翌朝
翌朝、志喜はスマホのアラーム機能が鳴る直前に起きた。横でまだ寝入るチコの姿を見て、前日のことが夢ではないと改めて思い、ほっとしたような、心躍るような気持ちになった。
パジャマ姿になっているチコを起こした。昨晩、志喜が風呂から戻って来た時には、あのおめかし姿だったはずだが。
チコに背を向けて着替えを終えると、チコは昨日と同じ格好になっていた。衣擦れの音もなかった。
――早着替えの術でもあるのか?
疑問が浮かびつつも布団をたたみ、居間に入った。
「おはようございます」
志喜の挨拶に、祖父母は寝心地を尋ねてきて、熟睡だったと答えた。チコはその横であくび一つをした。
和食な朝食がテーブルに並べられると、さっきまでぼんやりとしていたチコは目の前のごちそうにすっかりとさっぱり覚醒した様子で、旺盛な食欲となった。
「志喜、具合はどう?」
「まだちょっとだるいかな」
「どうしましょう。出かけるの止める?」
母は父と顔を見合わせた。今日は、復元された遠国奉行所へ午前中見学した後、午後からは能舞台に行く予定だったのだ。
「行っておいでよ。僕だって知らないとこでもないし、少しのんびりしてるよ。昨日出来なかった宿題もあるし」
「そう。あなたどうする? 志喜はこう言っているけど」
「いいじゃないか。高校生になるんだし。自分の体調管理くらいさせて。チコちゃんは行くかい?」
父は何気なく言っただろうが、志喜としてはわずかでも大人扱いされたことで、少し肩が軽い気がした。それにしても、チコに同行確認を求めるとは思わなかった。
「ううん、シキと一緒にいる」
口の中のご飯を味噌汁で流し込んでから、快活にそう答えたので、志喜がほっとする一方で、父は幾分残念そうだった。




