領土を持たない系の渡邊帝国はアメリカ合衆国で外交上承認されるのか (9)
国務・陸軍・海軍ビルヂング ワシントンD.C.
昭和一四(一九三九)年 七月三日
「‥‥ハリー。大統領が、昨日ニューヨーク州のハイド・パークにあるコテージに行ったことは知っているだろう?明日の昼には、そのニューヨーク州で、記者達との会見がある。その時に、大統領が、ニューヨーク市滞在中の『皇帝』について聞かれて、何も知らなかったではまずいことになる」
強引に、急な面会の約束を取りつけた挙句、ウッドリングの「皇帝」に関する話を聞かされて、悪い冗談だと腹を立てていたハル国務長官は、最後には頭を抱えていた。
それを見ていたウッドリングは、陸軍省・国務省・海軍省の三省が、同じ建物で執務を共にするのは、そう悪いことではないと考えていた。
どの省も、執務量が増大するにつれ、必要な空間も増大していることに目を瞑れば、ということになるが。
「だから、ここに来たんだよ。コーディー。大統領に報告するにしても、ある程度は、こちらで決めなければいけないこともあるだろう?『皇帝』が、ニューヨークで野球観戦している間にな」と、ハリーは答えた。
予定では、大統領のワシントンD.C.到着が、七月五日の午前八時三〇分。ホワイトハウスに帰ってくるのが、午前八時四五分。
それまで、ルーズベルト大統領に、何も情報をあげないというわけにはいかなかった。
ルーズベルト大統領が、大統領に就任した一九三三年に、ウルグアイのモンテビデオで、国家の権利及び義務に関するモンテビデオ条約が結ばれた。ソフォニスバ・プレストン・ブレッキンリッジ女史が、女性としては、合衆国史上初めて、国際会議の代表団に選ばれ有名になった。
アメリカが主導したモンテビデオ条約では、中南米・カリブ諸国を含めた二〇国が署名したが、北米にあるカナダ自治領は署名していない。
そして、その第一条に、国際慣習法としての国家の要件を四つ定めた。
一つ目は、その国に住み続けている住人のことだが、一一才の「皇帝」一人だけ。
二つ目は、その国の主権下にある領土、領水、領海からなる領域だが、そもそも領土がない。
三つ目は、その国の政府だが、一一才の「皇帝」一人で、立法・司法・行政を兼ねるという。
四つ目は、その国の外交能力だが、本物ならば、一六インチ砲三連装を四基一二門備えた海上要塞が、相互支援できる一六カ所の合計一九二門。それが、広義のニューヨーク湾を制圧している。
「遅くとも、今日中には、ある程度の報告をしないとな。そういうわけだ」
「ハリー。五日には、大統領とランチを一緒にする予定だったんだが。気が重いよ」
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