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最期の爆弾

作者: のん
掲載日:2026/01/11

ジジイは死にかけていた。

九十七歳。末期癌。余命二カ月と言われて七十日目。医者の予想を裏切れなかった人生だ。


ベッドの周りには「家族」が集まっている。

正確には、遺産に集まっている寄生虫だ。


妻のババアは喪服を着ているが、サイズが少し小さい。

葬式より、その後のパーティーを想定して体型管理を怠った結果だ。


(やっと自由に金が使える)

そう思っている。声に出さずとも、ジジイには丸聞こえだった。


長男のバカはスマホを離さない。

株で作った借金の利息が、今この瞬間も増えている。

「早く死ねばいいのに」

その一文が、目に見えない吹き出しで頭上に浮いている。


次男のアホは無職のまま四十六歳。

財布の中身は空、腹も空。

遺産が入る前提で、すでに今日の夕飯を何にするか考えている。


長女のカスはホストの名前を心の中で唱えている。

売掛金は一千万超え。

だが彼女の計算では、遺産は「無限」だ。


ジジイは思う。

――血がつながっているだけで、よくもまあここまで腐れるものだ。


若い頃、ジジイは高利貸しだった。

人の不幸が利息を生み、不幸が続くほど金が増えた。

だからよく分かる。


こいつらは、金の匂いしかしない。


先月、ジジイは全財産を寄付した。

慈善団体。孤児院。

理由は大したことじゃない。


「血のつながらない他人の方が、まだマシに見えた」


それだけだ。


ジジイは掠れた声で言った。


「……弁護士を呼んである」


空気が変わる。

四人とも、急に“家族”の顔になる。

人間は金の前では役者になれる。


弁護士が遺言書を読み始める。


「被相続人の全財産は――」


ババアの手が震える。

バカの喉が鳴る。

アホが前のめりになる。

カスの口角が上がる。


「――生前に全額、慈善団体へ寄付されました。相続財産は、ありません」


一瞬、全員が理解できなかった。


次の瞬間。


「は?」

「……え?」

「ちょっと待て」

「冗談でしょ?」


怒りが爆発するまで、五秒もかからなかった。


「裏切ったのか!」

「私の青春を返しなさいよ!」

「俺の借金どうすんだ!」

「ふざけんなクソジジイ!!」


誰も「ありがとう」とは言わない。

誰も「お疲れ様」とも言わない。


ジジイは、心電図の音を聞きながら思った。


――やっぱり、金でしかつながってなかったな。


ピッ――――


音が止まる。


爆弾は落ちた。

火も煙も出ないが、人生設計という名の建物を跡形もなく吹き飛ばした。


残された家族は、その場で口論を始める。

誰が悪い、誰のせいだ、訴える、殺す。


死体は、もう誰にも興味を持たれない。


ジジイは、死んでなお最後の高利貸しをやり切った。


――利息は、絶望。


回収率100%

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― 新着の感想 ―
花火でも打ち上げるのかなと思ったら全然違った。 感動系かなーってきたけどいい意味で予想を裏切られた。
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