38話「模索」
双方同じ構えを取る。
しかしその後の動きは対照的だった。
クレイグはカタナを振り上げ、守りを捨てた。対するクリフは重心を下げ、受けの構えを取る。
「同じ流派なのかと思ったんだけどな」
クリフは肩を竦める。
「どっちの親父が真似したんだろうな?」
クレイグはそう呟き、大股で踏み出す。
防御をかなぐり捨てたその構えは、一種の狂気を滲ませていた。
「強え方だろ」
クリフは短く答えると、剣を振り返した。
振り出しは、クリフが早い。
「じゃあ俺だな」
クレイグは後出しで剣を振り下ろす。
一切の迷いなく繰り出されたそれは、クリフの剣を追い抜き、彼の頭を割った。
「がっかりだぜ」
クレイグがそう呟いた瞬間、遅れて振られたクリフの一撃が、彼の腹を輪切りにした。
「うおっ……と」
クレイグはカタナを手放し、別れそうになる上半身を手で押さえた。
「やっぱり、不健全だよな。そうそう死なないと戦い方が雑になる」
クリフの髪が金に染まり、刺さったカタナを砕きながら頭部が再生する。
「……なんだよ、面白ぇのあるじゃねえか」
クレイグは微笑む。
彼もまた、輪切りにされた身体が繋がっていた。
「仕切り直しだ」
クリフは剣に魔力を纏わせ、力任せに振り下ろす。
破城槌の如き一撃を前に、クレイグは値踏みしていた。
「受けても良いが……少し勉強させてやるか」
クレイグはカタナを再生成し、切先を斜め下に向ける。
クリフの剛剣が彼の頭を掠めようとした時、クリフの両手が五つに切り分けられ、崩れた。
既にクレイグは、カタナを振り上げていた。
「不死になった奴はよく勘違いをする」
クレイグの掌底突きが直撃し、クリフは両腕を残して吹き飛ばされる。
クレイグはそのままクリフに肉薄すると、血液で複数本のカタナや大剣を創り上げる。
「手足や心臓は幾らでも生えるなら犠牲にすれば良いと」
クレイグは呼び出した武具を自在に扱い、両腕のないクリフを切り刻む。
「だがな、それは雑魚しか相手してねぇ奴の考えだぜ?」
クレイグは絶え間なくクリフを刻み続け、肉片の集合体となった彼の身体に次々と剣を打ちつける。
「走るのには何が要る?剣を握るのに何使ってんだ!?手足が無えとよ、おもちゃにされちまうぞ!!」
クリフの再生を絶えず阻害する形でクレイグはカタナを振るう。
クリフの身体は既に、ペースト状になるまで切り刻まれてしまっていた。
「さあどうする、俺は死ぬまで続けれるぜ!」
クレイグが叫んだ時、地面に落ちたオムニアントが高速で回転し、クレイグの背後から迫る。
「おっと、彼女のお出ましか」
クレイグはオムニアントを弾いて防御する。
そこに、コンマ数秒の隙があった。
肉塊からクリフの腕が飛び出し、剣を掴む。
「……適度な脅威なら良い。だがお前は、論外だ」
次いで再生した唇が呟くと、振られた剣がクレイグの胴を切り裂いた。
「おぉ……これは、クリフじゃねぇな?」
クレイグがそう呟いた瞬間、彼の肉体が二十もの肉片に分割される。
その現象はまるで、機械で同時に裁断したかのようだった。
「ああ……少し肉体を借りた」
クリフの全身が再生し、オムニアントの表面が剥離し、膨張すると、衣服へと変じ、クリフに巻き付いた。
「何もんだ……って聞くのは無粋だよな!!」
クレイグは体を再生させ、カタナを振り下ろす。
「その剣技、義辰のものか」
クリフは淡々と呟き、剣を振り返した。
一度の激突で複数の金属音が響き、周囲の草木が突風で吹き飛び、樹木の枝が弾け飛ぶ。
「親父殿を知ってんのか!そうか、息子の身体を取って黄泉帰ったか!!アードラクト!!!」
クリフを乗っ取ったアードラクトは、刀身に黄金の炎を纏わせ、振り払った。
〈__白明〉
火砕流の如き火炎が瞬時に湧き上がり、クレイグの視界を埋め尽くした。
後方に広がる木々が一瞬で灰化する程の熱が生じ、積雪していた雪が一瞬で蒸発する。
「渡津の獣め、人殺しを未だ愉しむか」
アードラクトは剣を振り払い、燃えるクレイグを見下ろす。
「応とも、それが俺の在り方だ」
黄金の炎が切り払われ、焼け跡からクレイグが踏み出す。
「やはり死なんか」
アードラクトはため息を吐き、手招きした。
「エスコートしてくれるのか!」
クレイグは素早くカタナを振り抜く。
アードラクトはまたもそれを受け止め、一瞬で彼の両腕を斬り飛ばした。
「悪いが、もう誓った相手が居るのでな」
「親父殿が嫉妬しちまうぜ!!」
クレイグは血の武具を複数作り上げ、両脚で蹴り飛ばした。
「俺は貴様と本気で剣を交えるつもりはない」
アードラクトは剣を軽々と弾き、クレイグの腕が再生するのを待った。
「だが俺はここに居るぜ。どうするよ!!」
クレイグは両腕を広げ、一歩ずつアードラクトに近付く。
「逃げる」
彼は冷淡にそう言ってのけると、クレイグの顔は曇り、血の武器を投げ捨てた。
「そうかよ」
それは、お気に入りのおもちゃを取られた子供が拗ねる様に似ていた。
「……案ずるな、最強のヒトよ。お前の飢えはいつか、クリフが満たしてくれるだろう」
アードラクトは剣を両手で掴み、天へ振り上げる。
その切先からは、燃え滾るような魔力が収束していた。
「……まさか」
クレイグの目が輝きを取り戻す。
「魔法は使わん。だが、かつての最強が貴様に餞別をくれてやろう」
「そなたの心遣い忘れぬ。礼を申す!!」
クレイグは満面の笑みを浮かべ、両腕を広げた。
「受け取るが良い!」
アードラクトが剣を振り下ろす。
次の瞬間、大気が歪んだ。
圧倒的な力によって空気は一気にせり出され、過熱。
軸線上に伸びた魔力の軌跡が、遠くに広がる雲を裂き、クレイグの肉体を圧壊させた。
そして切先が地面に激突した瞬間、地面が切り裂かれ、その後に歪んで捲れ上がった。
その日、ジレーザでは軽度の地震が起こった。
「噛み締めておけ」
アードラクトは惨憺な破壊痕を空に立って見下ろしていた。
彼は呟くと、突然空気をシルク生地のように掴み、引っ張った。
そしてそれを纏った瞬間、彼はその場から消失した。
「……ありがとう、最高のプレゼントだ。俺の前に最強だった男よ」
焦げた肉塊から再生を終えたクレイグは、満足げに呟く。
「さて、帰るか」
クレイグは自身の身体に入った亀裂を撫でた後、転移門を呼び出し消えた。




