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記憶
それは幼少の時、犬に噛まれた時のことだった。
今よりも少し前の季節だったろうか。たまたまもこもこしたコートを着ていて、しかもその犬が小さかったこともある。痛みは感じなかったが、犬に噛まれているというのが、幼い志喜には怖くて仕方がなかった。
その時、志喜の祖父は、おびえる志喜にこう教えた。
「犬ものぉ、怖いから噛み付いてくるんだ。だから、撫でてやれ。怖くないってな」
志喜は恐る恐る子犬を撫でた。すると子犬は申し訳なさそうに噛むのを、うなるのを止めた。志喜に寄り添い、何度も頭を擦りつけてきた。




