茅野とファーストフード店で
島から戻って来て、一度だけ街で茅野と遭遇した。ついでとばかりにファーストフードでブレイクをした。というのも彼女はチコがすでに志喜に憑いていないのが見えたからである。
「もうね、二人とも行ってしまったんだよ」
ホットコーヒーの紙コップを指先でいじりながら、志喜は茅野たちが出航した後のことを掻い摘んで話をした。茅野は黙ってそれを聞いていた。それから
「なあ、キセツ。お前あいつらが憑いていて本当に平気だったか?」
茅野は言いにくそうに、けれども志喜の本心を聞きたそうに尋ねた。
「うん、ツイていたよ」
あっけらかんと速答をするものだから、
「お前なぁ、洒落言ってんじゃあねぇんだよ。どんだけ、お前が……」
「ツイていたんだよ。本当に。父さんがさ、宝くじ、いやなんだっけ、ナンバーズ? いやロト? まあどっちでもいいや。当たったんだ。僕が適当に言った数字で。八十万円だって。僕の授業料や参考書や修学旅行の積立になるって。母さんが応募した懸賞、じゃなくてなんだっけ、まあいいや温泉旅行が一泊二日当たったんだ。本当凄いよね。こんなにさ。あ、そうそう、他にはね」
「キセツ!」
「……僕がそうなんだ。ほのかとも、優タンとも修学旅行みたいにできたし、暁とも出会えたし、チコやあおゆきさんにも……ね……仲良く過ごせたんだ。とてもツイていたんだ」
――そう、僕が一番ツイていたんだ。だって……
志喜は笑っていた。けれども、その顔はとても悲しそうに茅野には見えた。だから、それ以上、あの日々のことを彼女が訊くことはなかった。




