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憑きづきし  作者: 金子よしふみ
第三章

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祭事後

 祭事が終わると、参加者たちは各々のペースで帰宅の途に就いた。志喜は邪魔にならないようにチコとあおゆきとともに先に外に出て、父母が出てくるのを待った。

「どうだ? ちぃっとは具合はいいか?」

「なんとなくだけどね」

「なら、来て良かったのぉ」

 祖父とそんな会話をして、祖父母は一足先に帰宅に向かった。

 その祖父から頼まれていた段ボールを父の車に積んでおいた。そこには御札やお菓子やジュース、さらには祭事でたかれた護摩の煙で燻されたタオルやその灰が入った瓶があった。どれもありがたいお守りとなる類のものだそうだ。志喜は、チコやあおゆきがそれらに触ると彼女たちがどうにかなるかと心配したが、あおゆきからは

「君は気にし過ぎだ」

 と、軽く笑われてしまった。

 父母はまだ出てこない。まだ写真を撮ったり、大学ノートに書き留めたりしているのであろうことは容易に察せられた。

 コートのポケットが震えた。メールが一通届いた。

「へえ、そうなんだ」

 内容を見て独り言の後、志喜は返信を送った。

「キセツ、どうだった?」

 儀礼の舞用の衣装から再び白い装束になった茅野が家から出て来た。

「ああ、綺麗だったよ、あんな舞ができるんだな、お前」

「そ、そうか。まあ練習した甲斐があったってもんだな」

 茅野はそっぽを向いた。暑くはないのに手を扇子のようにして顔の前で煽ぎ出した。

「左手の角度が違っていた。後二度斜めにしなければならんところがあった。まったくこれだから未熟な者は」

「んだと、なんでお前が舞のこと知ってんだよ」

「貴様に教える義理はない」

「なにをー」

 どんな時にでも、おっぱじめようとするあおゆきと茅野の間に、溜息をつきながら、志喜は制する。

「そういや、さっきメールか?」

 茅野が尋ねてきた。

「ああ」

「相談されても、安請け合いすんなよ」

「受験終ってんだから、勉強教えてくれなんて言うヤツはいないよ」

「そりゃそうだ」

 人がいい志喜の性格を、茅野は十分知っている。その性格のせいで、今は妖怪に憑かれているくらいなのだから。メールだろうが、電話だろうが、志喜に何かしらの依頼があってもおかしくはない。宿題を写させてくれだとか。

 そんなやり取りをしている時だった。風もないのに、一枚の葉っぱがゆらゆらと飛んで来た。それはあおゆきの前まで来ると宙に浮いていた。手を出すと、そこに落下した。

「あおゆきさん、それって」

「主様からの連絡だ」

「ああ? 主様?」

「貴様には関係ない」

 確認をする志喜への反応とは異なり、首を突っ込んでくる茅野は邪険に扱う。

「で、なんて?」

「人間の暦で言うところの三月十七日月曜日午前二時に、とある神社のふもとで会う手はずになった。チコとともに行ってくれ。この葉を渡せば、当方の意向が分かるようにしてあると。姫様よろしいですか?」

「分かった。いいよー」

「深夜じゃん。じゃあ、僕も行くよ」

 詳しく聞けば、祖父母の家から自転車で行けなくはない。

「都筑君はいいんだ。そこまでしなくても」

 本文を読みながら、恐らくはそう言い出しかねないとは思っていたが、案の定だったため、志喜を止めなければならない。

「今の保護者みたいなもんだからね。大丈夫」

「なら、私も行く」

 志喜の動向が気がかりなため、茅野も同行を告げるが、

「貴様はいらん」

 あおゆきからは一蹴されてしまう。けれど、「はいそうですか」と受け入れることはしない。

「そう言うことを言うのがいるから、キセツを危ない目に合わせられんからな」

「勝手にしろ」

 もはや、あおゆきはあきれている。

「じゃ、決まりー」

「て、夜中じゃんこれ」

「そこはほら、チコの力でってことで」

 三人が三様に述べる傍らで、あおゆきはふと思い出すことがあった。

 ――確か今晩は……でも大丈夫か

 あおゆきはセーラー服の胸元をぎゅっと握った。


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