはよく分からなかった。

ただ携帯の画面いっぱいに、ほんの少しだけ見覚えのある写真が映し出されているだけ。

そう思ったのだ。


しかしよくよくその周囲に目を向けてみれば、その画像は至るところに、未佳の手によるいたずら書きがされていた。

それも全て、携帯のデコメ機能やスタンプなどによって、である。


〔こっ、コレ・・・! えっ・・・、えぇっ?!〕

「ヘッヘヘ~ン♪ 力作」

〔いや『力作』っというか・・・!〕


明らかにこの写真に映っている人物は怒るだろう。

ただでさえこの写真は、本人からの評判がかなり悪いというのに。


そしてそんなリオの予想を知ってか知らずか。

未佳はこともあろうに、その写真を一番見せてはいけない人物へと見せ付けた。


「ねぇ~、さとっち~! コレ見て見て~!」

「・・・ん? なんです?」

「ジャッジャジャーン!!」

「ん? ・・・・・・・・・」


そんな言葉での効果音付きで見せ付けられた画像だったのだが、どうやら長谷川自身も、これが一体何の画像であったのか。

一瞬、パッと見せられただけでは理解できなかったらしい。

その後しばししかめっ面のような目付きで画面を覗き込んだ後、ようやくその内容を理解した長谷川から、予想以上の大声が上がった。


「!! ・・・ア゛ァ゛ーッ!! ちょッ、ソレ!! その元写! 僕がホテルで突き倒された時の写真じゃないっすかぁっ!!」


そう長谷川が画面を指差し叫んだ通り、未佳の携帯画面に映し出されていたその画像は、初日に未佳に突き飛ばされ転倒した際の、あの大の字長谷川の姿だった。

だがその写真自体は、一応初日の時点で、長谷川自身もそんな内容のものなのかは確認している。

そのためたった今見せられた際も、長谷川は『その写真・・・まだ消してなかったんかいな』と呆れた程度で、写真に未佳が施した飾りには、一瞬気付かなかったのだ。


しかしよくよく辺りに目をやってみれば、転倒した長谷川の周りには、何やら巻貝やら熱帯魚やら珊瑚などのデコスタンプ。

さらに足元の辺りには、あの時手神が成り行きで名付けた『長谷川ヒトデ』というあだ名が、何ともムカつくほどに可愛らしい丸太文字で書き込まれている。


挿絵(By みてみん)


「そう♪ この間の写真、ちょっとデコってみたの~♪」

「デコるなア゛ァ゛ァーッ!!」

「えぇ~っ?! なんで~!? スッゴイ可愛いじゃなーい」

「何処がやァ!!」

「だってスタンプとかデコ文字とか・・・、色々やったんだよ? あと逆光と肌色も」

「それが一番カンに障んねん!!」


実は長谷川が一番その写真で『イラッ』としたのは、逆光補正と一緒に写真全体に施されていた、肌色補正機能である。


一応逆光補正については、あの辺りの照明がやや暗めであったり、たとえ多少の変化であっても、そちらの方が写真が生えて見えるなど、それなりの使用価値はある。

事実たった今見せられた画像も、不本意ながら最初に見たよりはかなりキレイだ。

さすがは、進歩した補正技術であると思う。


しかし肌色補正に関しては、写真に写り込んでいる人間側からして納得がいかない。

そもそもこの写真の中で、長谷川の肌が露出しているのは、広げられた両手と首の後ろの、たった3箇所のみ。

にも関わらず、未佳は肌色補正機能を使用したのだ。


しかも本来この肌色補正機能は、人の肌の色を自然な色白。

つまり白く美しく見せる機能であるはず。

元々極端に肌が白い長谷川の場合、おそらく機能上では変化させないか。

あるいは特に意味もなく、余計に肌の色を白っぽくしてしまうかの、いずれかであるはずだった。


しかしいざ補正されたその3箇所を見てみれば、長谷川の肌は、あえて人並み程度の色白。

つまり、やや肌に茶色が重ね塗りされているような、この機械的には異例な補正が施されていたのだ。

これは、明らかに機能側が、長谷川の肌の色を『異常』と判断しての補正である。


無理に補正機能を施す編集機能も考えものだが、勝手に肌の色を『異常』と判断し。

挙句人並み程度の色に塗り変えられてしまうというのも、こちらとしてはかなりカンに障る。

特にこの色白は、長谷川自身最大のコンプレックスであるというのに。


「ったく・・・。一体何を考えてんねん」

「だってさとっち、肌白すぎなんだもん! 逆光補正したら余計にバランス悪くて」



ゴンッ!



