第七話
注、この作品は主人公の一人称視点で物語が進みます
団長さんと副団長さんは顔を見合わせると、私達の方を向きました。
「全員、この道を一直線に走って突っ切れ。次の地区までな」
「だっ、団長さんはどうするんですか!?」
心配する言葉が私の口から勢いよく飛び出しました。もし残って戦うと言ったら…
「6人程度なら、二人で十分でしょう。」
「あぁ、心配するなセブンちゃん。セシルと俺にかかればすぐ終わる。」
やっぱり戦う気だ!
「駄目です、一緒に逃げ…」
直後、私の身体が宙に浮き、団長さんと副団長さんが遠ざかり始めました。ジルヴァーナさんが私を小脇に抱えて走り出したのです。
「逃げるだけだと追われるだろう、コレが正解だ。」
「団長、本気で行きますか?」
「なんの冗談だよ、ちっとは加減しろ。本気で行くと追い払うどころの話じゃなくなる。」
ジルヴァーナさんが走りながら私に話しかけます
「あの二人はとんでもない強さだから、大丈夫さ。」
私は何も言いませんでした
「あとどれくらいの距離なんだ!」
クロが叫びます。
「走るのは苦手じゃあ…」
ベラトリクスが弱々しく言うのが聞こえました。
「距離は知らん!それからアンタは己が運ぶ!」
キースさんの声が響きます。私は皆が走る方向に対して逆を向いている状態だったので、前で何が起こってるのか分かりませんでした。
「エルヴァート、アンタの千里眼で距離測れないのかい?」
ジルヴァーナさんが言います、すぐにエルヴァートさんから返答が来ました
「もうすぐだ!」
それからどれくらい移動したのか、ハッキリとは分かりません。どうにか2番地区を抜け、安全圏に到着して私達は休憩していました。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「クロくんお疲れ、水飲むかい?」
「飲む!」
ネイディアスさんが自分の水筒をクロに渡していました。
「本当に大丈夫なんですか?…大丈夫なんですよね?」
「だーから大丈夫だって、心配しなさんな」
私は団長さんと副団長さんの事が気になって、ずっとジルヴァーナさんに同じ質問を繰り返していました。そしてベラトリクスは…
「それで、あの地区の治安維持を放棄したとの事じゃったが…王国騎士は何をしておるんじゃ」
「己に言われても分かんねーよ…」
「自警団が居なければ何処まででも墜ちていくというのは興味深い事じゃが」
キースさんに向かって割と一方的な感じで喋っていました。
「どうにも納得がいかんのじゃ、これでは騎士が恣意的に国を腐敗させようとしているような…」
その時遠方に2つの人影が見えました。団長さんと副団長さんが無事に戻ってきた…私はほっと安心しました。
「想定より時間がかかりましたね、団長。」
「じゃああとどれくらい早く片付く予定だったんだ?」
「2分ほど早く」
「誤差だろ」
二人とも傷一つ無く、元気そうに話していました。凶器を握った6人の男性相手に無傷で息切れすらせず余裕たっぷり、ジルヴァーナさんの言っていたことは本当だったようです。それにしても強すぎるように感じますが。
「全員、問題なく逃げ切れたみたいだな。追手も無さそうだ」
団長さんが私達全員の無事を確認し、私に次の予定の話を始めました。
「セブンちゃん、君に腕の立つ魔導具技士を紹介したいんだ。大丈夫、信用できる奴だって事は俺が保証するよ。」
「魔導具技士に会って…どうするんですか?」
紹介して貰っても、特にすることは無いような気がするのですが…
「まず一つ、そいつに君を見せて欲しいと言われているんだ。そして二つ、君の修理や欠けたパーツの補填をしてもらう。それから三つ、最近会ってなかったから個人的な挨拶だ」
団長さんの都合まで含まれているじゃないですか!という言葉が口から出かけましたが、私の修理も一緒に考えている事や失礼になる事を考えてぐっとこらえました。
「団長、そろそろ出発しましょう。既に予定の時刻を過ぎているからか彼、ちょっとイライラしているみたいですよ。」
「さっすが千里眼の使い手エルヴァート、有能っ!」
団長さん余裕ですね!?
そんな訳で、私達はその魔導具技士の家を目指す事になりました。アトリエも持っているとの事ですが、エルヴァートさんいわく現在は家で待っているとの事。団長さんが私の話をした時に、机に乗り出す程の勢いで団長さんに迫り、会わせてほしいと繰り返していた…なんだか怖いですが、悪い人ではないと自警団が言っているので間違いないのでしょう。
「遅くなって済まんな、ゴロツキに絡まれたもんで。」
「済まんで済むかっ、この馬鹿野郎!僕は予定の2時間前から全身全霊で待ち構えていたのに、1時間遅れ!!!」
「まぁまぁ、ネイディアスの予知も完璧じゃねぇんだし。」
いきなり喧嘩って…。それに…
「2時間も前から待ってたなんて…」
「そう2時間、2時間だよ!僕の熱心さが伝わったかい、自律動作式人型魔導機械くんっ!」
正直気持ち悪いです、凄く気持ち悪いです。
「す、凄く好きなんですね、魔導具の事が…」
「一旦落ち着け、セブンちゃんが引いてるぞ」
団長さんの一言でようやく、その魔導具技士の人は落ち着いたようでした。凄まじい熱意に私は狼狽えながらも、どこか期待していました。
「さて、本題に入ろうか。まずはセブンちゃんに紹介しないとな、こいつはアリスだ。」
「紹介どうも、ダンテ。僕はアリス、魔導具技士をしている者さ。名前は女系だけど、男だからね?」
魔導具技士の人はさり気なく服装を正しながらそう自己紹介しました。アリスさん…この人が私を修理してくれる…
「初めまして、アリスさん、よろしくお願いします」
私が挨拶を返すと、団長さんが話の続きをし始めました。
「前にも話した通り、お前にはセブンちゃんを修理して貰う。悪さはすんなよ?」
「僕が悪さをするとでも?」
「あぁ、しそうだなって思ってる。そして、修理する代わりにセブンちゃんの体の仕組みを詳しく調べても構わない。」
「あの、本当に大丈夫なんですか?」
「心配すんな、こいつがお前を調べてる間俺達が見張ってるからな。」
アリスさんの信用度が不安になってきました。大丈夫なんでしょうか、良好な関係を築けているのでしょうか…。
「よし、それじゃあアトリエに行こうか!」
どうやらアリスさん自身は全く気にしていないようですが。身内同士の"そういうコミュニケーション"と思うべきなのかもしれません。アトリエまで行く途中の道程でアリスさんは色々なお話を私にしてくれました
「最初に君のことを知ったのは、ダンテが自警団をやめると言い出した時だったっけ。我ながら無神経だよね、そんな状況下で落ち込んでるダンテに失踪した君を見せてほしいなんて言い出すのはさ。でも、我慢できなかったんだよ、君のような魔導機械は前例がないどころの話じゃない…世紀の大発明と言っても差し支えないものだから。」
「そんでもって、ネイディアスがセブンちゃんとの再開を予知したんだ。」
「そんなのもう会うしかないだろう!?だから、ダンテに約束してもらったのさ、君に合わせてもらうってね。」
なんだかいちいち危なさそうな気配を感じてしまうのは、私が警戒し過ぎているのでしょうか。また犯罪行為に巻き込まれてしまったりするのでは…