とり憑きました
「あなたにとり憑きました」
都築志喜の目の前の少女はちょこんと座ったままにこりとして言った。誕生日でおめかししたような格好のその子へ思わず手が伸びて行く。
「何してるの?」
乗り出した身を止めて、志喜は座り直した。
「ごめん、つい……」
目を閉じて頭を掻いた。見開いた視界には、少女がいる。視力一.五が一メートルに満たない距離の対象を見紛うはずはない。頭にはぴょこりと黄土色の動物の耳があり、腰の辺りには、動物の尾が愉快そうに左右へ揺れている。
「えっと、さっき何て言ったっけ?」
「はい。あなたにとり憑いたと言ったのです」
頭痛がした。状況を飲み込もうと冷静を装って思考を巡らそうとしていた。初春の日の入り。薄暗くなった和室。外出から戻って来てコートを着たままの自分。ちょっとこじゃれた洋装の女の子。その頭部には動物耳と、腰には尻尾。
――ああ、これはあれだ。船酔いがまだ残ってんだ……あれ……?
ようやく出した解釈が特効薬的なのせいか、彼はその場に倒れてしまい、意識が遠くなってしまった。そのまどろみで志喜は夢をみた。




