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8「僕、わがままなんだ」

学園のように閉鎖的な空間では、不思議な流行が起きることがある。


その日も、不思議な流行のために、黒田と東海林は学校中を歩き回っていた。よく舌が回る東海林は、


「ねえ3PSもってる?もし使ってないなら、譲ってくれないか」

とその日だけでも校内の二十人以上に声を掛けた。黒田は例によって黙ったままだったので「お前も少しは手伝えよ」と不満をこぼした。


3PSというのは一世代前の携帯ゲーム機のことで、子どもでも簡単にオンライン対戦ができるという点が新しく爆発的に流行したが、新しい機種が登場した今ではその多くが子ども部屋の棚の奥で眠っていた。


そのためほとんどの子どもは、快く「いいよ」と返事をし、放課後に会う約束をすることができた。その中には、頼みを断ることで黒田や東海林に何かされるのではないかという不安から、無用なトラブルを避けるために3PSを差し出す子どもも少なからずいた。


「放課後、一緒に回収して回ろうな。はあ、それにしても面倒くさいな。なんで俺たちがこんなことしなきゃいけないんだよ」


と東海林が愚痴をこぼした。


ことの発端は、学園内の子どもの中でも長老のようない存在であった「馬宮(まみや)くん」の言葉だった。「馬宮くん」は高校三年生で、学園の子どもたちの中の最年長者だった。年齢が近いこともあり職員とも仲が良く、気さくに話しかけるような関係で、夏祭りなどの学園の行事でも中心として働き、周りの大人からの信頼は厚かった。その一方で、幼い頃は万引き、放火、暴力、脱走といったことは一通り行い、今では落ち着いたように見えるものの隠れて悪さをするような幼さは残っていた。そして巻き込まれるのはいつも学園の年少者組だった。


「あれ、東海林君、それに黒田君」


廊下を歩いていると図書室から出てきた新堀に出くわした。


「二人で、どうしたの」


「馬宮くんに3PS集めてこいって言われてさ、面倒だけど断ると馬宮くんキレそうだし、

とりあえず声掛けて回ってたんだ。みんなもう使ってないからか、意外に楽勝だったよ。な、黒田」


黒田はこくんと頷いた。


「そうだったんだ。僕もそれ言われた。馬宮くんとは今までそんなに話したことなかったんだけど、黒田君や馬宮くん達と同じB棟になってから、目をつけられたみたいに色々言われるようになったよ」


「俺も部屋が変わる前に話しかけられてさ。学校の集金の金を盗ってこいとか、学園の職員の部屋に忍び込んで来いとかよく命令されたよ。それでやんなきゃ腹殴るしさ。うまくいったら金とか物とか分け前はくれるし、普段は助けてくれることも多いから何ともいえないんだけどな」


東海林はそう言ってため息をついた。


「それで、新堀も声掛けて回ってたのか」


「いや、僕はやらないよ」


「何されるかわかんないぞ。怖くないのかよ」


「僕、わがままなんだ。痛い目に遭うのは嫌だけど、したくないことはしたくない。なんてみんなに声掛ければいいかわからないし」


にこにこと変わらぬ笑みを浮かべながら、新堀はさして問題もないように言った。


「そんなこと言いながら、いざ痛い目に遭わされたら泣きながら声掛けて回ってるかもしれないけどね。でももしかすると、痛い目に遭わないかもしれない。真面目に言うこと聞いてても、嫌なことは急に起こるし、起こらないかもしれない。わからないことはわからないままにして、とりあえず僕は今ゆっくり本が読みたいんだ」


新堀はそう言って去っていった。一世代前に流行った海外の児童文学シリーズを小脇に抱えながら。


「なんかあいつすごいな」


東海林は呆気にとられたまま言った。黒田もこくんと頷いて「大人みたいだ」」とぼそりと言った。お前最近結構喋るようになったなという東海林の言葉に返事はしなかった。


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