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「あっ・・・。あれ海ちゃう?!」


ふっと自分の二つ後ろの座席から聞こえてきたその声に、未佳はしばし下に向けていた顔を上へと上げる。

その声の張本人である厘は、先ほどの長谷川同様、前の座席の背凭れ。

つまりは長谷川の背凭れなのだが、そこから上半身を乗り出すかのような体勢で、窓の一点を指差していた。


そのあまりにも興奮し切っている声と、窓を指差す仕草に、長谷川や手神。

そして皆より1テンポほど遅れながらも、未佳もその方向に視線を向けてみる。


だが厘が指し示す方向から望めたのは、何やらかなりゴツゴツとした赤褐色の岩と、その岩の周りに多少生えている青々とした植物のみ。

とりあえず青い空は見えるのだが、肝心の海の姿は何処にもない。

『もしや反対側なのか?』と、スタッフ達が座っている反対側の窓も見ていたのだが、反対側の窓からは高層マンションの群れが見えるだけで、やはり海の姿は何処にも見当たらなかった。


「ん・・・? ・・・・・・どこ~? ・・・何処にも海なんて見えないよ~? 小歩路さん・・・」

「こっちも見えん」

「僕のところも・・・」

「小歩路さん・・・、何かと見間違えたんじゃない?」

「えっ? でも今の絶対海やったよ?! 今そこから碧いのが・・・!」

「はいは~い。・・・お姉さん、大丈夫」


ふっと皆から疑いの目を向けられていた厘に対し、運転がサイドミラー越しに微笑みながら言った。


「そちらのお姉さんが今おっしゃっていたことは、本当のことですよ~? あのちょっと前の道路をカーブした辺りで、ほんの少しだけ見えるんですよね。海が・・・」

「えっ? そうなんですか?」

「は~い。ただほんの数秒の眺めなんでっ、すぐに今見えている岩に隠れてしまうんですよねぇ~、これが・・・。でもご心配なく・・・。この先ちょっと進んだ辺りで、最っ高の海が望めるエリアに出ますから」


どうやら、この運転手が最初に言っていた『海が望めるオススメの場所』とは、この先の岸壁を抜けた辺りにあるらしい。


確かにそう言われてみれば、この赤褐色の岩や周りに生えている植物などは、よく南国の海の近くなどで目にするものだ。

特にこの岩のゴツゴツ感に関しては、前にテレビで『押し寄せる波や潮風によって削られたもの』と、紹介されていた。

ということは必然的に、このすぐ裏手には海が広がっている、という計算になる。


「ごめ~ん、小歩路さーん。疑って・・・」

「えっ? ・・・あっ、ええよ、別に。気にしてないもん。・・・それよりー・・・。また海見られるんよね??」

「はい。ここからが本命です~♪」

「よかった~。海のポイント、知らぬ間にすぎてしもたんかと・・・」

「ハハハ。んなアホな・・・」

「ちゃんと運転手さんが教えてくれるわよ。ですよね?」

「は~い。・・・しっかりちょっとビックリしましたね~」


ふっとそんなことをいきなり言い出す運転手に、未佳達は『?』と、顔だけでその内容を聞き返す。

すると運転手は半笑いしながら、またサイドミラー越しに厘を見つめて言った。


「いやね? なんかお姉さん、さっきからず~っと下向いて本読んでたもんですから。てっきりあのちょこっとしかない景色には気付かないだろうと思ってたんですけど・・・。そしたら気付いたのお姉さんだけだったもんですから」

