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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君のヒトコエで世界は変わる。

作者: 安倍川 もち子

「なぁ涼、俺と付き合わないか?」


 注文されたコーヒーを手渡すと、


 雅人さんは俺の目を見つめながら

 囁くように呟いた。


 聞き間違いかと思い顔を

 見返すと、

 

 雅人さんは俺の手に

 そっと触れてきた。


 心臓がものすごい速さで

 高鳴る。


 嬉しい。


 俺も、

 雅人さんのこと好きです。


 そう、言いたいのに…

 

「…すみません」


 俺は、

 好きな人からの告白を断った。


「納得いかねぇんだけど」


「…納得いかないも何も、

 先日の返事が俺の気持ちです。」


 オフィス街にあるコーヒーショップ

「ポフトポナー」。


 叔母が始めたこの店は

 コーヒーとシナモンロールが自慢で、

 アンティーク調の店内は特に女性に人気がある。


 休日は友だち同士やカップルが目立つが、

 平日は会社へ向かうサラリーマンも訪れる。

 

フリーランスでデザインの

 仕事をしている俺は、


 時間がある時は

 この店を手伝っている。

 

 そんな状況の中で、彼と出会った。


 最初に声をかけたのは、俺の方だった。


 初めてこの店に来た将人さんは、

 ひどく疲れ切っていた。


「…コーヒーをブラック。

 持ち帰りで」


 注文が終わると

 小さくため息をつき、


 どこを見るともなしに

 ぼんやりしていた。


 大丈夫ですか?


 そう声をかけたかったが、

 店員から急にそんなことを

 聞かれても迷惑かもしれない。


 それに、ちょっと声をかけずらそうな

 雰囲気のある人だと思った。


 コーヒーを作り、そのまま

 渡そうかと思ったけれど…


「お待たせしました」


「ありがとう」


 俺は逃げるように

 厨房に戻り、別のお客さんの

 コーヒーを作りながら、彼の様子を

 伺った。


 外に出て一口飲んだ

 将人さんは、カップに目を向けると

 小さく目を見開き、

 ふっと柔らかく笑った。


『お疲れ様です』

 

 有名なコーヒーチェーンの真似をして、

 コーヒーのカップに

 マジックでメッセージを書いてみた。


 少しでも、気持ちが

 晴れてくれたら…。


 気持ちが伝わった気がして、

 俺もあったかい気持ちになった。


 その日から将人さんは

 この店に通ってくれるようになり、


 色々世間話をするように

 なっていった。


 落ち着いた話し方や物腰の

 将人さんを好きになるのに

 時間はかからなかった。


 将人さんも、

 俺に好意があるような視線や

 仕草をすることが度々あった。


 だから、今回言葉にしてもらえて

 すごく嬉しかった。


 きっと、俺の気持ちも

 バレてるんだろう。

 

「だって俺のこと好きだろ?」


 …やっぱり。

 

「周りの目を気にしてる

 だけだったらそんなのどうだっていい。

 

 男同士が付き合ったっていいだろ

 別に」


 ギョッとして

 雅人さんの口元を慌てて塞ぐ。


「そんなんじゃありません!!


 っていうか、そんな話ここで

 しないでください!!」


「何をそんなに

 びびってんだか」


「...っとにかく、

 ありがとうございました!

 またのお越しを!!」

 

「また来ていいんだ?」


「お客様として!!」


 声を殺して笑う雅人さんを

 無理矢理出入り口まで引きずる。


「あ、そうだ忘れるとこだった」


 雅人さんはポケットから

 スマートフォンを取り出し、

 何か入力し始めた。


 すると、俺のスマホが

 通知を知らせた。


 LINEにメッセージ。

 雅人さんからだ。


 開くと、そこには

 チェーンのコーヒーショップの

 ギフトカードが届いていた。


「この前依頼したWEBデザイン、

 社内で評判だった。


 そのお礼。」


「あっ!

 ほんとですか…!