そう率直に思っていたことを言い述べられると、それはそれでグサリッと突き刺さるものがある。

そんな未佳の発言に顔面からテーブルへ倒れていると、ふっと隣でその話を聞いていた手神が、それとなく未佳の携帯の方に視線を送った。


「・・・・・・・・・何? それ・・・」

「うん? あっ! ねぇ~、見て見て、手神さん! 昨日のさとっちの写真デコり♪♪」

「ん? ・・・フッ、ハハハ!! コレは面白いなぁ~! ハハハ!」

「何処がぁっ?!」

「でしょ~!? 本当は周りキラキラか、あるいは泡フレームにしようかと思ったんだけど」

「きっ・・・『キラキラ』?! あっ・・・『泡フレーム』?!」


一応ニュアンス的にどのようなものであるのかは想像が付いたが、それを行ったら行ったでかなりえげつないものになるような気がし、長谷川は寒気を覚えた。


「でもそれやると、さとっちの手のひらが切れちゃうんだよねぇ~・・・。だから止めた」

「なるほどなぁ~・・・」

「いやっ・・・! もっと他に止める理由あるやろ!? しかも手神さん、そんな納得したような返事を・・・!」

「えっ・・・。ねぇねぇ。ウチにも写真見せてぇ」

「さっ、小歩路さんまで・・・!!」

「あ、いいよ。ほら♪」


そう言って未佳が携帯ごと手渡すと、厘も最初は面白おかしそうに笑い。

そしてその後にはダイビングとしての知識からか、こんなことを口にし始めた。


「ふ~ん。このお魚さんと珊瑚はよう分からんけど・・・。このヒトデ、イトマキヒトデとアカヒトデやね。それとこのウニは~、・・・色からしてムラサキウニなんかなぁ~?」

「この巻貝は明らかにサザエよね?」

「うん。僕もそれはそう思った」

「あっ。それは確かにそうやね。フタ付いてるし・・・」

「どうでもええわ!! そんなん! 坂井さん、今すぐソレのデコ編集解除してください!!」


とうとうデコ写真にブチ切れた長谷川から、完全なデコ削除の一声が上がった。


しかし削除を言われた当の未佳本人は、相変わらず非難げな表情を浮かべて、厘から受け取った携帯を握り締める。


「えぇ~っ!? ヤダァ~! 私スッゴイ頑張ったのにぃ~!」

「百歩譲って写真は残しといてもいいっすよ? でもデコ画はNG!!」

「・・・・・・しゅん・・・」

「ほら。泣いたフリしてもダメ!」

「しくっ・・・しくっ・・・」

「ちょっとさとっち。そんなに言うたらみかっぺが可哀そうや~ん!」


堪らず厘が間に口を挟むが、長谷川の態度は一向に変わらず。

挙句の果てには『ふんっ』と首をそっぽに向けてしまった。


一方の未佳も、さすがにこれは言われた通りにした方がいいと判断したらしく、再び携帯の操作ボタンをカチカチと押し始める。

ただし相変わらず、嘘泣きの仕草は行ったままだ。


「しくっ・・・しくっしくっ・・・・・・。もういいもん・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「写真・・・。『お預かり』に送ったから・・・」

