第八話
アリスさんのアトリエで、遂に私の修理が始まりました。私は磔のような体勢になり、アリスさんはそんな私の身体を眺めてパーツの歪みやパーツ同士の接続などを確認しています。
「ふむ…ふむふむ…なるほどね。」
「なるほどって、何か分かんのか?」
クロがアリスさんに質問しました。アリスさんは自信たっぷりに返します
「見るだけでも相当沢山の事が分かるとも」
「さっさと分解を始めて下さい、いつまでも吟味してないで。」
副団長さんが言います。
「あ、バレてた?」
吟味してたんですかアリスさん…
「さてさて、始めましょうかね。」
そうしてアリスさんの手によって丁寧に私は分解されていき、遂に修理が始まり……
「凄いなコレ、そういう…ほほぉ〜!」
あの。
「スライムのコアか〜…これ、エンジンみたいなもんだね。確かにこれがないと動かないのは間違いないだろうな。これを魔力が湧き出る動力源にして、魔力回路を全体に張り巡らせている訳だ。魔導機械とて魔力を直接動力に使うことは少ないけれど、なるほど大胆な択だね。それにしても凄い数の関節だ…これは苦労しただろうな。」
「ちょっと待て、魔導機械は魔力を直接動力に使わないのか?」
「ダンテ、いい質問だ。事実として、魔力をそのまま使う場合は少ない、こういう魔導照明スフィアみたいな例外はあれどね。じゃあ魔導機械において魔力はどのように使われているのかって話なんだけど…機構を強化するサポートさ。魔力を使って電気のエネルギーを大幅に増やしたり、魔力を使って加速度を強くしたり、あとは機構そのものの強度を高めたりね。静音効果を付与している場合もある。…まぁそうだね、魔力で強化した防具である魔導装備と同じような感覚だろうか、魔力がメインではないという意味では似ているかも。」
「セブンちゃんは魔力回路を張り巡らせてるって言ってたけど、あんたはそれをどう見るのさ?」
「ジルヴァーナも良い事聞くね。おそらく、この機構は魔法生物を参考にしていると思うんだよね。魔法生物は体内に魔力が湧き出す結晶、魔核があるだろう。そもそも、魔力回路っていうのはこの魔核から身体全体に伸びている、魔力が流れる神経系みたいなものを指す言葉でね。一部の魔法生物はこの魔力回路に運動能力を委ねているものもいるんだよ。そういう魔法生物は魔核から伸びる魔力回路が強靭で太い事が多いんだけど、セブンちゃんの場合はスライムの心臓を魔核に見立てて魔力が流れる道を、魔力回路を広げている。なにより驚きなのは魔力のみでこれだけ動かせる事かな。魔力というのは非常に弱い力だ、魔導機械の動力に起用されにくい程度にはね。ただよく考えてみればそうだ、魔力回路に運動を委ねている魔法生物がいるくらいなんだから、それだけ大きい力が出せるって事になる。あくまで理論上の話だけど、彼女の設計者はその机上の世界を手元まで手繰り寄せたんだよ。スライムという着目点が素晴らしいと思うね。よくよく考えてみればそうさ、スライムはゼラチン状に液化した魔力結晶の塊だから、純粋な魔そのものだ。濃度もパワーも相応に高い筈…凄い発想だよね。僕自身今こうして機構を確認して始めて気付いた事だし、とんでもない天才だと思うよ。セブンちゃんのお父さんは。」
父が褒められた事が凄く嬉しかったのですが、それ以上にアリスさんの語りのインパクトが凄まじく何も言う事が思いつかないまま、私の分解は進んでいきます。
「魔力は術式を通して魔法としての形を成す、魔法の力は途方もなく巨大な事もあるが、逆に魔力自体が強い訳では無い。魔力を直接動力として取り出せる術式が未だ開発されていないというのが、なんとも悔しい事だよ」
次々とパーツが外されていき、更に私のコアに手が伸びてきました。そして…