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憑きづきし  作者: 金子よしふみ
第五章

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語られる経緯

「そんなことがあったんです」

 その日の夕方。いつぞやに小清水の素性を聞いた東屋。あの場所にチコとあおゆきと茅野と小清水と、そして羽多がいた。志喜は一人別のベンチで眠っている。羽多は自信の気持ちを、志喜と出会ってから来島までの経緯を吐露した。そして、うっすらと郷土博物館での出来事が記憶に残っていたため、メンバーに話しを聞いていたのだ。チコたちの正体を含めて。

「祈願後にお礼参りに来た時には、随分律儀な子もいるもんだと思ってな」

 それを言ったのはふじだった。キツネの姿のままでいるが、普通の人には犬に見える術を行使したということだ。

「我の力の弱まりに、物見遊山がてらにこの子に憑いてみようと思ったのだ。少し気にもなったしな」

「それがその子の体質だったってわけ?」

「ああ、杞憂ならばよかったのだが。感じやすい上に、受験とやらで心が鬱積しておったのが、いつ爆発してもおかしくないようだったからな。しかし、そなたらには申し訳ないが我には益のある日々だった。島にも来られた。この子の浄化もできた」

「おかげで傷まみれになったけどね」

 ふじと率先して話しを交わす小清水が、一つため息でもつきそうな感じで言った。

「おかげで何よりの修業になったよ」

 茅野の言葉は、皮肉交じりだった。

「まったく揃いも揃ってとは。ムジナやオオカミや、我らとは別のキツネの末裔やら祓い人や、そして……」

 ふじの言葉に、その場にいた全員が、そこにいない人を思い浮かべていた。

「ところで、なんでふじが憑いているのが、分からんかったんだ? 自分のことを棚に上げて言うのも何だが、そっちなら……」

 茅野の視線をあおゆきに向ける。

「それなら私は最初から見えていたんだがな。キツネには見えんでな。しかも島に漂う霊を吸収していったから、それも分からなかったということだな」

 あおゆきによれば、羽多の後ろには着物姿の人がいて、てっきり彼女の守護霊か何かだと思っていたらしい。

「なら、同類は?」

 今度は小清水へ。

「ボクもさっぱり。妖力が弱くなっているとはいえ、よほどうまく化けてたみたいだ」

 お手上げと言わんばかりである。

「それなら、私が気づかないのも無理ないか」

 人間・茅野ほのかの嘆きである。

「いや、それは貴様の修業不足だろ。そのようなことで、よくもまあゴミシンケの血統だと言えるな」

「んだと」

 実に久しぶりな、あおゆきと茅野の一触即発なのだが、

「シキいないから、コント止める人いないよ」

 チコの一言で、

「コン……ト」

「姫……」

 歯切れ悪く物静かになる二人。

「そんなことよりもさ、君、何がきっかけだったか覚えてる?」

 あおゆきと茅野のやり取りをそんなこと呼ばわりして、小清水が羽多に尋ねた。

「いや、それはあの面のせいで」

 茅野が割って入ろうとするが、

「それはトリガーでしかないよ。導火線の火がついたのがいつかってことだよ」

 小清水に制せられる。

「まったく、話しの腰を折りおって。そんなことを見抜けぬようで」

 あおゆきが再び茅野の感情を逆なでしようとするものだから、今度はここで茅野が爆発しても困るので、

「はいはい、それは後。今は優……タン? の話しだ」

 羽多の呼称に戸惑いながら、小清水は話しを元に戻す。羽多はゆっくりとそれこそ思い出す表情で、

「よく覚えてないんだけど、はっきり覚えてるのは、お昼のレストランでチコちゃんの口に付いた汚れを、都筑君が布巾で拭きとってあげてるところを見た瞬間に急に動悸がして」

 と答えた。

「それが臨界点だったってわけか」

「幼女に嫉妬とは。てか、それ博物館着く一時間半前くらいじゃないか?」

 よほどのきっかけがあったに違いないと思っていた茅野も小清水もいささか拍子抜けだった。

「それくらいならまだ……」

 羽多はあおゆきに視線を送った。しかし、彼女にとってはきっかけは重大なことだった。なぜなら、チコの口を拭く志喜を優しげに見つめるあおゆきを見て、そんなあおゆきを見返す志喜の様子がその後に続いていたのだから。そして、それを見ていれば、すぐに分かったことがあったから。

「何だ? 私に何か言いたいことでもあるのか?」

「いいえ、何でもない」

 ――きっと都筑君も……

 羽多にとっては、それは言えることでは、言いたいことではなかった。

 クー

 音の発生源は、チコの腹部であった。

「お腹すいちゃった」

 チコは恥ずかしそうにお腹を擦っている。

 それがまた、そこでの話の終了の合図にもなった。一同は、それぞれの帰途についた。


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