消しゴムの魔法
鶏 庭子様企画の「昭和ノスタルジー」参加ものです。
しかし、昭和っていろいろありすぎてもっと入れたかったネタもあるんだけど、長くなりそうだったのでこの辺で。
あくまでご都合主義ってことでお許しください。
「これって本当に効くのかなぁ」
少女マンガ雑誌を閉じるとそこにあった広告に、優子は目を止めた。
『幸せになれるペンダント』
広告にはそう書かれてあり、彼氏ができました~とか成績が上がりました~とか「体験者の声」なんかも載っている。
・・・でもなぁ。
もし叶わなかったら、あっさりと諦められる金額じゃないんだよね。
今月はアイプチ買っちゃったし・・・お小遣いピンチ☆だし。
「やっぱりこっちだな」
優子は放課後ファンシーショップで買ってきた真新しい消しゴムを取り出した。
紙のケースをはずすと、そのケースで隠れる所にボールペンで「鈴木健二」と書く。
・・・ちょっと子供っぽいけど、これ使い切れたら両思いになれるなら良いよね。
優子はウンウンと自分にうなづいて、学生鞄からけろけろけろっぴのカンペンケースを取り出すと、紙のケースで鈴木健二の名前を隠した消しゴムを入れた。
準備完了。後は寝る前に今日の日記を書いて・・・。
鍵つきのダイアリーは、高校の入学式から書き始めた。
鍵つきにしないと、妹が見ちゃうから。鍵はいつも財布に入れて持ち歩いてるんだ。
今日のページには「消しゴムのおまじない」というタイトルをつけた。
内容は、毎日殆ど一緒。
今日の鈴木君はどんな風にカッコよかったか。
そして最後には「願いがかないますように」と書いてダイアリーを閉じた。
・・・ああ。なんだかドッキドキで眠れない。
一週間後。その日は一時間目にホームルームがあった。
優子のクラスの担任は「皆が仲良くなれるように」と毎月一回席替えをする。
席が近くなれば仲良くなれるってもんでもないけど、と優子は思った。
「今度も近くの席がいいなぁ。ね、ユッコ」
後ろから同じ中学から来た親友の麻里子が言った。
「そうだね」
「あ。でもさぁ。ユッコはいとしの君の近くがいいよねぇ」
「えっ!」
思わず真っ赤になって後ろを振り向くと、マリリンはにやっと笑って下手なウィンクをして見せた。
「ユッコの気持ちなんてお・み・と・お・しさっ」
「・・・マリリンのばか」
そんなことを言っているうちに、優子のくじ引きの番が回ってきた。
ざら版紙を切って50までの数字を書いた紙が、四つ折りになっている。
・・・鈴木君の隣はまだ空いている。
先にくじを引いた鈴木健二の席は、窓際の一番後ろ。その隣は「18」まだ誰も引いていない。
・・・神様っ。お願い。
優子は胸の前で小さく手を合わすと、目を閉じてえいっとばかりに一枚のくじを取り上げた。
・・・あう~。ドキドキして目を開けれないよぉ。
そんな優子の手からクラス委員はくじをひったくる様に取り上げた。
「佐藤さんは・・・18番だからここね」
・・・え?
一瞬18番ってどこだっけ?と思った優子に、クラス委員が指差したその席は。
きゃい~~~~ん。
神様、仏様、消しゴム様。
もう何にでも感謝しちゃいます。
「ユッコやったね♪」
マリリンがまた下手なウィンクをして見せた。
とは言うものの。
早速2時間目から席を替わったのは良いんだけど。
緊張のあまり、左側が硬直してるんですけどっ!
優子の席は窓から二列目の一番後ろ。その左側、窓のそばには鈴木健二。
・・・あうあう。左側に向けません。
それでも、こっそり流し目で優子は健二を盗み見する。
ああ。こんなに近くにいるよぉ。
左手で頬杖つきながら窓の外を見ている健二の、少し長めのシャギーな前髪に隠れた切れ長の目。
と。その視線が優子の方に注がれた。
わわわわわっ。
「ね~佐藤さん」
わわわわわわっ!話しかけられちゃった。
「ごめんなさいっ。あたし何も見てませんっ!」
「何で謝ってんだよ。俺なんかした?」
「いえっ。まだ何もしてません」
くくっ。健二が思わず笑いをこぼした。
「まだってなんだよ」
あうあうあうあう。緊張のあまり何を言ってるかわかんなくなってきた。優子やばしっ。
「とりあえずさ、悪いんだけど消しゴム貸してくんない?忘れちゃったんだ」
はぁ。なんだ。忘れ物貸してってことか。
・・・って、け、消しゴムぅ????
固まってしまった優子の目の前に、長い腕が伸びてきてひょいっと消しゴムを掴んでいった。
一週間で半分以下の大きさになってしまった新しい消しゴム。
おまじないを叶えたくて、やけにごしごし使った結果。
「なんかちっせーな」
そういうと健二は紙のケースを引き抜いた。
うわ。ま、待って!
・・・優子がとめようとしたのも間に合わず。
「・・・あれ?」
健二の手が止まって小さな消しゴムを見つめているのが、優子にもわかった。
そりゃそうだよ。
隣の女子に消しゴム借りたら、それに自分の名前が書いてあるなんて。
・・・気味が悪いよね。
ああ。もうだめだ。もうあたしはこれから「キモい奴だ」と思われるんだ。
さようなら・・・あたしの恋。
さようなら・・・さようなら。
「・・・ほい。ありがと。」
下を向いてしまった優子の目の前に、紙のケースに戻された消しゴムが転がってきた。
優子が視線を上げると健二は窓の外を見ていた。
「あのさ」
健二は窓の外を見たまま言った。
「その消しゴム、ちゃんと使い切れよな」
「え?」
優子は言われている意味がわからず、健二を見つめた。
「その消しゴムのまじない、叶うからちゃんと使い切れよって言ったの」
その時やっと優子は健二の右耳が真っ赤になっていることに気付いた。
・・・それって、それって、そういうことだよね?
「・・・うん。」
優子の手の中でちっぽけな消しゴムが輝いて見えた。
一つだけ・・・。
どうして健二はおまじないを知っていたのか。
それは健二君にはお姉ちゃんがいて消しゴムに好きな人の名前を書くと両思いになるっていうのをしっていたってことにしといてくださいw