 よかった…!」


 世間話で

 俺がデザインの仕事をしていることを

 話したのがきっかけて、


「実は今、担当していたデザイナーが体調崩して代理を探している」と言われ、


 ポートフォリオを見てもらう流れになり、

 あれよあれよという間に

 今回採用してもらえた。


 LINEは仕事のやり取りをするために

 交換したが、


 たまに「どこそこへ行った」「どこそこで食べた」と言って写真を送ってきたりする。

 

「また依頼させてもらう。

 他の知り合いにも広めておくよ」


「……なんでそんなに

 良くしてくれるんですか?」


「なんでって…。

 単純にキミの考えるデザインに

 魅力を感じてるからだ。


 俺は仕事に私情は持ち込まない。


 …LINEは利用させてもらってるけどな」


 確かに、打ち合わせや

 デザインの修正の話をする時の

 雅人さんは真剣で、


 より良いものを一緒に作っていっている

 感覚があって楽しかった。


 …細かかったけど。


 「…ありがとうございます」


 素直に嬉しかった。


 試行錯誤したデザインが

 色んな人に受け入れてもらえて、


「また次もお願いしたい」と言って貰える。


頑張ってよかった。 

 

 雅人さんが俺の顔を覗き込んでいる

 ことに気づきアタフタしていると、


 ふっと優しく笑い、

 俺の頭をクシャッと掻き回した。


「俺にもそんな顔向けて欲しいんだけどな。


 さて。

 これはオレ個人からのお礼」


 カバンから取り出したのは、

 最近リニューアルしたばかりの

 動物園だった。


 「あ!

 そこ行こうと思ってたんです!」


 動物が好きな俺は、

 デザインにさりげなく

 動物の柄などを取り入れている。

 

「取引先からもらったんだ。

 よかったら貰ってくれると

 助かるんだが」


「え!いいんですか?!」


 俺が食いつき方が

 意外だったのか、


 びっくりした顔をしてしばらく

 俺の顔を見て、不敵な笑みを浮かべた。


「じゃ、決まりだな」


「え?!」


俺に一枚チケットを渡すと、

彼はもう一枚カバンから

 取り出しニヤリと笑った。


「ペアチケット。

 今週の土曜空いてる?」


「ちょっと!何勝手に…!!」


「返すなよ。

 

 ただ知り合いと動物園に遊びに

 行くって思ったらいいだろ。


 …イヤか?」


「〜〜〜〜〜っ

 わかりました!!

 行けばいいんでしょ行けば!」


 そう来なくっちゃ、と

 ニッと笑う雅人さんは

 本当に嬉しそうだ。

 

「じゃ、時間とか待ち合わせ

 場所とかLINEするから」


 時計をちらっと見て

 渋々といった感じで

 雅人さんは職場へ戻っていく。

 

 …雅人さんは、怖くないんだな。


 俺たちみたいな、

 マイノリティーな人間が

 人からどう思われるか…。


『コイツまじで━…』


 高校の頃の出来事が

 フラッシュバックし、

 ぎゅっと目を瞑る。


 その夜、言っていた通り

 雅人さんからLINEにメッセージが来た。


 待ち合わせ場所や時間を

 お互いの希望を聞きながら

 サクサクと決めていった。


「…楽しみだな」


 自分で発した言葉にハッとして口元を塞ぐ。


 無意識に言葉が

 でた…。


 自分しかいない部屋で良かったと

 ほっとする。


 スマホの通知音が鳴り

 メッセージを見ると、

 ドキッと胸が高鳴った。


 『楽しみだな』


 将人さんも…

 楽しみにしてくれてるんだ…


 将人さんと一緒にいたり

 話たりしているときは……

 

 俺……


「…デザインもうちょっと修正

 したかったけど、明日にしよう」


 返信をしようと思ったけれど、

 ふんわりとした眠気に身を任せることにした。


慌ただしく毎日が過ぎていき、

気づけば金曜日になっていた。


いよいよ明日か…と

考えていると、 

雅 人さんが店にやってきた。


ここの所毎日のように来ている。


「明日忘れるなよ」

 

「わかってますよ…

 そんな釘刺さなくても

 ちゃんと行きますから。


 わざわざ念押にこなくても

 大丈夫です」


「それもあるけど、

 好きなやつの顔は毎日見たいだろ」


「…っ

 だから!

 簡単にそういうことは…っ!!」


 カランカランと店の扉が開く

 音が聞こえ、そっちに顔を向ける。


 サラリーマンのグループか

 入ってきた。


 いらっしゃいませ、と声をかけたところで

 息が詰まった。


3人いるその中に、

見覚えのある姿を捉えた。 


  …なんで…

 なんでここに…っ


「あれ?

 もしかして涼?

うっわー!久しぶりじゃん!

