具合が悪くなる
古刹を後にして、それから一行は帰途にあるトキの森公園に向かった。絶滅の危機を脱し、その数を繁殖によって着実に増やしている保護鳥を見ておこうというのだった。
志喜の体調に変化が見られ始めたのは、そこに着くか着かないかの頃であった。乗り物に弱い志喜は、うねりのあった二時間半の航海の余韻と、車での道程のせいだろうと思っていた。けれども、
「どうしたの、志喜。ちょっと顔赤いわよ」
「何だか、身体がだるくてさ」
母に言われては、どうも単なる乗り物酔いではなさそうである。乗船中、船酔いを冷まそうと甲板に出て、冷たい波風を受けた。そのせいかもと容易に想像はついた。三月の中旬とはいえ、晴れ渡っていてもまだ肌寒く、コートは手放せないほどなのだ。
トキの森公園の駐車場から家路を急ぐことになった。自動車の中で、志喜は自販機で買ったスポーツドリンクに口を付けた。全身に冷たいそれがいきわたるのが分かるくらいに熱があった。倦怠感もある。けれども、一点だけ彼に違和感があったのは、風邪っぽいのに、これは風邪じゃないだろうと自覚していることであった。根拠が何かあったわけではないが。
祖父の家に到着し、割り当てられた六畳一間の部屋に入った。置かれているストーブを灯し、暖かくなるまでコートを着ていた。そして腰を下ろし――。