「・・・・・・・・・・・・えっ?」


その最後の一言に、そっぽを向いたままであった長谷川は『ガバッ!』と、未佳の方を振り返る。

するとそこには、つい先ほどまで弱弱しげな少女を演じていたはずの未佳が、堂々と冷めたような目つきで、長谷川以外の周囲を見渡していた。


その顔付きと様子から察するに、明らかにこちらよりもキレている。

仮にキレていなかったとしても、キレる寸前だ。


内心『なんで被害者側がキレられなければならないのか』と思いつつ、とりあえず長谷川は、今未佳が口にした言葉の真相を確かめるべく、恐る恐る確認する。


「お・・・『お預かり』って。もしかして携帯の・・・『お預かりセンター』のこと・・・っすか?」

「他に何があるのよ」


恐ろしいまでに冷め切ったような声でそう返され、長谷川は身の毛もよだつような感覚と、その未佳の行動にただただ絶句した。


ちなみに携帯の『お預かりセンター』とは、携帯内で保存しておきたいデータなどを、携帯会社のお預かりセンター。

もしくは自宅のパソコンなどに、ネットワークを通じて送信・保存することができる、画期的なシステムのこと。

一応この機能を行うためには、予め保存先のアドレス登録や、送信する際などに発生する料金登録などが必要なのだが、これを行っておけば、万が一携帯側のデータが消えてしまっても、預け先から再び取り込み直したり、回覧することが可能となる。


つまりこの場合、たとえ未佳がこの場でデコ写真を消したとしても、写真のデータ自体は、未佳が登録している保存先に残ってしまい、完全な削除とはならないのだ。


その未佳の行動に、長谷川は『これは一本やられた!』と、右手で目元を覆いながら宙を仰ぐ。


「・・・・・・送り先何処っすか・・・」

「・・・聞いてどうすんの?」

「いや、消せそうな場所なら足を運ぼうかと・・・」

「ふ~ん・・・・・・。私のパソコン」

「・・・・・・・・・・・・」


もちろん保存先の場所に関しては一切期待してはいなかったが、これで長谷川からの打つ手は完全になくなった。

さらにそんな長谷川の立場をいいことに、未佳は突然『コロッ』と態度を変え、仕舞いには手神や厘にこんなことを言い出し始める。


「ねぇー♪ ねぇー♪ 何ならこの写真、赤外線で二人に送ろっか?」

「えっ? いいの? ・・・でも長谷川くんが・・・」

「いいの。いいの。向こうもう諦めてるから」

「!! いや、諦めっ・・・! ・・・・・・ってるに等しいか。もう・・・」


さすがに高々デコ画像1枚で言い争うのにも疲れたらしく、長谷川は渋々『もうお好きにどうぞ・・・』と、口を開く。


すると長谷川からの許可で気をよくしたのか、手神は遠慮なく『じゃあ送ってくれる?』と、素早くスマホを取り出す。

なんでも、今手神が担当している事務所のアーティスト育成スクールの生徒達に、この写真を見せたいのだという。


「でもなんでこんな写真?」

「うん? いやさぁ~・・・。自分が指導者側に立つと分かるんだけど。そういうのを数える先生とかって、ついつい熱が入っちゃうじゃない? 中には大学生くらいの子もいるのに、ちょっとできないからってムキになったりすることもあってさぁ~・・・」

「あっ・・・。さては手神さん。2月の担当で生徒達に怒鳴ったやろ?」



ズルッ・・・!



「!! ひっ、人聞き悪いなぁ~、小歩路さん。僕じゃないよ! 他の先輩先生方!!」

「う、うん・・・。それで?」

「ん? で、ほら。僕は特に怒鳴ったりしない方・・・だと自分では思うんだけど。周りの受講生達は、指導者が教室に入ると妙にその・・・。強張るというのか。緊張し始めるというか・・・」

「「「あぁ~・・・」」」

「分かるだろ? 『指導者を避ける』とまではいかないけどさ」

「恐がるんよね? 余計に・・・」

「・・・そうそう。受講中と休憩中のメリハリが付けられないんだよなぁ~。特に2時間同じ教室を跨ぐような授業で、休憩中受講者達と教室に残ったまんまだったりすると・・・」

