領土を持たない系の渡邊帝国はアメリカ合衆国で外交上承認されるのか (1)
合衆国気象局観測所 ベルヴェデーレ城 セントラル・パーク マンハッタン区 ニューヨーク市
昭和一四(一九三九)年 七月一日 午前〇時〇分
稲光と共に、降水量四〇ミリを超える異常な量の雹と、雹による異常な気温低下が始まった。僅か五分の出来事だった。
コニー・アイランド、ローワー・ニューヨーク湾に浮かぶホフマン・アイランドを中心とした半径四七キロ圏内のニューヨーク州、ニュージャージー州の全域に雹が降り注いでいた。
恐ろしいほどの雷鳴が続き、雹の轟音が降り注いだ。その下にいる者で目を覚さないものはいなかった。その雷と雹の轟きは、直径九四キロメートルの外にも響き渡った。
雹の降った場所と、そうでない場所は、はっきりと区別できた。後に、その被害を何処に請求するべきかを問われて、ホワイトハウスのスティーヴン・タイリー・アーリー報道官はこう答えた。
「あの雹の降った範囲は、あの推測一六インチ五〇口径砲の射程の範囲内であると、私達は理解しています。そして、天候不良に対して、政府ができることに限界があることもご理解ください」
「渡邊の訪問【一九三九年七月一日午前〇時〇分】」と呼ばれる出来事は、ラジオゾンデ等での観測に自信をつけてきていた世界の気象学者に衝撃を与えた。
そして、合衆国陸軍省が主導して、リアルタイムでの合衆国全土の気象観測を目指すサンダーストーム計画の契機になった。
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