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13話「本国へ」


「ああ、こんなとこに居たんだ」


アキムは洞窟の地下で、頭が千切れかけた死体を見つける。


「みんな探してたんだよ、父さん」


アキムは彼を抱き抱え、安堵した表情を浮かべた。


「父さんだけ、逃げ延びてたんだ……はは、あんたらしいや」


彼は、感情の失せた瞳で父親の亡骸の首を掴む。


「でも、これからは一緒だ」


アキムの(あご)が直角に開き、父親の頭に噛み付いた。



「……美味い」


食器の音だけが響く、静まり返った酒場で、クリフはステーキを切り分け、口に放り込んだ。


天井を見上げ、その味わいに感嘆した。


「エンプーサ、不味かったもんね」


しみじみとした様子でシルヴィアは呟く。


「ああ、アキムが調理してからは多少マシになったがな」


「それでも不味かったよ。特に量がキツい」


と、アキムは焼いた芋をフォークで崩しながら答える。


「アイツの干し肉なら幾らでもあるぞ?」


不敵な笑みを浮かべ、再び肉を口を放り込む。


「……肉はしばらく要らないよ」


アキムは苦笑した。


「で、どうする?この状況」


そう言って切り出すと、シルヴィアは目を逸らした。


「えっと……あたしのせい、だよね……」


「ああ、多分な……こんな静かな酒場は見た事ない」


周囲を見渡すと、この街で働く男達はみな、口を噤んでこちらの様子を伺っていた。


「竜人、亜人救済の象徴にして、ストリクト教における神の御使(みつかい)……影響力はあると踏んでいたが、ここまで効くなんてな」


もし今の状況をアウレア式で例えるならば、酒場に翼の生えた天使が来たようなものである。


「……うぅ、恥ずかしい」


シルヴィアは鶏肉の丸焼きを頼んでいたが、手がまるで進んでいなかった。


「街に入った時、凄かったな……」


フォークを使う事を諦めたアキムは、素手で芋をかじる。


「全員がお前に平伏した時は俺も頭を抱えたぞ」


「シルヴィア。俺も様付けで呼んだ方が良いかな?手遅れ?」


「……絶対にやめて。クリフもだよ?」


「以後気を付けるよ、シルヴィア様」


シルヴィアに軽く頭を叩かれる。

すると、酒場が騒ついた。


「あっ、違うんだよ?仲が悪い訳じゃなくて、むしろ私の家族とか、恩人っていうか、少しふざけただけで……」


彼女は立ち上がり、慌てた様子で店内の人々に弁明する。


「よせ、逆効果だ」


彼女の袖を引っ張り、席に座らせた。


「次からは隠すか」


「うん……なんか自分がやった訳でもないのに、複雑な気分」


「そうだな。そうだ、それについてはお前も自重しろよ」


と、アキムに向かって話し掛ける。


「俺?」


「ああ、人前でチペワの力を見せるな。分かってると思うけどな。俺も人前じゃ並以上の動きはしないつもりだ」


「分かった」


柔らかな焼きたてのパンを口に放り込む。まるで、貴族や上流階級にでもなった気分だった。


「それでだ。今後の移動手段なんだが……汽車って奴を使おうと思う」


「キシャ?」


シルヴィアとアキムは目を細め、訝しむ。


「ああ、雪の上を走る巨大な鉄の馬車……なんと本国まで四日で辿り着くそうだ」


「それって凄いのか?」


「そうか、お前が距離の算数を知ってる訳無いか。そうだな、汽車を使わないと本国まで二ヶ月は掛かる」


「すっごい早いって事?」


「そうだ、シルフの全速力と同じだ」


シルヴィアは顔を青くする。


「あの速度で四日走るの……?」


「さあ?少なくとも汽車は大丈夫らしい、なんと寝室付きで、ここと変わらないくらい快適らしい」


「お金は大丈夫なのか?」


「ああ、それならケルスが払ってくれてた」


「へ?ケルスさん来てたの?」


「ケルスってあのケルス?」


