欄干
志喜たちが乗ってきたフェリー乗り場近く。島内一大きい湖から海に流れ出る河口に橋がアーチ状にかかっている。自動車が通ることもない。そのちょうど中間地点で、欄干に両肘を置いて、遠くを眺める者がいた。島の稜線も水平線も見えないが、じっと見つめていた。
そこへ着地したシルエットがあった。佇む人に一歩ずつ近づいていく。
「いか釣り漁船の漁火が見えるって聞いてたんだけど」
「残念だったな、見えなくて」
「まるで武蔵坊弁慶と牛若丸と言いたいとこだが、で、元に戻ったオオカミさんがボクに何か用かな?」
背中を欄干に預け、ジャケットの君はあおゆきを一瞥した。彼女の知らないはずの戦闘フォーム――とは言っても真紅のマントはないのだが――のあおゆきである。
「元に戻ったってわけじゃないのか」
「語る必要はない。私はあおゆき。姫様の護衛をしている。貴様の名を聞こう」
「小清水暁。それが?」
「私には使命がある。姫様の護衛だ。そして姫様を大切に扱ってくれる都筑志喜殿の護衛もだ。小清水とやら、貴様はそれに抵触した。だから私は使命を果たす」
左手が右腰に伸びる剣の柄を握る。
「ボクが危害を加えたわけじゃない。君が何者か分からなかっただけだ。って言っても聞いてくれないだろうね」
「無論だ。止めまではささん。ともに来て都筑君に謝罪してもらう。必要とあらば償いもしてもらう」
「拒否したら?」
「力ずくでも」
柄を握る手に力がこもる。
「でも、ここ、警察が近くにあるよ」
そう言いって、小清水は五〇メートルほど先を指さした。
「だからどうした、とは言えんか」
「来る途中、小学校があったね。そこのグランドってのはどうだい?」
「覚悟があるという訳だな。よかろう、場所を移そう」
二つの影が橋から消えるのを、月は無言で見つめていた。




