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憑きづきし  作者: 金子よしふみ
第四章

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志喜と茅野の中学時代

 中学時代のことである。島とは違い、都会の街では、茅野の家のような生業をありがたがる者もいれば、気味悪がったり、おちょくったりする者も少なくはない。茅野の家のように豪勢な屋敷を立てていればなおさらである。胡散臭い商売で成り上がったなどと陰口が出るのも無理ないことだった。その長女である茅野ほのかは成績優秀、スポーツ万能、物おじしない性格ときたら目立つことこの上ない。しかも彼女の真紅の髪を地毛と知らない者にとっては、染髪をしているのに、教師にも注意されないとは生意気だと、あるいは教師たちに賄賂的な物を送っているのではないのかなどとあることないことの噂が一つや二つではなかった。

 けれども、志喜は他の友人と分け隔てなく接した。妙に気が合う上に、互いに成績が良かったため、勉強を教え合うこともあった。それを快く思わない者がいるのは当然であった。志喜を言い様に舎弟のように虐げている。きっと弱みを握っているのだ。そんな噂も立った。自分のことならいざ知らず、志喜のことを言われるのは彼女にはたまらないことであった。反論しようとする度に、志喜に制せられた。どんな友達にも、どんな人間関係にも素晴らしい点もあれば、ひどい点もある。だから、気にすることはないと。

 ところがある日、

「都筑も物好きだよな。茅野となんているなんてよ。あいつきっと茅野に呪われてんだよ」

 とからかう男子がいた。それを聞き逃すことはできず、反論に立ち上がると、

「ほら来た。お前呪われるぜ。あんなこと言ったから」

 隣にいた男子が嘲笑を交えた。さすがに我慢の限界だった。茅野は触れていた椅子両手に握ると、それを振り上げ、その男子たちに向けた。男子たちはあまりのことにあっけにとられて動けなかった。そこに立ちはだかった一人がいる。志喜である。

「茅野!」

 その声に我に返った時には遅かった。椅子はすでに振り下ろす動作の途中でそれを止めることは出来ず、志喜を殴打した。彼は卒倒し、すぐに保健室へ。

 教師陣から事情聴取が執り行われた。騒然となる教室で、誰も事の成り行きを、真実を語る者はいなかった。茅野は正直に話そうとした。咎められるべきのは誰かを追求すべきだと。しかし、結果はただの事故として処理された。そんな事なかれ主義になおさら茅野は腹が立った。恐らくは教室全体の無言がそうさせたのだろうと、茅野の矛先は紛れもなかった。実際はそうではなかった。事故だと言ったのは他でもない志喜だったのだ。ふざけていたら、ケンカになってしまったと。だから誰も悪くないと言っていたと。そう教師から聞かされた。

 茅野には釈然とできることではなかった。保健室へ走った。起き上がり、帰りの身支度をしていた志喜に詰め寄った。

「お、茅野、大丈夫か? 僕は、頭は大丈夫だったんだけど、ちょっと腕が痛くてね、これから一応病院に……」

「キセツ、どういうことだ! こんなのは……」

 頭部にガーゼを被る志喜に詰め寄った。目に涙をためて、決して流さずに。それが悲しいからなのか、苛立たしいからなのか、どうにもできなかったふがいなさからなのか、茅野には認める場合ではなかった。

「嘘は言ってないだろ? ふざけていたら、ケンカになったってのは」

「そうだが。主語がないだろ。私とキセツがケンカしたわけじゃない!」

「でも、友達ってさ、たまにこういう派手なケンカするだろ。その予行練習とか」

 そんな風に言いのけてしまう志喜に茅野は言葉を失くした。堪えていた一筋が顎まで伝った。

 それから不思議なことに茅野をからかうことや陰口がなりを潜めた。

 その話しをあおゆきは無言で聞いていた。


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