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海岸で
「ねえ、あおゆき。シキに何も言わなくてよかったの?」
海岸。夕方の強い浜風がチコとあおゆきに吹きつけている。チコはおめかし、あおゆきは戦闘フォームである。その手には香袋があった。
「ええ、いいのです。私はあやかしですから。姫様は?」
「私は寂しいよぉ。シキといたいー。海の向こう行きたいー」
「主様からの御命令です。帰還せよとの」
「どうせ、報告とかでしょ。それなら術使えばいいのに」
「……」
「あおゆき?」
「なんでしょう?」
「シキといたくないの?」
「……私はあやかしですから」
「理由に……」
「参りましょう、姫様」
「分かった……」
あおゆきの表情から彼女の心情を、チコは汲み取るしかなかった。
風に飛ばされたようにして二人の姿は海岸から消えた。




