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憑きづきし  作者: 金子よしふみ
第五章

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38/60

待ち合わせ

 午前八時半過ぎ。

 小清水暁の島内観光に一同参加をすることになってはいたが、志喜からの提案で、カーフェリー乗り場の一階、吹き抜けとなっているロビーに集合となった。

「なあ、キセツ。これから船乗ろうってんじゃないだろうな」

「違うよ。あ、来た」

 志喜がそう言って手を振り始めた。上げようとした右腕を肘から曲げて。船から降りて来る乗客たちの中に照れ臭そうに肘を屈めて左右に手を振る女子の姿があった。ピンク色のダッフルコートの女子は一同に接近する。

「やあ、優タン。船揺れなかった? あれ荷物少ないね」

「優……」

「……タン?」

 その女子への開口一番の呼称に、茅野と小清水が眉をひそめる。

「実は予約の日程間違えてて、昨日来てたんだ」

「それならそうと言ってくれたら、よかったのに」

「いやいや、私の間違いだし、都筑君にも用事あると思って。それに、能舞台をちょうどやってて見に行ってたし」

「そうなんだ。みんな、こちらは羽多優さん」

 志喜は一同にその女子の紹介をしなければならない。端から見れば、幼女一人と普通の女子三人にしか見えない。関係性を明瞭にしておく必要がある。

「塾の同じクラスだったんだ。茅野は会ったことあるよね。こっちの小さい子は遠縁の子で、この二人は……あ……」

 途中で、志喜の脳というコンピュータが解析を始める。というのも、両親たちには、あおゆきは塾の知り合いだと言ってある。しかし、実際は羽多が塾の知り合いで、もし何かの拍子に両親と会ったら何と言えばいいのだろうか。さすがに何人も塾の知り合いが来島しているはずもなく、しかも小清水に関しては個人的直接的な接点はなかったのだ。チコ経由での出会いである以上、どう説明すべきだろうか、思案のしどころである。

「私はあおゆきと申す。こっちの茅野のちょっとした知り合いでな、都筑君が先日祭事に来た時に知り合った。そしたらこのチコさんと親しくなったという訳だ」

「ボクは小清水暁。茅野の小学校の時の同級生なんだ。ボクが途中で引っ越しちゃったんだけど、一人旅で来てみたんだけど、道に迷っちゃって、そしたら偶然にも再会してさ」

 ものの見事に志喜に助け舟を出す。が、

「なんで私絡みにしてんのよ。キセツのあおり食らうみたいになさ」

 小声ながら、あおゆきと小清水に近接して逆ギレをしている。

「細かいことを気にするな。これもゴミシンケの修業だと思え」

「同意だね」

 まったく意に介していない。志喜は二人に小さく合掌を送っている。感謝されるべきもう一人は合掌がないことに、こめかみをひきつらせている。

「暁がさ、島内観光したいって言ってたから、優タンも来ることだし、みんな一緒に行こうかと思って。どうかな?」

「私はかまわないけど、皆さんは……」

 一同に会ったばかりの羽多は、様子を窺うようにしている。

「私はシキが言うなら、それでいい」

 チコがそう答えてしまっては、あおゆきは従うだろうし、そもそも団体行動で一人が増えただけだと、茅野も小清水も思うしかなかった。

「よし、じゃあ行こう!」

 チコの手を引いて先陣を切る志喜の背中を、茅野と小清水が追う。

「なあ、キセツってバカだと思うか?」

「昨日の今日で言うのも何だかが、彼は頭がいいのに鈍感というやつか?」

「しかも、優タンて」

「本当に愛称で呼んでるんだな。良かった、名前で呼ばせて。こんなことであんなでっかい声出されたら、ボクだったら恥ずかしくて死んでるな。君は会ったことあるんだろ?」

「あるけど、そん時は優ちゃんて呼んでたんだけどな」

「悪化してないか?」

「だな。あいつは、名字の呼び捨てが普通だからな。確かに男子につけるニックネームが……アレだな」

「それが彼なりのコミュニケーションスキルってわけか」

「好評価しすぎだ。それにしても、そんなキセツがオオカミに限っては、『さん』づけだ。チッ」

 ぼそりと出てしまった舌打ち。

「君も大変だね」

「それは置いといて、それにしても、あんな女子が一人旅ね」

「ま、彼は本当に一人旅してると思っているみたいだけどな」

「「はあー」」

 茅野と小清水が同時にため息をついた。


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