第2話 覚醒
朝起きるとめちゃくちゃスッキリしていた。
凄く気分が良い。いい朝だ。
最近は不安感や絶望感でよく寝れない日が続いていた。
変な夢を見たが、昨晩は凄く良く眠れたようだ。
体調も凄く良い。
体に活力がみなぎっている。気のせいか視界もクリアだ。
いつになく気分が良いため、鼻歌を歌いながら顔を洗う。
「フンフ~ン トゥルッタ~ ララ~ ・・・ん?」
ふと鏡を見て気が付いた。・・・いつもと顔が違う。
「・・・なんでこんなに健康的な顔になっているんだ?」
俺の顔には違いないが、いつもある目の隈や吹き出物、黒ずみが無くなりツルリとした綺麗な肌になっている。痩せこけていた頬も程よく肉がついているし、青白い顔色も健康的な肌色になっている。
「・・・いやおかしくないか? 良く寝ただけで一晩でここまで変わるわけないよな・・・なんか首の筋肉も増えている気がする。」
気になって服を脱いで見ると、いい感じの細マッチョになっていた。
昨日まではガリガリでお腹だけ少し出ている残念な体型だったのに、明らかにおかしい。
手足の長さや骨格は変わっている感じはしないので、別人の体になったわけではなさそうだ。俺の体に理想的な筋肉を付けましたという感じだ。
「・・・これは絶対におかしい。病気か何かか?」
しかし、健康的な見た目になって理想的な細マッチョになる病気なんて聞いたことが無い。
心当たりと言えば昨日変な夢を見たくらいしか思い浮かばないが・・・
「もしかして夢じゃなかったのか?」
変な球体に報酬を出すから体を調べさせろと言われた気がする。あと綺麗なお姉さんに強くなりたいとか子供じみた希望を言ってしまった気がするな。
その結果が健康的な細マッチョなのだろうか?
「う~ん・・・わからん! まあいいか!」
頭の悪い俺が考えても仕方がない。
今のところ害も無いし、気分も体調も良いし、得したと思っておこう。
「とりあえず腹が減ったな。今日は気分が良いから、久しぶりに料理でもしよう!」
今日の朝食はベーコンエッグオニオンにトーストとコーヒーにしよう。
玉ねぎを適当に切りながら考える。
強くなりたいと願った結果が、健康的な細マッチョなのだろうか?
まあ確かに前より多少喧嘩は強くなったと思うが、SFっぽい奴らの報酬にしてはショボいな。
「あっ!」 ダンッ!
考え事をしながら切れ味の悪い包丁を使っていたので、手が滑って思いきり指を包丁で切り付けてしまった。現場猫案件である。
「・・・でも痛くないな。血も出ていないし・・」
かなり強く切り付けた気がしたのに指にはまったく傷がついていない。
「・・・いやまさかな・・・試してみるか・・・」
試しに指やら腕やらを大怪我しない程度に切りつけてみる。
「まったく傷がつかない・・・」
どの程度まで耐えられるのか気になったので、腕を切りつけながら徐々に力を入れてみる。
普通なら大怪我するくらい力を入れてもまったく傷つかない。
さらに力を込めた時だった
バキィィィン!
「うわっ!」
包丁が折れ、折れた包丁がかなりの勢いで顔というか目にぶつかった。
腕はまったく傷ついていない。鏡で顔や目を見てみたが顔にも目にも傷は無い。
「・・・やべえな。」
どうやら刃物で切りつけられても無傷なくらい強くなったようだ。しかも目も強いらしい。
SFの住人は思ったよりヤバい力をくれたようだ。
というか顔や目が強化されていなければ失明していたかもしれない。死んでいた可能性もある。
・・・考えなしに力を試すのは止めよう。次からは安全確認をちゃんとしよう。現場猫を忘れるな。
その後、朝食を作って食べると凄くおいしかった。
材料は全て安物なのだが、ベーコンの香りもトーストのバターと小麦粉の香りもコーヒーの香りも格別だった。
これは俺の料理の腕が上がったわけではなく、五感が正常になったせいだろう。
昨日までは鬱々としていて精神状態が悪いせいで食べ物の味をあまり感じなくなっていた。あと鼻炎も酷かった。
今日は心身ともに健康になったので、味覚や嗅覚が本来の能力を取り戻したのだろう。
あと途中で気がついたが目も良くなっている。眼鏡無しでも周囲がクッキリ見える。地味にありがたい。
とにかく健康になったし、頑丈になったことが分かった。あと精神的にも元気になった。良いことづくめだ。今のところSFお姉さんには感謝しかない。
頑丈そうな包丁を簡単に折ることができたので、力もかなり強くなったっぽい。
色々能力が上がってそうなので、今日はどのくらい運動能力が上がったか確認することにした。
ジャージに着替え、いつもボーっと海を眺めていた海岸に向かう。あそこなら人目も無いし丁度良いだろう。
海岸についた。
海岸にはテトラポットに囲まれた防波堤とそこそこの広さの砂浜がある。
休日は多少人がいるが、今は平日の午前中なのでやはり誰もいないようだ。
陸側には防砂林があって近くの道路からは見えないし、海側はたまに漁船などが通るが遠いしこっちを見ていたりはしないだろう。
ここなら多少派手に運動しても大丈夫だ。危険も無さそうだ。
「安全確認ヨシ!」 現場猫を思い出しながら指差し確認だ。意味があるかは謎だ。
軽く準備運動をして、まずは走ってみる。
最初は軽く、徐々にスピードを上げていく。
ザッザッザッザッ ダッ ダッ ダッ ダッ
すでに以前の俺の全力疾走を超えるスピードが出ているが、まったく疲れないしまだまだ余裕だ。どんどんスピードを上げていく。
ドッ ドッ ドッ ドッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ
歩幅や足音が大きくなり、砂を巻き上げながら凄いスピードで走る。
風を切って走るのが気持ちいい!もう時速100キロは超えてるんじゃないか?
「アハハ、ハハハハ、アーッハッハッハッ!」
俺は思わず笑い声をあげた。
今ならバイクで暴走する人の気持ちが分かる!
ただ走っているだけで楽しい!
しかも全然疲れない!
走りにくい砂浜なのに凄いスピードだ!
凄い力だ!
そうだ!
「とうっ!」 ドン!
俺は地面を思いきり蹴って空へと跳び上がった。
「イィヤッフウゥゥゥゥッ!!!」
俺は飛んでるぞ!4,5メートルくらいは飛んでる!
風が強くて気持ち良い!
視点が一気に高くなり景色が変化するのも楽しい!
ズザザッ ゴロゴロゴロ
俺は着地に失敗して転がった。
「あははははははは!」
砂まみれになりながら笑い声をあげる。
下が砂なせいかまったく痛くない。いや、今の体ならコンクリでも痛くないかもしれない。
俺はすぐに起き上がり再び走り出す。
全然疲れないし、すぐにトップスピードまで加速する。
凄い力だ。
「トウッ!」 俺は再び跳び上がる。
空中でくるりと一回転
「キーーーック!」 そのまま地面にライダー風キックをかます。
ボン! 砂浜に大穴があいた!
「あははは!」 凄い!凄い力だ!
俺は笑いながら跳び回った。
「凄い力だ! もう昨日までの何もできなかった俺じゃない!」
テンションの上がった俺は叫ぶ。
「この力があれば!この力があれば!」
・・・・何ができるんだ?