「確かに! 何? たまたま窓の外見てたの?」

「ううん、違う。なんか下向いてたら、すぅーって・・・。めっちゃいいお潮の香りがして」


いち早く海の存在に気が付いた厘が言うには、その例のカーブにバスが差し掛かった際、微かに窓辺から潮風の香りが漂ってきたのだという。

そしてその香りに気付き、顔を上げてみたところ、案の定海が見えたとのことだった。


だがその厘の話には、一つだけ疑問に思う箇所がある。

それは『潮の香りがした』という、厘のその証言だ。


というのも厘の座席の窓は、他の人達の窓側同様、しっかりと鍵まで掛けた状態で締め切っている。

当然、外のにおいなど入ってくるはずもない。


さらにこのバスに設置されているエアコンは、通常のように『走った勢いで風が入ってくる』というものではなく、バス専用のエアコンが別途で取り付けられている。

よって頭上の換気口からも、潮の香りが入ってくるなどということは考え難い。


そうなると最後に残る可能性としては、厘の座席の前後に座っている長谷川、もしくは手神のどちらかが、座席の窓を一時的に開閉した場合。

この場合であれば『潮風の香りがした』という厘の証言にも納得がいく。


だが。


「さとっち達、1回あの辺りで窓開けた?」

「んな開けるわけないやないっすか~」

「外は晴れてても、気温的にはまだ寒いからね。・・・冷えると嫌だから、開けてないよ?」

「じゃあ・・・・・・えっ? 小歩路さん、何処から潮の香りがしたの??」

「だから、窓の辺りからすぅーって・・・。えっ? みんな香りせぇへんかった??」


まさかの『潮の香りに気が付いたのは自分だけ』という結果に、厘はやや驚きながらメンバーの顔を交互に見渡す。

実はこの時、潮の香りに気付かなかったのは窓側に座っていた未佳達だけではない。

その厘の隣に座っていた日向もまた、この潮の香りには一切気付かなかった、とのことだった。


「私、厘さんの隣に座ってたのに・・・」

「小歩路さん、嗅覚犬並っすねぇ~」

「・・・えっ? それって褒めてんの??」

「ところでそっちは気が付いた?」

「いや、僕もまったく・・・。長谷川くんは?」

「・・・僕前方と後方からローズとミントの香りが」

「あっ、ごめん・・・。『ローズ』たぶん私だわ」

「ムッ」

「・・・へっ? もしかして『ミント』って、ウチの香水?」

「他に誰がおんねん!!」


そんな長谷川の叫びがバス内に響き渡った、ちょうどその時。


運転手が横目でチラリと、左窓の方を一瞬確認。

そしてその景色から見えた何かをチェックすると、バスの中で使用している無線を手に取り、先ほど同様明るい感じの声で言った。


「はい♪ 皆様、お待たせしました~。左車窓にご注目ください。これから海が見えてきまーす♪」

「「おっ!」」

「どれどれ~??」

「あの岩のちょうど抜ける辺りちゃう?」


まさに厘がそう口にして岩を指差した、次の瞬間。


今まで視界を遮っていた岩が突然消え、窓いっぱいに広い海と青空が広がった。


「「「〔「うわぁ~っ!」〕」」」

「「キレーイ♪♪」」


その車窓の景色に、思わず4人と一人の口から歓喜の声が上がる。


窓の外に広がっていたのは、ホテルのカフェテリアで見たあの海と、少しだけ白い雲が浮かんでいる真っ青な青空。

さらに車窓の手前辺りに続いている白いガードレールも、まるで何かの映画のワンシーンを思わせるかのように、この景色の良さを引き出していた。


「わぁ~、いい眺めねぇ~」

「海と空がいいコントラストになってるわぁ~」


少々窓からは遠い通路側に座っていた栗野や日向も、この車窓の景色には感動したのか、口々に外を見つめながら呟く。


さらに運転手はここで機転を利かし、特に未佳からの指示はなかったものの、走行スピードをできる範囲にまで遅らせて走行。

そのおかげもあり、窓の外は心行くまで眺めることができた。


「キレイだねぇ~・・・」

「う~ん。ここの画のポストカードとか、あったら欲しいなぁ~・・・」

「あぁ~、いいねぇ~。・・・・・・あっ! そうだ! 写真!!」

「へっ?」

「あっ、私も忘れてた・・・。会報、会報」


ふっとその厘の発言でカメラの存在を思い出し、未佳は自分専用の。

