ホテルの一室
湖畔のホテルの一室。羽多優はその窓辺から対岸を眺めていた。小さくまばらな灯りに特別な思い入れがあるわけではない。ただそこには家があり人がいるという事実確認だけだった。窓にうっすらと映る自分の顔。
「はあぁ、都筑君と二人になるチャンスはあると思ったんだけどな」
日曜日、彼女は志喜にメールを送った。志喜が今春受験後に訪島するのは、塾の休み時間に聞いていたから、「合格したので気晴らしに島へ行ってみようかと思って」との旨を送信したのだった。志喜からの反応がよく、日程まで聞いてくるものだから、調子に乗って興奮交じりになっていたが、連れがいるとのことだった。恐らくは親戚とかだろうとは予想はしていたのだが、その予想が当たったのは幼児な一名だけであり、他には同世代の女子たちが彼を囲っていた。茅野とは面識があったが、他にも二名もいるとは。
「都筑君、いい人だもんなあ」
日程にバラ色な春めきを想像していた彼女に、ことごとく現実が突きつけられて、それは音もなく溶解したのだが、
「ま、遠方で都筑君と数日いられるってだけで、OKにしないと」
思い直した。彼女は力強く前向きに表情を作った。
ガラスに映るもう一つの薄い影は、虚ろな表情のままだった。




