エピグラフ
先を見通す力、未来を語ろうとする力というのは、文明よりも前から存在している。
ちょうど一年前の本誌に、『Prophets of Science』という題目を論じた。現代人が知る全ての信仰は、それぞれが信じている『未来』を持っている。聖書の他にも、『未来』を語っていたことが見いだせると。
未来から過去へ来て、未来を語ろうとする時代の始まりは、戦艦16隻の僕を従える魔王と真っ青な海の間で、タイムパラドックスのジレンマに陥る。昨年7月に、我々の時代へ落ちてきたヒカル・ワタナベのことだ。
アルバート・アインシュタインの相対性理論では、未来に行くことは出来ても、過去に行くことは出来ないはずだ。では、時間を遡行したというヒカル・ワタナベが嘘をついているのだろうか。確かに、時間を遡行してきたという証拠は何もない。
ワタナベが、ニューヨーク万博会場で語った『未来』は、白黒テレビでも放送された。『未来』でのカラーテレビ、人工衛星による電波中継や、テレビ映像記録、映画撮影する家庭用の電子機器、個人用の無線電話などだ。
機械による大量生産が確立した『未来』では、工業所有権だけでなく、著作権といった知的財産権も重視されているようだ。本棚に本を並べるように、好きな映画が買えるというのだから。
ライト兄弟が、グレン・H・カーチス等と、激しく特許を争ったように、知的財産権に関する空中戦が行われるのだろう。一九世紀にあった銃器開発の特許競争のように、ジュール・ヴェルヌ『月世界旅行』の『大砲クラブ』が、月まで人類を運んでいくのだろう。
今を生きる私たちにとって、ワタナベが語る『未来』の話は、何世代も先のように聞こえる。科学ではなく、魔法の話に聞こえるからだ。戦車、軍用機、軍艦を物質化させる魔王の語る話だ。
一年前、科学の世界の夜明けは、発明家や、投資家に、ジュール・ヴェルヌ、H・G・ウェルズのような、驚くべき正確さで、驚天動地の未来を紡ぐ空想科学小説家が担うと書いた。そして、半年前に、ヒカル・ワタナベが現れた。
未来人のワタナベによって、『未来』は、少し遠い外国のようなものになってしまった。「答え」を知ってしまったのだから。原子爆弾の開発のように、そこに向かって進むだけだ。
これから読者諸兄が読むことになる『スタートリング・ストーリーズ』の作品を執筆した諸氏は、これからの科学の未来を語る者だ。ワタナベが語る『未来』だけが、我々の未来ではない。我々の未来は、我々が作っていくのだ。
『The Prophets of Prescience』
著名な空想科学小説家 O・A・クラインによる論説
『スタートリング・ストーリーズ 1月号 1940年』
「1930年代並行世界への転移」のパラレルワールド的作品になります。
不定期更新です。
「1930年代並行世界への転移」も、改題して書き直するもりです。時期は未定でありますが。