寝かされていた
「あれ……ここ……」
志喜は見慣れた天井から顔を横に向けた。祖父母の家の、彼に当てられた部屋に寝かされていた。そこに見慣れない者。セーラー服の女子が布団の横に正座していた。
「君……」
おもむろに身体を起こす。腹が重かった。志喜をはさんで彼女の真向かいで、チコは布団に覆いかぶさっていた。
「要りますか?」
彼女から差し出されたのは、ビールを飲むジョッキになみなみと注がれてある緑色の液体だった。
「これ何?」
恐る恐る、それを指さしながら尋ねてみた。
「栄養ドリンク、と言うと分かりがよろしいでしょうか」
「栄養ドリンク……」
もう色合い的からして草っぽく草じみた草草した味しか想像できない。
「少しばかり台所を借りました。本当なら、もう少し材料が必要なのですが、今のところはこれで」
勧められるままに受け取ってしまい、「さあ、どうぞ」と雄弁に語る彼女の視線のままに口を付けるしかなかった。劇薬かもしれないが、海岸での緊張関係が継続しているならば、ここにこうしてのんびりとしていないだろうし、チコが実にすこやかそうに寝ているわけはなかった。だから、彼女と、彼女が差し出すものはきっと害になるものではないだろう。それに喉が渇いていた。それにしても色合いがためらわれるのだが、
「あれ? 美味い」
予想に反してフルーティなので、一気に飲み干したにもかかわらず、溜まって水っ腹になる感じもなく、むしろ快活になるようであった。血流に乗って毛細血管の隅々まで届いていくのを感じた。それはふとした疑問を湧き上らせた。
「台所借りたって、じいちゃんやばあちゃんは?」
「御不在のようです」
「そうか。まだ帰ってないのか」
ほっと胸をなでおろし、時計を見た。一時間ほどの記憶がなかった。
「海岸で倒れられたので、ここまで運んできました」
それ以外はないだろう。いや、女子に運ばれたのは志喜としてはなんだか恥ずかしい。どこにも羞恥はないのだが、羞恥心が生じる。ペットボトルの入ったビニル袋も形無しを訴える形状で置かれていた。
「そう。ありがとう。ねえ、訊いてもいいかな」
記されたばかりの、そんな黒歴史よりも確認しなければならない。平静になったおかげで彼女の名前も思い出すことが出来た。
「はい」
「君、あおゆきさんって言ってたよね。チコにどんな用なの?」
「当然のご質問かと思います」
そう言って、彼女は事情説明を始めた。