第3話 力の使い道
この力があれば何ができるのか?
その答えが思いつかなかったことで冷静になった俺は、一度家に帰ってよく考えることにした。
砂まみれになった体をシャワーで洗い流しながら俺は考える。
とりあえず疲れないし力があるので肉体労働系には向いている。しかし、せっかく凄い力を手に入れたので、できれば普通に働くのではなく、この力を使って大金を稼いで金持ちになりたい。
まずすぐ思いついたのが、スポーツや格闘技のプロ選手だ。
これだけの力があれば簡単に活躍できそうだ。
ただ、この超人的な力がバレて大丈夫かというのが心配だ。
異常な力が知られると研究所に捕らえられ人体実験されたりするイメージがあるが、現実だとどうなのだろうか?
日本は人権にうるさそうだから大丈夫な気がするな。
ただ外国とか犯罪組織とか軍事企業とかはやってきそうな気がする。漫画や映画の見過ぎだろうか?
俺は強くなったが、毒とか睡眠薬とか使われたら誘拐されてしまいそうだ。
日本政府が守ってくれたりすればいいが、多分無理だよな。普通に警察は動いてくれるかもしれないが、警察が動くのは誘拐された後だしな。事前に防いではくれないだろう。誘拐された後だと多分手遅れだ。
やはり超人的な力はバレないようにした方がいいな。
仮に俺に毒や睡眠薬が効かなかったとしても狙われながら生活するのはキツすぎる。
ヤバいやつらに狙われるくらいなら普通に働いて暮らした方がマシだ。
それに狙われなかったとしてもバレたら違反扱いされて出場停止とかになりそうな気がする。謎の超技術で肉体を強化しているわけだし、ドーピングと似たようなものと言われればその通りだしな。
となると、バレないようにスポーツや格闘技のプロ選手になって稼ぐことができればいいが、可能だろうか?
・・・・う~ん。バレないように手加減とか無理っぽいな。
練習すれば素人は騙せるようになるかもしれないが、専門家を騙すのは無理だよな。プロは分析とかされるだろうし。
スポーツや格闘技のプロ選手は無しだな。
他には何があるだろう。
動画配信者とか? でも超人的な力を隠していたら大したことはできないから、大金を稼ぐのは無理だよな。
あとは登山家とか? 俺なら遭難しても死なないような気もする。でも登山家ってどうやってなるんだ? あと稼げるのだろうか? いや俺でも凍死したり窒息死したり溺死したりはするかもしれないな。厳しいか。
昼になったので、良い仕事は無いか考えながら近くの牛丼屋で昼食をとった。
健康な体になって食べる牛丼はめちゃくちゃうまかった。
しかしなかなか良い仕事は思いつかない。
やっぱり地味に肉体労働するしかないのだろうか。
帰り道に落ちていた石を試しに握り潰してみる。バキバキと音をたてて石が砕けた。
こんなに凄い力があるのにな・・・
テンションがだだ下がりした俺は、午後はネットを見ながらダラダラ過ごすことにした。
一応良いアイデアがないかネットで探す。
ネットで探したが、やはり身体能力を生かして大金を稼ぐにはプロスポーツ選手系しかないようだ。
登山家もスポンサーがついてCM出演などができれば稼げるようだが、そんな人はほんの一握りらしい。
普通の登山家は一部の有名登山家にサポート役の仕事をもらうしかないので、一緒にエベレストに登っても大して稼げない。
それに登山家は英語力や高度な知識が必須でチームプレイなので、体力だけの素人が入ったら俺が死ななくても仲間が死ぬらしい。
英語が苦手で頭も悪い俺には無理だ。仲間を殺したくない。
海外には普通の肉体労働より稼げる仕事もあるようだが、正直英語を話せるようになる気がしないし、生活環境が厳しい場所は嫌なので、日本でできる仕事にしたい。
やはり地味に肉体労働をするしかないか・・・
結局良い仕事は見つからなかったので、暇つぶしに趣味のネット小説を読む。
無料で読めるので金のかからない趣味として重宝している。
「異世界だったらこの力で魔物を倒して稼げるのにな・・・」
異世界ものを読みながらつぶやく。
小説を読み進めていくと、主人公が盗賊を倒して貯め込んでいた金貨を奪って「盗賊は貯金箱だ」などと言っていた。
「日本に盗賊なんていないしな。似たような犯罪者はいるかもしれないけど、警察に捜査されたらバレて捕まるから日本だと無理だよな。俺も異世界に行きたかった・・・」
そんな意味のない願望をつぶやいている時にふと思った。
「現代日本でも犯罪者から盗めば通報されないんじゃね?」