栗野は会報誌用のカメラをカバンの中から取り出し、それを一斉に車窓の方へと向けた。

走っている関係上、下側に写っているガードレールや道路などはブレてしまうのだが、それはそれで、写真としてのいい味を出している。


ただ一つ欠点だったのは、写真を撮ろうとしている未佳達の、その環境だった。


「う~ん・・・。なんかもう何枚も撮ってるんだけど、みんな暗~い・・・」

「あぁ~・・・。バスの中が暗いからやないっすか? だからカメラから覗くと、全体的に暗くなっちゃうんじゃ・・・」

「それにそもそもガラス越しなんで・・・。ちょっと周りが明るかったりすると~、反射光とかが・・・」


さらに問題はそれだけではなく、その閉め切っていた窓ガラスには微かに、このバス室内と未佳達の姿が、まるで鏡のように写り込んでしまう。

もちろん『写り込む』と言っても、陽が落ちた夜ほどの鮮明さはないし、写り込む瞬間もまばらだ。


だがだからと言って『写り込む瞬間が長引かない』というわけではなく、走っている周りの環境によっては、長時間写りっ放しのような状況もある。

そこにこれまた写りっ放し率90%の反射光が入ってくるとなると、満足のいく写真など到底取れるはずもない。


何度かカメラを向けて迷いに迷った挙句。

とうとう未佳は、ある最終行動を取った。


「・・・あ゛ぁ゛っ、もう・・・! これじゃ埒明かない!! さとっち! 悪いけど窓、思いっきし開けるよ?!」

「えっ? なっ・・・、何ッ!?」

「喉やられたくなかったらマスクしといて!」

「い、いやっ・・・! その前に僕『開けてええ』ともっ・・・」


しかしそんな長谷川の言葉などお構いなしに、早速未佳は窓を開けに掛かる。

ちなみにここの窓は、左縁中央に小さな黒い留め具が付けられている、いわゆる一般的なバスの車窓留め具だ。


ただし留め具の固さについては、むやみに子供が開けてしまわぬよう固めに設定されているので、未佳一人の力で容易く開けられるようなものではない。

現に留め具を外そうと挟み式レバーに掛けていた未佳の親指は、指先が力の入れ過ぎによって白くなり、また親指自体は小刻みに震えていた。


そんなたかが留め具外しに苦戦している未佳を、長谷川はしばしジト目で見つめる。


「めっちゃ苦戦してるやん・・・」

「だっ、だって・・・! 固いん・・・っだもん!」

「『固い』ってことは『開けるな』っていう意味ちゃうか?」

「なっ・・・、何よ!? ソレ!」


『何ならもう一発脳天に入れてやろうか?!』とでも言い出しそうな形相の未佳に対し、長谷川はまるで他人事のように『ハハハ』と笑うだけ。


そもそも長谷川は、この未佳の『窓を開ける』という行為に対して『Yes』とも『No』とも言っていない。

もちろん言っていなかった理由は、肝心の未佳がこちらに有無を言わせず、勝手にその行動をやり始めてしまったから。

仮に未佳が『開けてもいい?』と尋ねてきたとしても、こちらの回答はどの道『No』。

やっとバスのエアコンによって温まってきた車内だというのに、こんな会場到着ギリギリになってまた冷気に曝されるなど、論外だ。


そうでなくとも、一応こちらは『コーラス』という立場。

未佳以上の徹底さはないにしろ、この喉は守らねばならない。

個人的なことでマスクを付けて歩くのは苦手な質なのだが、それならそれで必要最低限の保護管理は必要。

外の冷気など、まさに今の時期ならではの大敵だ。


だからここで未佳が窓開けに苦戦していようが、長谷川からしてみれば『どうぞ、ご勝手に・・・』という他人事意識しかなく。

むしろ『このまま開けないでくれ』とさえ思っていた。

初めのうちは。


「かっ・・・たっ!!」

「もう未佳さん諦めたら~? それ以上力入れてると、変なところ怪我しますよぉ?」


半分呆れたような感じの口調で、栗野が隣の座席からつっつく。


「だっ・・・てっ・・・、せっかくの絶景っ・・・なの、にっ・・・! 撮れないとか絶対にイヤ!!」


確かにここまで苦戦したとなると、少々開けるのを諦めてしまった方が鉄則なのかもしれない。

少なくとも何年か前の未佳であれば、止むを得ずそうしていただろう。


しかし今の未佳には、それなりの写真を諦めたくない理由がある。


(きっと『豊洲』なんて・・・、この先絶対に行く機会なんてない!!)

