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楽しい時間

 

 「ねえ、俺楽しかったよ」



嫌な音がする。蝉の鳴き声だろうか、しろくまの唸り声?鉛筆削りの廃れていく音だろうか。

口へ入っていくものはご飯。噛む行動は咀嚼。飲み込む。そしてまた口へ入れる。ただ行動を繰り返す。


味がしない。楽しくない。

いつからだろう、食事が楽しくなくなったのは。食事がただの作業に変わってしまったのは。


 「ちあき…」


消えたい。





 ミーンミーン


[千空(ちあき)ー、遊ぼうぜ]


放課後、少し既読が遅めの幼馴染の男の子。千空にメッセージを送る。


ガラッ


しばらくしたら、リュックサックを持った千空が自分の部屋の窓から出てくる。二階だが落下の心配はない。いざとなれば私が受け止めればいい。


 「おはよ!じゃ行くか」

 「うん」


私、夏鈴(かりん)と千空は幼馴染で昔からよく家を抜け出し私の家で遊んだりしている。


 「今日は何すっかなー」


千空はあまり喋らない。過去や心に色々なものを抱えている。家を抜け出すのも千空の家庭環境が整っていないから。


 「今日は暑いからパピコでも買ってくか」


会話は沢山ある訳では無いが、一緒に遊んだり美味しい物を食べさせたり、綺麗なもんを見せるのは楽しい。家に着いたら自室に入り浸ってテレビゲームをしたり漫画を読み漁ったりして時間を潰す。


 「夏鈴は、今日、学校どうだった」

 「んー?ふつーかな。千空といる方が楽しいし!」

 「そっか」


 「ねえ夏鈴、おれが死ぬって言ったらどうする?」

 「え。うーん、死ぬ事は法律で禁じられていないしダメではないけど、私が嫌だからダメ!」

 「そっか、ありがと」

 「私はまだ一緒にしたい事、見せてやりたいもんもあるからね」


ふと時計に目をやると6時を回ろうとしていた。


 「もう時間か、また明日もあそぼーな」

 「はやいね、うん。ありがと」


千空がドアノブに手をかけ帰ろうとする。遊んだあとの千空の方は少し軽くなっているように見えて安心する。良かった。


 「じゃあね、千空」

 「うん。また明日」





そっか、夏鈴は俺が死んだら嫌なんだ。見せたいものか、見たいな。もっと遊びたいな。帰りたく、ないな。生きてたい、な。


帰りも同じように自分の部屋の窓から帰る。昔からしているから結構慣れた。


 「よいしょ、ただいm」

 

しにたい。


布団へすぐ潜る。誰にも見つからないように、何も考えなくていいように聞こえないように。

うるさいうるさいうるさいうるさい。頭の中が騒がしい。一階から自分を呼ぶ声が聞こえる。聞きたくない。名前なんて呼ばないで、必要としないで。疲れた疲れたんだよ。

怖い怖い人が怖い。期待だってしたくない。どんな言葉も何を言われても責められているようにしか聞こえない。こんな自分嫌だ。心底鬱陶しい。


眠い。眠いんだ。寝よう。何も考えなくていいように。まだ20時、しったことか。



静か、静かだ。

携帯を手に取ると2時という文字と夏鈴からの連絡が何通か来ていた。


体、うごかん。起きたくないな。起きたらまた痛い現実を見なきゃ行けない気がして。一先ず夏鈴に連絡を返さないと。


[忘れもんしとるよー]

[寝てるんかな?早くから寝て偉いね]

[明日遊ぶときに渡すね]


[大丈夫?寝てるだけならいいけど]

[寝るね。おやすみ]


随分心配させてしまっていたみたいだ。


[寝てた。ごめん。明日渡してくれたら助かる]


軽く文字を打ち送信したら、1ミリも動かない自分の体をただどうにか動かせないか試行錯誤してみる。

やっぱり動かない。


一時間程苦戦していたらだんだん動くようになってきた。風呂でも入ろうかな。と思い風呂場へ向かおうとする。そこから30分ほど、未だ部屋の中。嫌だな。こんな自分。


なんとか風呂へ入り戻ってくるとすでに四時になっていた。それと同時に見慣れた人から連絡が入った。夏鈴だ。なんでこんな時間に?


[了解!]


[どうしたの、まだ四時だよ]


[なんか目醒めちゃった]


[そっか]



[ねーね。朝散歩、しない?]


[え、まだこんな時間だよ]


[今の時期じゃすぐ明るくなっちゃうよ!

ほら早く!!]



いきなりの予定で焦ったが服をすぐ着替え窓から出る準備をする。不思議と夏鈴との予定のときは体が軽くなって動けるようになる。


 「ほら急げ!もう明るくなてきてるぞ!」 

 「え、あちょ」


夏鈴は俺の手首を強く離さぬように握り駆け出していく。


 「あはは!たのしいね!」

 「う、うん」


突然の夏鈴の笑顔に上手く受け答えができないまま走る。


見晴らしの良いところについた頃にはすでに空が半分色を変え朝を迎えようとしていた。


 「綺麗でしょ」

 「うん」

 「見せれてよかった」

 「あり、がとう」

 「かわいいやつめ!」


しばらく俺達はそこで子どものように昔のように遊具で遊んだり走り回ったりした。

上手く笑えない俺のことを、知っていてそれを当たり前のように、上手く喋れないことを肯定するわけでもなく否定するわけでもなく。それも俺の一部だと普通に接してくれる君が、夏鈴が眩しくて優しくて。


すきだった。






前編後編で分けて書いていきます。最初からフルスロットルでキツさだすとアレなので前編はほのぼのです。


男の子が嫌な苦しみ方をするのは苦手です。癖に刺さる苦しみ方は別にいいです(^^)

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