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44話「蛇」


「不憫だな」


ベルナルドは、溶解し、生命の痕跡すらも消え去った青年の最期を見て、短く呟く。

そして、超域魔法を解こうとした瞬間だった。


「こんにちは」


紙芝居のコマを差し替えたかのように、突然一人の女性が出現した。

黒色の髪、緑の瞳。そして、臀部には艶やかな蛇の尾が生えていた。

そして、鮮やかな黒のウェディングドレスを着た彼女の手足は、突起の少ない、きめ細やかな鱗に覆われていた。


「……初めまして、ベルナルドと申します」


彼女からは、魔力を感じられなかった。

まるで、何もないかのように。


幻覚。それが真っ先に出た候補だ。

しかしそれは違う。


超域魔法、血界回廊は、血液の凝固による武器化に留まらず、血液の増殖、そして血液操作による、擬似的な生命を作成する事が出来る。

強化されたチペワといった能力で、檻として張り巡らされた血管にも、様々な感知器官が備わっている。


その何れもが、彼女の存在を証明していた。

魔力の完全遮断などの生半可なものではない。

あまりに大き過ぎる魔力に、感覚器官が壊れていた。


あれは、神だ。


「へぇー……突然礼儀正しくなるね。あたしに気付いたんだ。でも、駄目かな」


彼女はこちらを指差した。


〈__黒滅(アーテル)


彼女の指先から強烈な光が弾けた。


咄嗟に回避行動を取るも、右腕が無くなっていた。

極大の光線が通過したようで、彼女の指先から先にあったすべての物体が、円状にくり抜かれ、消滅していた。


「ああ、外しちゃった」


彼女はわざとらしく呟く。

その眼差しからは、嗜虐(しぎゃく)嗜虐(しぎゃく)的な意思が宿っていた。


「ほら、抵抗しないの?死んじゃうよ」


嫌な汗が噴き出る。

それと同時に、超域魔法を駆使し、自分の複製品を一斉に作り出した。


そして、背後に転移門を形成する。


「俺はまだ死ねない」


そう呟いて右手から赤い魔力を発した瞬間、クリフが使ったものと同じ波動が弾けた。


〈__黒減(ニグリ)


しかしその規模は段違いで、複製品はおろか、超域魔法の結界を全て消し飛ばした。

当然自身もその光を浴び、転移門が自壊し、次第に強烈な眠気がやって来た。


眠気を意志によって振り払った瞬間、彼女は既に目の前に詰め寄って来ていた。


「じゃ、頑張ろっか」


彼女に頭を掴まれ、そのまま地面に叩き付けられる。

続けて側頭部を蹴られ、地面を転げ回る。

ベルナルドは素早く立ち上がり、その場から跳躍する。


__右腕が再生しない?


普段なら完治する筈の右腕が、依然として治らなかった。

空中で魔力の足場を作り、着地しようとした瞬間、足場が崩れた。


「ほらおいで、抱き締めてあげる」


真下で、彼女は満面の笑みを浮かべ、両手を広げていた。


「死ねないと、言っただろう!!」


首を勢い良く引き裂き、再び超域魔法を発動する。

しかし、今度は結界を形作らなかった。


魔力の限り無尽蔵に血を増産し、操作するこの魔法には、もう一つの用法があった。


右腕が赤い結晶に覆われた。

その直後、凄まじい負荷が右腕に掛かり、バランスを崩しそうになる。

右腕内部で精製された血液は際限なく圧縮され、物理法則を無視して重量を増し続けた。


「俺からの悪あがきだ、受け取れ……!」


極限まで加圧され、規格外の質量を内包した血の槍が、腕の結晶を弾きながら発射される。

発射と同時に、槍は現実を思い出したかのように、突風を巻き起こし、接触すらしていない樹木を押し潰した。


亜光速に片足を踏み込んだそれは、この星に着弾すると同時に、小さくはない地震を引き起こす。


__筈だった。


「アイデアは良いね。努力賞ってとこでどう?」


彼女は、巨大な山にも匹敵する重量を持つ槍を、片手で掴み、眺めていた。


「……どうも」


半ば諦めの言葉が出た。

彼女はダーツを投げるかのように槍を投げ返した。

その瞬間、再び槍は元の作用を取り戻し、自分の目の前を通過して行った。

左半身が千切れ飛んだ。衝撃で遥か上空に吹き飛ばされ、雲を抜けて体が凍り始めた。


「もう、逃げないの」


彼女はこちらに追いつき、頭を掴んだ。

そして、空中を蹴って再び地表へと降下する。

眼前に地面が迫り、目が潰れるような距離に達した時、嫌な音と共に頭の感覚が無くなった。


「ほら頑張って……」


彼女に地面から引き摺り出され、逆さに持ち上げられる。

そして右手以外の全てが治癒すると、彼女は再び薄く笑い、手を離した。

地面に手を付き、後転しながら距離を取る。


「あなたはアルバの仲間でしょ?あたしとしては、生かしても良いけど……」


神からの慈悲が垣間見え、僅かに心が躍る。

それが嘘だと分かり切っていても。


「やっぱ許せないや。あたしの可愛い弟を虐めたんだもの」


彼女の額が縦に裂け、そこから巨大な緑色の眼球が出現した。


「神の権能を見せてあげる」


〈__(グノーシス)