「「「あ゛ぁ゛~・・・」」」


その手神の話に、3人はまるで苦虫を噛んだような表情で頷き返す。

特にそのスクールの卒業生でもある未佳にとっては、それらは経験上的にも身に覚えがある。


未佳がスクールに身を置いていたのは、今から約12年ほど前。

その当時は通っていた大学との併用で授業を受けていたのだが、その頃から指導者側の人間には一部厳しい指導者もおり、絶えず緊張感にさらされていた。

また『スクールに入ったからには・・・!!』と、スクールへの意欲を注ぎ過ぎた分、休憩時間中にも関わらず、上手く息抜きができずにいたこともある。


一応『そこまで厳しくもない指導者にまで緊張していた』などということはないが『受講者が指導者を恐がる』と言った状況に関しては、今も12年前も変わっていないらしい。


「それ・・・、私が生徒だった時からあるよ? さすがに優しい先生にまで、怯えてたことはないけど・・・。でも一回誰かが怒鳴られてる姿見たりとかすると、ちょっと全体的に引っ込み気味になっちゃってたかな?」

「やっぱりそうなんだ・・・」

「うん・・・。それで? なんでその写真をスクールで?」

「いや・・・。少しでも受講者とのコミュニケーションとか、休憩時間中の息抜きの一環にならないかなって・・・。ほら。こういう写真とか見せると、何となく場の空気、明るくなりそうだろう? 僕のことも、恐がらなくなりそうだし・・・」

「あ~ぁ・・・。確かにせやね。それにそういう携帯の写真飾りって、今若い娘みんなやってるやん。なんか話も合いそうやもんね」

「う~ん・・・。でも私のじゃあ、まだまだ今の若い人達よりもアナログデコかも・・・」

「だとしても、よ。話の種には、めっちゃいいんちゃう?」

「・・・・・・そうね。私も受講者時代、そういうこと先生達にしてほしかったな~・・・。それだったら、そこまで先生達を恐がらずに済んだのに・・・。手神さん。その作戦、すごくいいと思うよ?」

「そう? じゃあ早速、来週コレでやってみるよ。・・・有効かどうかは、その反応次第だね」


手神はそうニッコリと微笑むと、赤外線送信を終えたスマホを、元あったシャツの胸ポケットの中へと仕舞い込む。


その作業中、先ほどまでしばし黙り込んでいた長谷川が、ふっとこんな不安を言い零す。


「でも大丈夫っすかね? その画像・・・」

「ん? ・・・何が?」

「だって・・・。生徒側からしてみたら『尊敬すべき先輩アーティストが』ですよ? 『仕事先でふざけたデコ写作ってる』って・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・ぷっ」

「「「「ハッハハハハッ!!」」」」


その瞬間、4人は気持ちを堪え切れず、ただただ大声を上げて笑い出した。


「『仕事でふざけてる』って、こっ・・・! こんなのいつものことじゃなーい!」

「「「ハハハハッ!!」」」

「このくらい先輩達でもやっとるよねぇ~?」

「ねぇ~??」

「単なる“日常風景”」

「「「ハハハッ」」」


そんなこんなで一頻り笑い終えた後、未佳は携帯をポケットに仕舞いそうになって『あっ・・・』と長谷川の方に視線を移す。


「ところでさとっち」

「ハハハ・・・ん?」

「一応聞くけど、デコ写(コレ)いる?」

「・・・は?」

「あっ、いらないね。よし!」

「・・・・・・・・・・・・」

「小歩路さんは? 赤外線する~?」

「えっ? 『赤外線』って何??」



ドテッ!!



ふっとその場に倒れたあとで『そういえば何となく予想できそうな内容だったな』とも思ったのだが、それは時既に尋ねたあとだった。


「せ・・・『赤外線』っていうのはね。携帯の『赤外線送信』か、あるいは『赤外線受信』っていう機能のことなの。たぶん、メニュー画面の『Lifekit』とか『便利ツール』とかいうところに・・・」