「・・・・・・・・・・・・」

「くぅ・・・~ッ! もうっ! なんで開かないのッ!!」


そう口にする未佳の手元をよく見てみると、レバーを親指で押し上げているところまではいいのだが、そこから先の手順が何故かおかしい。


ちなみに本来のこのタイプの開け方は、留め具となっているレバーを親指で押し上げた後、右方向に窓を引いて開ける、という仕掛け。

ただし窓自体に引くためのレバーや取っ手などは付いていないので、開ける際には窓自体に手を置き、手のひら全体で右方向に押さなくてはならない。


しかしその未佳の開け方は、何故か窓を右方向ではなく、前方に向かって押しているかのようだった。

当然、そのやり方では窓が開くわけがない。

むしろガラスの性質上、一番強度の弱い中心部を手で押す行為は、かなり危険だ。

さすがに車の窓なので粉々に砕け散ることはないだろうが、うっかり手のひらを切ってしまうほどのヒビくらいは入るかもしれない。


そのことが気になった長谷川は、とりあえず未佳に押す方向を間違えていることを伝えた。


「・・・・・・なぁ。・・・なんか前に押してへんか? レバー上げたら右に引くんやぞ?」

「分かっ・・・ってるわ・・・よっ! でも固いの!!」


ここだけの話、未佳もその開け方に関しては充分熟知している。

ついでにもっと言ってしまえば、今はその手順通りに窓を引こうとしている真っ最中だ。


しかし、思いの外レバー部分は固く、おまけにそこ一点に力を入れていると、中々窓を引く方向に力が入らない。

さらに揺れるバスの中で体勢を立て直していたりすると、これまた、レバーを押している状態を崩さないようにするので精一杯。

そんなこんなで結局思うように作業が進まず、未佳はレバーを持ち上げる段階の辺りでストップしてしまっていたのだ。


「固い~・・・ッ!」

「・・・・・・・・・」

「グイっ・・・! グイっ・・・! グイっ!! ・・・・・・もうッ!!」


何度も窓開けに苦戦し続け、いよいよ苛立ちが頂点に達し始めてきた、まさにその時。


これまで後ろで口出ししつつ傍観していた長谷川が『ハァー・・・』と深い溜息。

そしてそのままおもむろに座席から立ち上がると、未佳の座席の背凭れに体を寄り掛ける形で、長谷川がその留め具に腕を伸ばした。


「ちょっとええか?」

「えっ・・・?」

「せやからこう・・・・・・。やろんやっ・・・、ろッ?!」


そう言いながら、長谷川が左手で留め具のレバーを。

右手で窓を一気に右方向へと引っ張る。



ガコッ!



「あっ!」


ふっとその音と共に、完全に閉められていたはずの窓が6~7センチほど、右方向へとスライドした。

さらにそのスライドした窓の隙間からは、まだ3月の冷たい風と共に、爽やかな潮風の香りも漂ってくる。


「あともうちょい」

「ぐっ・・・!」


特に未佳のその言葉に合わせたつもりはないが、とりあえず長谷川はタイミングよく、今度は両手で窓ガラスを一気に引き開ける。



キュッ キュルルル・・・



「あぁっ、開いた~!!」

「ハァ~・・・。ホンマに固・・・った~・・・」

「やった~♪ さとっち、ありがとー♪♪」


やっとのことで開放された窓に、未佳が両手を叩いて喜ぶ一方。

結局未佳の行動に手を貸してしまった長谷川は、一人窓を開けるのに力を入れ過ぎた右手を左右に振る。


そしてその右手をブラブラと振っていた時。

たまたま開いた窓から入ってきた冷気が、一気に長谷川の上半身に吹き付けてきた。


「ってか・・・! 寒ッ!!」

「・・・あっ、そうだ! 写真♪ 写真~♪」

「・・・・・・やっぱ開けんかった方がよかったか・・・」


そんなことを吹き付けてくる冷気に身震いしながら呟いた、まさにその時。

何の前触れもないまま、さらなる出来事が、二人の元に降り掛かってきた。


それは、未佳がようやく開けた窓の外に向かって、カメラのシャッターを数回切っていた時。


たまたまその先の道が凹凸になっていたのか。

はたまた、路上に何かが落ちていたのか。

理由はよく分からないものの、突然未佳達の乗っていたバスが、前方向に向かって大きくガタリと傾いたのだ。


もちろんこの程度の揺れは『車の中』という環境であれば日常茶飯事。

たとえそれがベテラン運転手による運転であったとしても、それは防ぎようのないことである。


そしてその揺れが発生したまさにその瞬間。

カメラを構えたまま直立していた未佳と、相変わらず未佳の背凭れ部分に前のめりに寄り掛かっていた長谷川の身体は、一気に前方の方へと引き寄せられた。


「えっ・・・。キャッ!」

「うわっ!」

「! 未佳さんっ!!」



バンッ!!

ドゥッ!!



