あおゆき、行く
「そういうことを平気で言うんだよ、あいつは。キセツはさ。そんな奴だから。あいつはきっと責めない。だから私も責めない。きっとキセツは守りたいんだよ。きっとあいつならこう言うぜ。『あおゆきさんがオオカミの身体で野獣の力に完全に抑制されていたのなら、僕の声も撫でる手の温もりも感じられなかった、そしてまた戻ることはなかったはず。だとしたら、あおゆきさんはあおゆきさんだよ』ってな。たく、あいつは……」
「それでも」
重々しくあおゆきは口を開いた。がっちりと手を握りながら。手の平から血を流すくらいの力で。
「それでも私は……私を許せない」
「許せないって……」
「あの者を見つける」
あおゆきの目が鈍く光った。敵対心などという甘っちょろい眼光ではない。始末をつける、そういう決意だった。
「見つけるって」
さすがに茅野も背が冷える感覚だった。
「あの者の匂いはすでに覚えた。これから見つけに行く。そして謝罪させる。都筑君の前でな」
そう言って境内を飛び降り、夜に消えて行った。
「やっぱ、堅物だな」
肩から力が抜けて、茅野はもう一度拝殿の中に入った。