「あっ、あった! 赤外、線・・・受信。・・・コレ?」

「それ! それを押して受信状た・・・ちょっと待って。こっちがまだ設定を・・・」


こうして厘側の携帯がある程度準備し終えたのを確認し、続けて未佳も『赤外線送信』に携帯を設定する。

そしてお互いが『受信・送信』という設定になると、二人はお互いの赤外線パネルに携帯を向い合せた。

双方の携帯画面に表示された黒いグラフが、左側から見る見るうちに水色に染まっていく。


それから待つこと数秒。

やがてグラフ全体が水色に染まったその瞬間、厘の携帯から『受信を完了した』という意味のメロディーが鳴り響いた。


「・・・はい♪ コレでOK!」

「写真何処に入ってんの?」

「たぶん・・・。いつもの写真仕舞ってるところの『iモード』じゃない? それかもしくは『外部取得データ』」

「・・・・・・あっ、あった。『iモード』んところに」

「よし。じゃあこれを機会に小歩路さん、赤外線のやり方、覚えた方がいいよ? メールとかで一々画像送ってもらったりすると、料金かなり掛かっちゃうから・・・。コレならそんなに掛かんないもん」

「へぇ~・・・・・・。携帯ってホンマに便利なんやね~。・・・別にウチ、まだガラパのまんまでええわ」


厘はそう言って、自分の携帯を顔の右横に当てながら、ニッコリと微笑んだ。

確かに、普段の厘の携帯使用頻度や機能などを考えると、彼女はまだガラケーのままでいいのかもしれない。


フスマ(・・・)の方が扱いにくいもん」

「あの・・・、だから小歩路さん・・・。『フスマ』じゃなくて『スマホ』っすから。わざと間違えてるでしょ?」

「『わざと』違うもん! それに『スマホ』よりも『フスマ』の方が言いやすい!!」

「いや! 『言いやすい』とか『言いにくい』とかの問題じゃあ・・・!」

「まあ確かに・・・。スマホの使い方はフスマみたいだけどね? 横に『シャ~・・・』って」



ズルッ・・・!



ふっとその未佳の発言を聞いて、長谷川がやや足を滑らせた、その時だ。



コンッ コンッ



「あっ、はーい」

「お待たせしました~。栗野です~。これからレストランに向かいますので、皆さん貴重品などを持って、外に出てくださ~い!」

「「「「はーい!」」」」


ようやく待ちに待った栗野からの呼び出しに、4人は既にまとめていた手荷物を手に、一時楽屋をあとにした。


『お盆』

(2004年 8月)


※厘の実家。


(はぁ~・・・。今日でお盆休みもおしまい。明日は家に帰らへんとなぁ~(しみじみ))

「・・・・・・・・・・・・ん?」


※ふっと、祖母が何かを作っていることに気付く厘。


「おばあちゃん、何作ってるの?」


厘の祖母

「ん? あぁ、コレ? これは『精霊馬』言うてな。お盆で帰ってきた魂を、元の場所へ帰すための、乗り物なんよ~。・・・・・・ほら。こうやって、茄子に棒を刺して、牛の形にするんよ」


「あっ! それ見たことある! それキュウリのもあるよね」


厘の祖母

「あぁ~。キュウリのやつは馬で、魂を早く連れてくるやつなんよ。だから、よくお盆の始めに、仏壇とかの前に飾られてるやろ? 逆に牛は、帰りはゆっくりでええから、牛なんよ」


「へぇ~・・・。初めて知った~m(._.)m じゃあ今おばあちゃんは、みんなの魂の分を作ってるん?」


厘の祖母

「そ~うや。ウチのお父ちゃんやお母ちゃんに、上のお姉ちゃん。それからー・・・」


「ん?」


※ふっと、牛に混ざってキュウリの馬があることに気付く厘。


「あれ、おばあちゃん・・・。キュウリの馬って、お盆の最初に飾るやつなんやろ? なんで馬も作ってるの??」


厘の祖母

「うん? ・・・・・・あぁ~。それはおじいちゃんのやつ」


「『おじいちゃん』って、ウチのひいおじいちゃん?」


厘の祖母

「うん、そう。・・・・・・『それに乗って早よ帰れ(爆)』ゆう」


「ドテッ!!(倒)」



お、おばあちゃん・・・(汗)


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