「そのケルスだよ。この店に来る前に教会の神父に呼び止められてな、ケルスから汽車の予約をしてたと……アキム、お前の席もあった」


神父から貰った乗車券を取り出し、苦笑する。


「やっぱ神様って、何でも見てるんだな」


アキムは感慨深そうに、祈る仕草を見せた。


「凄いね、ケルスさん」


「全くだよ。まあ、見てるならチペワもシバいて欲しかったけどな」


口に入れた肉をエールで流し込み、二人も料理を食べ終わったのを見て、席を立つ。


「ほら行くぞ、酒場で気を使わせるのも悪いからな」


「うん」


三人は席を立ち、クリフはカウンターの前に立つ。


「幾らだ?」


「お代は受け取れません」


店主と思わしき人物は、緊張しきった様子だった。そして、それを見て彼の意図はそことなく汲み取れた。


「あんたの名前は?」


「ヴァレリーです」


「そうかヴァレリー。ありがとう、この恩は俺からケルス陛下に伝えておくよ」


「ありがとうございます……」


刺青が入り、筋骨隆々の荒くれ者の外見をした店主は、緊張と慣れない敬語によって、外見とは対照的に、あまりにもしおらしくなっていた。


「良い料理だったよ。あんたに神の加護があらんことを」


クリフは片手を上げ、店を後にする。


「ヴァレリーさん、美味しかったです!」


シルヴィアが去り際にそう言うと、彼は深く頭を下げた。


「クリフ、なんだかかっこ良かったね」


「ん、まあな。隊長やケルスの真似だ、適当言わせるなら俺に任せとけ」


周りに聞こえない声量で呟き、店のドアを開く。外に出ると、店の前は無数の市民でごった返していた。

思わずシルヴィアを見つめたが、彼女も不安そうにこちらを見つめていた。


「どうしよう」


「これじゃ汽車に乗るまで、宿屋から出れそうにないな」


肩をすくめ、これからさせられるであろう事を考え、眉を落とした。



白髪の鬼、クレイグは屋根の上からクリフ達を見下ろしていた。


「経過観察か……つまらねぇな」


「仕方ないだろ、ヴィリングから来た賓客だぞ、連絡が無いから監視するしか無い」


クレイグの背後の景色が歪み、そこから突然赤髪の青年が現れる。

全身を黒い合金製の装甲で纏ったその姿は、現在の技術体系とは掛け離れた防具と表現する他なかった。


「あのアキムとかいうガキは問題になるかもな」


クレイグは楽しげに、片手に持った酒瓶を直で飲む。


「アレが成体になれば、この星の地表全てを戦術爆弾で焼き払う必要が出てくる。というより、それで死ぬかすら怪しい」


赤髪の男はため息を吐く。


「汽車の予約には、彼の名前があった」


「殺しにくいな」


「悔しいが、この国はヴィリングには勝てない。もし彼が望んでケルス閣下の庇護を受けていたならば、手の出しようが無い」


「だろうな。この星を丸焼きにできる爆弾を持ってようが、炒り豆みたいに星を潰す魔神が相手じゃな……」


クレイグは隣に置いたカタナを手に取り、腰に差して立ち上がる。


「しばらくは様子見だ。だが手を打たん訳には行かねぇよな」


「ああ、ボスからヴィリングへ連絡を入れるよう催促しておこう」


「上出来だ。追って連絡をくれ、俺は少しアイツらを観察する」


「了解、伝えるよ。それと、今だけはお前が頼もしいよ」


赤髪の男は、再び景色と全く同じ色へと変わり、透明になる。


「そうかよ。だがもし、戦闘になったら誤射は気にしねぇからよ、そん時は全力でケツ(まく)って逃げりゃいい」


そう言って酒瓶をあおるも、返事が無かった為、クレイグは再び街を見下ろした。


「クリフ・クレゾイル……偽物かと思ってたが」


クレイグは近くの厩舎に居た馬を見て確信し、笑みをこぼす。


「オネスタの眷属が居るなら間違いねぇ……アードラクトの息子か……!」


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