彼女がそう呟いて指を鳴らす。

次の瞬間、空に浮かぶ月が弾け、そこから黒い光が__



ルナブラムは、真っ白に灰化したベルナルドを眺めていた。

彼女が息を吹き掛けると、ベルナルドは細かな灰となり、風に乗って霧散して行った。


「……さてと」


先程まであったタイガの森は無くなり、地平線まで、灰の砂漠が広がっていた。


「居るんでしょ?クレイグ」


彼女が呼びかけると、空が瞬き、赤い流星がルナブラムの目の前に落ちた。

そして、着弾点に漂う血の蒸気が晴れ、中からクレイグが姿を現す。


「なぁ……あんたルナブラムだろ!?俺と殺し合ってくれよ!良いだろ!!?なぁ!!」


クレイグは興奮した様子で、彼女に詰め寄った。しかし彼女はクレイグの額を指で突き、牽制した。


「あなたの相手は、あたしじゃなくてクリフ」


その回答に、クレイグは破顔する。


「クリフ?そうか、お前もか!!」


アードラクトに次ぎ、ルナブラムからも推された事で、クレイグの期待は頂点に達していた。


「心配しないで、あの子の伸び代はあなたよりよっぽど上だから」


彼女の返答にクレイグは目をぎらつかせる。


「言ってくれるじゃないか」


「うーん……二年弱。それくらいあれば、あたしの弟はお前をどうにかして倒せるかな」


彼女は得意げに話し、鼻を鳴らす。


「二年……!すぐじゃないか!良いぜ!!それまであのガキは殺さないし、殺させねぇ」


クレイグは満足した様子で、踵を返す。


「おっと。メイとソフィヤは生きてるか?」


しかし彼は思い出したように振り返り、尋ねる。


「勿論、生きてるよ」


ルナブラムはその場でしゃがみ、足元の灰に両手を入れる。


「うんしょっと」


軽い掛け声と共に、ソフィヤとメイシュガルを持ち上げた。


「おお、助かる。あんたの魔力に当てられて、鼻が効かなくてな」


「何?そんな有様で勝つ気でいたの?」


彼女は呆れた物言いで、クレイグを鼻で笑った。


「楽しいかが重要だろ?」


クレイグは、不思議そうな顔をしていた。


「はぁ、お前の相手をさせられたソルが可哀想」


ルナブラムはため息を吐き、クレイグに二人を投げ渡した。


「事実、大失敗だろうよ。アイツの価値観に沿わない事を俺は続けてるからな」


クレイグはそれを手際良く受け取り、二人の首根っこを掴んで引き摺りながら帰った。


「まあ、あの時はアウレアが好き放題してたし、良いんじゃない?あたしはソルを支持するよ」


「そうか。じゃ、俺帰るからよ」


クレイグは、突然熱意を失った様子で、背後に転移門を作った。


「おーい、チビっこ。生きてるかー?今お家に送ってやるからよ」


彼はそうぼやきながら転移門へ消えた。


「さて、クリフを送ってあげないと……シルヴィアとは……話さなくても……おっと?」


ルナブラムが背後を振り向くと、彼女の数十倍はある巨人が立っていた。

女性的な身体に、蛸を頭に乗せたような姿で、その肌は湿っており、暗い青色をしていた。


「……増援はすり潰した。お前の指示通りにな」


その巨大さ故に、彼女の声は灰の砂漠の砂を巻き上げる程大きかった。


「お疲れオネスタ。で、何人来てた?」


ルナブラムは、彼女の名を呼ぶ。


「23だ……超域魔法使いは二人居た」


オネスタは血に濡れた両手を握り締める。


「変化はナシか、でも多かったね。大変だった?」


「その程度の相手など容易に屠れる。相手にならん」


「クリフを助けたかったでしょ、我慢してくれてありがと」


オネスタの身体が一瞬で縮み、元のドレス姿の女性に戻る。


「……クリフに体を返せ。お前のものじゃない」


彼女は不機嫌そうに、語気を強めて言った。

ルナブラムは、それを嘲笑った。


「でも、あなたのものでもない。クリフは私の弟だ、お前の息子じゃない」


その言葉に、オネスタは殺気立った。

ルナブラムは強く発光し、その姿をクリフへと変えた。


「クリフっ!!」


オネスタは駆け寄り、気を失ったクリフを受け止めた。


「所詮外野に過ぎないのか、私は……!」


彼女は悔しげに歯軋りをし、左拳を強く握り締めた。

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