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05.精神疾患の私が旅?!不安しかない


あれから数日、私は精神力のコントロールにいそしんだ。

訓練方法は、元の世界でいう座禅だ。

ほんの少しだけ、なんとなくだけど、体内に風のような流れを感じる気がする。


1歩進めている気がして、嬉しくなり少し口角が上がった。

だけど、いい思い出が思い出せない。

記憶喪失なのかな…異世界転移ではありがちだよね。

部屋の中で一人くつろいでいたら、蘭さんに呼ばれた。


「失礼します。(ヤン)様がお呼びです。」


「わかりました、向かいます。」


(ヤン)様に呼ばれるのも最初に比べたら慣れた。

次はなんて言われるのだろうか…そう考えながら白昼の間の大きな扉に着き扉を開けたら、そこには(ヤン)様と菫様、愁さんがいた。


愁さんもいるのか…

次は一体何を言われるんだ…怖いな


「急に呼びだしてすまん。突然だが…愁と共に旅に出てもらう事になった。」


旅????たび…タビ……旅?!

何を言ってんだこの人?!……いきなりがすぎないか

いや…異世界なら、わりと普通なのかと考えていると頭の中がぐるぐるしはじめた。

しかも旅ってなんの旅なんだ。


「これは、灯くん君の内面のバランスを整える旅だ」


内面のバランスを整える…旅…?

(ヤン)様は話を続けた。


「君はこの地に夜を連れてくる存在。それをできるようになるには、いい記憶も作ってバランスを整えないといけないと愁から聞いた。この世界では古の頃から私のおじい様の頃までは、このような旅はよく行われていた。各地にある、ジネヒュ様の泉を巡ると整えるための助言をいただけるとおじい様から聞いた。泉を巡り精神を整え、夜を訪れるさせる力を身に着けてきてくれ。」


旅なんて異世界じゃ魔物とか盗賊みたいなの居そうだし不安過ぎる…しかも、ここ夜がこない…不眠症待ったなし!

普通の異世界ならまだしも、ここはそうはいかない環境…



「愁は、この世界について詳しいから、お助け役としてついて行ってもらう。」


愁さんを見たら、どことなくめんどくさそうな顔をしていた。

だが、その表情は私が見ていると分かると笑顔になり、私は違和感を覚えた。


というか、この案件に拒否権はなさそうだ。

ここにずっといても仕方ないし…

私は、愁さんに宜しくお願いします というと


「ああ、宜しくな!なんでも聞いてくれよな」と、この前のようなハイテンションに返事を返してくれた。

愁さんってやっぱり掴みどころないというか真意が見えない気がする。


こんな感じで様々な不安材料を抱えながら、旅の準備を始めたのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



お城を出て初めての町を歩いている。成陽国の街並みはとてもきれいだった。

西洋と中華が混ざった独特な雰囲気で、どこもかしこも目移りする。

そして気になるのは、この町の人の異常なまでの明るさである。あちらこちらで横行する客引き、話す人々の声や子どもたちの遊び声、どこもかしこもテンションが高すぎる。

正直、愁さんの後ろに隠れてビビり倒していた。


「あの…愁さん…」


周りがうるさくて、全く声が聞こえていない様子…こういう状況はとても苦手だ。

困ったなあ…


そういえば、ジネヒュ様ってこの世界の神様的な存在なのかな。泉の何か所あるんだろう…

そんなことを考えていたら、愁さんが何かを渡してきた。


「ほらよ。うまいぞ!猛火鳥の巻焼きだ」


元の世界で言う、タコスのようなものを渡された。

野菜も入っていて真っ赤な鶏肉のようなものが見える…見た目はとても辛そうだ。

一口、食べてみたら野菜のフレッシュさと濃厚な鳥たれがとてもおいしい、赤い鶏肉は見た目に反してうまみがすごい、「すごい、全然辛くない…おいしい」


だろ!と愁さんは嬉しそうに笑って、町の外へ食べながら向かう。少しだけ、この旅が楽しみになっていた自分がいた。


国の関所を出ると、人の声は聞こえなくなった。

町の外は、昼間のような強い日差しでありながら高原のような澄んだ空気と少し冷たい風が吹いていた。

体で一身に風を受けと、なんだか忘れていたような感覚に襲われた。

解放感…なのか何なのか、今の私にはわからないが風を感じたあとは辺りを見渡すと前の世界の生活では決して見れない光景だった。

風景に見とれていると、愁さんは物珍しそうに私を見た。


「初めて見るかこういう景色は」


「そうですね。昔、前の世界での見た気がしましたが…忘れてしまいました。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「そうですね。昔、前の世界での見た気がしましたが…忘れてしまいました。」

そう言った彼女の目はどこか儚くて朧げに見えた。死にかけていた瞳から見えた、今にも消えそうな光は僕にはあまりにも脆く壊れそうな姿だった。


彼女と旅か…面倒事を(ヤン)様から頼まれたもんだ。この仕事は厄介事の他ない。

彼女の人離れした精神力では、一生かけてもコントロールできないかもしれない者を旅に出すという行為は一種の博打だ。

まあ、やれるところまでやってみるがとても上手くやれる気はしなかった。


何にせよ、旅は楽しんだもの勝ち、気負わずやるしかないか…

近くにの泉までは、歩いて1日だが彼女の体力では2日くらい見ておこう。


しばらく、歩いたら彼女が声をかけてきた。


「あ、あの…泉は世界各地にあるんですよね。どれくらいあるんですか?」


この世界は、女神ジネヒュ様が作られたと言われている。泉はこの世界を創造された時からあるとされている。ただなんの為にあるのかは未だに不明だ。

泉は世界各地に存在する。現在、確認できてるだけでも77カ所存在する。

(ヤン)様が仰られていた、内面の安寧を願うものが訪れると助言をいただけるのも、精神力が高い者が多かったはるか古の話だ。


「じゃあ、今の泉の用途って…」


「まあ、精神力を整えるパワースポット的な感じだな」


今は助言は聞こえなくとも、外傷・異常状態・精神エネルギーの回復ポイントとして重宝されている。

「精神エネルギーって消耗するものなのですね。」


「精神エネルギーを使って、いろいろできるからね。消耗するけど、傷などと一緒でしっかり回復するものだよ」


近くの泉に向かっていると伝えると、彼女は分かったと小さく返事した。

この、根暗女との旅はどうなることやら…全く表情から感情が読み通れない。

世渡りや世間体はうまくやってこれたのに、こんな一人の人間の事が全く分からない。


先が思いやられる…




こうして私たち(僕たち)の果てしない旅はゆるっと始まったのだった。















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