祭事へ
明けて日曜日。
朝食時、志喜は祖父母から一つの勧誘を受けた。
「志喜や、今日じいちゃんとばあちゃんは出かけるんだが、一緒に行かんか?」
「どこ?」
「お社様んとこだ。祭りがある日でな」
志喜には覚えがあった。幼い時にも行ったことのある、小さな神社で祈祷などを行う春の祭事のことだった。漁師町ではいまだに豊漁の祈念に、不漁時のお祓いに利用しているところもある。ここの女性神主は霊験あらたかで呪詛払いや口寄せ、呪詛をかけた人物や場所を特定することもできるという。だから、小さいとはいえ、人の往来は少なくなかった。
「体調悪いんだろ、まあまじないと思って、ちっと行かんか」
「うーん」
志喜はチコたちのことが気にかかった。祈祷をするということは、その場でいわゆる厄払い的なことになるわけだ。だとしたら、チコが離れて行ってしまうのではないか、そういう懸念が浮かんできたのだった。
「かまわない。私はひ……チコちゃんと出かけるから、君はゆっくりしてくるといい」
志喜の心中を察したように、セーラー服姿のあおゆきが言うと、
「何なら、旅の者も行かんか?」
彼女も志喜の祖母から同行を誘われた。あおゆきはチコと視線を交える。
「うん、私も行くー」
チコの元気さが返答になった。
「ねえ、大丈夫なの?」
志喜は不安を抱え、あおゆきに小声で尋ねた。
「私たちが祓われるようなことではないと思う。なんなら理由を作って場所から離れるようにする。ここで意地を張って拒否をした方が変に思われかねません」
「そう、ならいいけど」
二人のひそひそ話に
「なんだ、志喜。その子が本命か?」
などと朝から父が茶々を入れるものだから、慌てて強く否定した。が、それはいささか動揺を顕わにしており、
「若ぇなぁ」
などと茶を啜りながら、父が志喜の言葉などまるで無視しているようであった。
朝食後祖父母の一台と、志喜・チコ・あおゆき・そして志喜の父母の一台の分乗となり、チコはドライブに大いに歓喜していた。