「み、未佳さん? 大丈夫??」

「ハ、ハハハ・・・。な、何とか・・・」


激しく前方に引き寄せられるように揺られた未佳は、運転手との境目に設けられた壁にへばり付くような大勢で、栗野に苦笑いを浮かべる。

一方の栗野はというと、とりあえず無事であったらしい未佳に安堵しつつ、呆れ返ったようにジト目で口を開いた。


「も~う・・・。ちゃんと気を付けてくださいよ~。座ってれば何ともない揺れだったのにぃ・・・」

「ハハハ・・・。・・・・・・あれ? さとっちは??」


ふっと壁から離れて正面を向いてみれば、先ほどまで背凭れに寄り掛かっていたはずの長谷川の姿がない。

一応後ろの座席にギターケースはあるのだが、その隣の座席には誰の人影もない。


「あれ? ・・・さとっち~?」

「あら・・・。いないわね」

「・・・もしかして座席の後ろに倒れてる??」


そう思い、未佳は自分の座席の背凭れから、長谷川が座っていたはずの座席の方を覗いてみる。

すると案の定、長谷川は元々の自分の座席でもあるチェアーシートの辺りに、まるで蹲るように丸くなっていた。


「あっ、いた~。ハハ、なんかさとっちボールみたぃ・・・ん?」


ふっとここで、未佳は長谷川のただならぬ異変に気が付いた。

というのもその蹲っていた長谷川は、こちらに背を向けるようにしてシートに顔を伏せ、足場の辺りに座り込むようにして丸くなっていたのだ。

しかもどういうわけか、左手だけが胸部の辺りに置かれているらしく、よく見えない。


さすがにその様子が気になって、未佳は静かに背後から、長谷川に声を掛けてみた。


「さ、さとっち・・・? ・・・どうしたの? 大丈夫??」

「・・・・・・・・・」


返事はない。


すると何を思ったのか、突然長谷川は右手からスマホを取り出し、何かを画面も見ずにただただ打ち込む。

そしてそれから差ほど経たぬうちに、未佳の携帯のバイブがメール尺で鳴り響いた。


もちろん送り主は、目の前で蹲っている長谷川から。

『一体何を送りつけてきたのだろうか』とメールを開いてみれば、短い文章でたった二言。



Time 2010/3/13 09:34

From 長谷川智志

Subject 無題


すまん。

今鳩尾に入って話せへん。。。



「ちょっ・・・! もしかして背凭れ?? 背凭れでやったの?! ねぇ?! 大丈夫ッ!?」


もちろんその未佳の問い掛けに対し『「話せへん」って言うたやろ』と長谷川が思ったのは、もはや言うまでもないことである。


『不憫』

(2006年 7月)


※事務所 控え室。


手神

「でもなんでみの虫が長谷川くんの家の中に・・・(疑問)」


みかっぺ

「さとっち、心当たりないの?」


さとっち

「んなっ、ありますかいな!!(言返) ましてや虫嫌いな僕に・・・!」


「でもこの子達・・・、卵から孵ったわりにはちょっと大きいんよね(しみじみ)」


手神

「つまりは『何かを食べていた』と?」


みかっぺ

「さとっちのライヴ衣装とかじゃないの?(ジト)」


さとっち

「何やとッ?!(怒)」


「ううん。この子達は服は食べへんよ・・・。逆にさとっち、最近お茶葉買ったりした?」


さとっち

「お茶葉? あぁー・・・。そういえば1ヶ月くらい前に、親戚から摘みたてのお茶葉いただきましたよ? ただちょっと扱い方分かんなくて、なんか飲まんまんま枯れてしまいましたけど・・・(汗)」


みかっぺ

「えぇー?! もったいな~い(非難)」


さとっち

「男一人の家庭で『お茶葉を扱え』ってこと自体が無理な話っすよ!!(苛)」


「! きっとそれや!! この子達それに付いてたんよ!」


手神

「えっ、でもそれ・・・。『1ヶ月前のこと』なんでしょ?」


みかっぺ

「まさかその後は飲まず食わず・・・?!(驚) すごい生命力・・・」


「・・・みんな大変やったなぁ~(同情) こんな葉っぱもない。水もない。お家の材料もない場所で・・(侘)」


さとっち

「あの・・・。その場所僕ん家なんですけど・・・(苦笑)」


「あぁ・・・! さとっちの家、みのの家財も埃しかあらへんかったんやねぇ~・・・(涙目)」


さとっち

「悪かったっすね!! 埃まみれの家で・・・!(激怒)」


「みかっぺや手神さんの家やったら、少しはビーズとか猫の毛でまともなん造れたんに・・・。あんたら迷い込む家間違えてしもたなぁ~(慰)」


みかっぺ・手神

「「違うでしょ!?(だろ!?)(怒)」」



第一『ビーズのみの』ってどうなんだよ(orz)

自然界にいたら目立ってしょうがない・・・(爆)



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