あおゆきは振り返る
客間を借りて、あおゆきは座り込んでいた。すでに時は日をまたごうとしていた。蛍光灯を点けていない、暗い部屋の中でセーラー服姿のままの彼女は窓際の壁に背を預け、ぼんやりと物思いにふけっているようだった。部屋にはチコもいる。チコの護衛をするならともにいた方がいいだろうという志喜の発案もあり、状況的には幼女が来客である志喜の友人になついている、という風に映った。
居並んで囲った夕餉や食後のコーヒータイム。和気藹々とした団らんがそこにあった。彼女は人の生活に関心がなかったが、この家の者たちの寛容さには感心をするばかりだった。そして、それを先導していたのが
「都筑志喜か……」
会ったばかりの青年であった。そう、会ったばかり。しかも異種としての、彼からすれば危険を伴いかねない存在との出会い。それなのに、なんとも悠長な対応をしてくる人間だった。だからこそ、この一家の体調に変化を促さないようとってつけではあるが、処方や術を施し自身の気配が人に悪影響を起こさないようにした。念のため、志喜には香袋も渡した。せめて迷惑は減らしておくべきだ。
彼は「君がチコを守るのだろう?」と言った。確かに玄関先に柊といわしの頭を飾ったり、島内で採れる赤玉という石英の鉱石を置いたり、あるいは竹細工の籠やすだれをかけたりもした。いずれも魔除けや災難厄除の効果があるものだった。志喜の祖父母からも「若いのに、ようそんなこと知っとるのお」と言われ、「昔話などに書いてありましたから。私が突然お邪魔して、ここに災いがあると困りますから」などと答えていた。そうした術のおかげで襲われる心配がないはずである。とはいえ、志喜を含めてまったくの安全だと言いきれはしない。それでも彼は誘ってくれて、そしてそれがなければ、彼女は今ここにはいなかったわけで、彼から信頼されている感が、彼女にはしっかりと分かっていた。
「まったく、変わった人間だ」
皮肉っぽい口調ながら、彼女の口角がわずかに上がった。