元気ー??」 


「…先輩…」


「たまたまこの辺りに

 営業で来たんだよ。


 へぇー!お前ここで

 働いてんだ!」


「…」


 俺の様子がおかしいと感じたのか、

 雅人さんはレジから動かず傍に居てくれる。


 そんな雅人さんに、先輩は

俺を見て気が大きくなったのか

 必要に絡み始めた。 


「ねぇお兄さん、

 コイツ、高校のサッカー部の後輩

 なんだけどさ。

 

 告ってきたんですよ!


 まぁ正確にいうと、


 噂でコイツが俺の事好きだって

 聞いて、

 マジかキメーって!


 確かめるために

 オレがからかって好きだって

 言ったらか

 

「オレも先輩のことが好きです」

 とか言って!!


 ありえねーだろって皆で

 ゲラゲラ笑って!」


 周りにいた2人が

 ゲラゲラ笑う。


ヤベーっ!


マジでそう言う人間

いるんですねー!


あぁ、嫌だな。

あの時と同じだ。


何も言い返せない。


雅人さんと会って、

自分が受け入れられてる

安心感を手に入れたと思ったのに…


「お兄さんコイツと知り合い?

 さっき話してたけど。


 だったら気をつけた方がいいよ!

 狙われちゃうから」


 ドッと嫌な笑いが起こる。


「っていうか、よく見たら

 よく見たらお兄さんもそっち系っぽくない?!


やっべー!!キメェ!!」


更に嫌な笑い声が響き渡る。


手に力が籠る。


俺だけならまだいい。

だけど…!!


「…やめてください」


「は?」


「…雅人さんまで巻き込まないで

 くださいっ。


 俺の大事な人まで傷つけるような

 こと、言わないでください!!」


「なにマジになってんの?

 キモイよマジで…


 んっ?!?!」


 さっきまで黙って聞いていた

 雅人さんが、先輩の口を手で

 覆っていた。


「もういい。

 聞いてらんねぇよ。


 このままさっさと出てけ」


「っは?!

 なんでアンタに…」


「やっとわかった。

 涼がなんであんな頑ななのか」


「は?!

 …アンタ、まさかそっち?」


「だったらなんだ」


「…っ」


「気持ち悪いか?


 テメェのほうが人間として

 何倍も気持ち悪いってこと

 自覚しろ!!!!」


 突き飛ばすと、

 先輩は尻もちをつき、

 他のお客さんの前に投げ出される

 形になった。

 

 先輩たちに軽蔑の視線が集まる。

 

「…っ

 二度と来るかよ!こんな店!」


先輩たちが立ち去ると同時に、

 雅人さんが俺の方へ駆け寄ってくる

 

「涼っ」


 抱きしめられ、

 強ばっていた緊張が溶けていく。

 

「雅人さん…っ


 俺…っ

 俺、本当は…っ」


「わかってる。


 ……もう大丈夫だ」


抱きしめてくれる腕にぎゅっと

  力がこもり、


 俺は安心して涙が止まらなかった。 


 

 翌日…



「雅人さん見てください!

 コアラかわいいですね!」


「わかったわかった。

 そんなにハシャグな」


 

約束通り動物園にきた俺たちは、

 それぞれ見たい動物を順番に

 見て回った。



「お腹減りましたね。

 そろそろお昼にします?」


「そうだな。

 ちょっと休憩するか」


 園内にある

 カフェスペースでドリンクと

 サンドイッチを頼み、


 たわいない話をしながら

 時間を過ごす。



 ……雅人さんとこんなふうに

 過ごせて、うれしいな。


「それは光栄だな」


「え?!」


「喋ってたぞ。

 心の声ダダ漏れ」


「……っ

 もういいんです!

 本心ですから!」


「じゃあ、俺の事

 好き?」


「え?」


「まだちゃんと言葉にして

 もらってないから」


 ニヤニヤしながら

 様子を伺っている雅人さんが

 憎たらしく思える。


 わかってるくせに、いじわるだ。


「好きです!

 大好きですよ!


 そういう雅人さん

 はどうなんですか?!


 俺の事好きなんですか?!」


 声を殺して笑う雅人さんに

 照れ隠しで反撃する。


「……」


 返答がない。


「……雅人さん?」


 顔を見ると、

 今までみたことがないくらい、


 優しい笑みを俺に

 向けてくれている。

  

「好きだよ。

 お前が思ってる以上に」


 照れて目を逸らした俺の

 頬に優しく触れ、


 雅人さんはキスをした。


 END

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