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領土を持たない系の渡邊帝国はアメリカ合衆国で外交上承認されるのか (7)

   シコルスキー・ボーイングSB-1デファイアント

   ジェイ砦高度五〇メートル ガバナーズ・アイランド マンハッタン区 ニューヨーク市

   昭和一四(一九三九)年 七月一日  


 ガバナーズ・アイランドは、三角のコーンの上に乗せたアイスクリームを、時計の針の先のように、二時にあるブルックリン橋に向けていた。


 草木の青いアイスクリームとは異なり、コーンの部分は荒涼としている。ジェイ砦は、そのアイスクリームの左側に位置していた。


 田の字の形をした道が足下に見える。その田の字を囲むようにして、四つの建物があった。四つの建物の間には、木の生えている中庭と外を繋ぐ道があり、正方形を形作る四つの建物は、上から見下ろすと海亀の甲羅のようだった。


 光には、海亀の形をした星型の空堀は、親亀の上に、子亀が乗っているように見える。


 光が、デファイアントを、ジェイ砦の中庭上空五〇メートルに降下させたときには、自由の女神は、離陸した一一時から、八時の方角まで動いていた。ジェイ砦の建物の中から、人が出てくるのがわかる。


 一〇分間ホバリングさせてから、デファイアントを南側の空堀に着陸させようと、光は思った。



「‥‥あれはドイツ(ドイチェス・)(ライヒ)回転翼機(ロータークラフト)で、君は日本人じゃないのか?」


「いや、僕のヘリコプターの国籍マークは、ナチスの鉤十字(スワスティカ)とは何の関係もないんですけど‥‥。僕の家の家紋が、卍なので。それで、国籍マークも、それに因んだ形にしようと思って。渡邊帝国の国旗も、卍に因んだものにするつもりですけど‥‥。それから、日本人じゃなくて、渡邊人です。日本語しか話せませんが、日本国籍は持っていません。渡邊人じゃなければ、無国籍だと思います」


「‥‥君にも、両親や家族がいるんじゃないのか?彼らは、今何処にいるんだい?」


「彼等は、二〇二三年の日本にいます。この世界とは、別の世界らしいです。僕も、この世界に連れてこられたので、よくわかりません」


 何度も繰り返される同じような質問に、光は、辟易としていた。


 もう一人の光に弄られた「スマートフォン」の同時通訳機能は、光と相手の話している事を、正確に翻訳できているのか、少し心配になってきていてもいた。



 一〇分間のホバリングで、ガバナーズ・アイランドにいる人間の気を、十分に引くことができたと判断した光は、予定通り、デファイアントを南側の空堀に着陸させた。


 すぐに機外に出た光は、メイン・ローターと空堀の間を見て回っていた。誰かが迎えに来るまでの暇潰しでもあった。


 光の予定では、今日は、司令官に会って、何の目的で来たのかを説明して帰るだけ。その際、アメリカ滞在の間、ある程度の行動の自由を認めてもらうつもりでいた。


 光は、自分の事を、嘉永六(一八五三)年黒船来航でのマシュー・カルブレイス・ペリーの立場にあると理解していたので、顔合わせ程度のつもりでいたからだ。


 国務省を相手にせず、米国陸軍第一軍司令部ジェイ砦のあるガバナーズ・アイランドに来たのは、ニューヨーク市に用があることと、米国陸軍の沿岸砲兵と事を構えたくなかったからでもある。ホットラインというやつだ。



 ニューヨーク州ロングアイランドにあるフォート・ティルデンは、三つの砲台を備えていた。一六インチ砲M1919二門が一つ。五〇口径で、最大射程距離四四九〇〇メートルもあった。そして六インチ砲M1900二門が二つ。


 ニュージャージー州アトランティック・ハイランドのフォート・ハンコックには、八つもの砲台があった。一二インチ砲M1895二門が一つ。一二インチ砲二門が二つを筆頭に、一〇インチ砲M1888三門が一つ、二門が一つ。六インチ砲M1903二門が一つ。六インチ砲M1900二問が一つ。最後に、三インチ砲M1903四門が一つ、二門が一つである。


 召喚したモンタナ級戦艦一六隻には、一六インチ五〇口径砲弾が何発直撃したとしても、脅威にはなりえなかったが、光は辛抱強く我慢していた。


 今日の午後二時三〇分からマンハッタン区のポロ・グラウンズで行われるニューヨーク・ジャイアンツ対ブルックリン・ドジャースの試合に間に合わなかったとしても、暴れたりするつもりはなかった。


 光は、七月四日のブロンクス区ヤンキー・スタジアムでのニューヨーク・ヤンキース対ワシントン・セネターズの試合を目当てにしていた。


 その日に行われた史上最高の一塁手ヘンリー・ルイス・ゲーリッグの引退スピーチ、「私はこの世で最も幸せな男です」を聞かないなんてありえないからだ。


 光には、ゲーリッグの引退スピーチを、日本語で、暗記するつもりだった。そうすれば、雰囲気だけでも、十二分に楽しめるだろうと考えている。


 光は、七月一一日に、ヤンキー・スタジアムで開催される、第七回MLBオールスターゲームも観戦するつもりだ。その為に、ニューヨークに来たのだから。


 だが、もし、光の軟禁が、七月四日まで続くようなら。


 光は、一九三九年の世界に転移した状況を、世界シミュレーション仮説として理解していた。デスゲームの主人公が、渡邊光である。



 第七回MLBオールスターゲームの開催は確実になくなるだろう。


 


 


 


 


 

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