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第五話

注、この作品は主人公の一人称のみで構成されています

 大きなお屋敷で、私は慣れないメイド服を着せられて先輩メイドに囲まれていました。

「へぇ〜、これ本当に機械なの?」

「毎朝水一杯で動けるだなんて驚きだわ」

「役に立つと良いけど」

「色々教え込まないとね」

「ついに私も先輩かぁ〜」

「サイズ合う服があって良かったわ」

 などなど、先輩たちは私を見ながら色々な会話をしています。知らない場所と環境、知らない人達に私は萎縮して口を開ける事もなければ動くこともありませんでした。頭の中は不安でいっぱいでした。

「はいはい、お喋りはそこまで。仕事に戻りなさい」

 そう声が響きました。ぶつぶつという文句が離れていくと共にその声の主が姿を表し、私に微笑みました。キリッとした目つき、結い上げられた髪、縁取りの少ない眼鏡、先程声をかけたら全員が仕事に戻ったのはおそらくこの人がメイド達のリーダーだからでしょう。

「はじめまして。メイド長のセレネよ」

「は、はじめましてメイド長さん」

 私は挨拶をして、頭を下げました。そんな私に対しメイド長は

「しっかりしてるわね」

 と一言。確かに私は背丈が子供みたいに低いですが、これは流石に子供扱いが過ぎるように感じました。

「貴女にはこれから、ここでの仕事を覚えてもらうわ」

 メイド長はそう話を続けます。さて、今度はここの環境に慣れ直さなければなりません。あまり酷い場所じゃなければ良いけれど、周りのメイド達の空気感を考えるとあまりそこの心配はしなくても良さそうな気がします。廃棄されないように、キッチリ仕事を覚えていこうと思いました。

「さぁ、ついてきなさい」

 そうしてメイド長に連れられ、私のメイド修行が始まりました。やらなければならない仕事も、覚えなければならない事も沢山あって、その日は一日中駆けずり回りました。

 二日目も、三日目も。結局、一週間もの間私はメイド長に連れられてお屋敷やその庭を行ったり来たり、とても忙しく過ごしました。

「まぁ、これだけやっておいてなんだけど日替わりで仕事を担当してやってるから、ここまで忙しくなる事はないわ」

 セレネさんその言葉、最初に聞きたかったかもしれません…。

 そうして私のメイド生活は始まりました。忙しくはあれど、中々悪くない日々でした。しかし、どうしてもこの生活は好きにはなれませんでした。というのも、私はただの自慢のネタに過ぎなかったのです。

 ご主人様は客人を招くと、必ず私を呼び出します。そして私が到着すると、自慢話を始めるのです。私が機械であること、機械なのに思考すること、からくり仕掛けとは思えないほど動きがなめらかなこと、その他諸々、客人を招くとご主人様は決まって私を呼んでは小一時間ほど客人に対して自慢気にそんな話を語るのです。これがある度に私は自分の価値や、買われた理由や、自分の真実の事を考えてしまい辛くなります。だからもう、これだけは嫌で嫌で仕方ありませんでした。

 

 ***


「ご主人様、いかがなされましたか?」

 ある時、客人を呼んだ訳じゃないにも関わらず呼び出しを受けました。どうしたんだろう、と疑問を感じながらもご主人様のもとへ行き、挨拶をしました。

 すると突然、ご主人様が杖で私の左目をつつき始めました。私はやめてほしいと何度も言いましたが全く聞いてくれません。「飽きた」とか「もう自慢する相手がいない」とか「ロリは趣味じゃない」とか「第一機械らしさが全く無くて気持ち悪い」「機械が思考を持つなんておこがましい」とか、色々な事を言われました。

 次の日も呼び出しを受けました。今度はなんだろうかと思いながらもご主人様のもとへ向かい

「いかがなされましたか?」

 案の定、ご主人様は杖で私の左目をつつき始めました。嗚呼、来なければ良かった。ご主人様は私の目をつついて、嫌がる様子を見て楽しんでいる様子でした。私は何が楽しいのか、全く理解できませんでした。

 また次の日も呼び出しを受けました。もう何が起こるのかは明白なので行きたくありませんでしたが、メイド長に睨まれたので行かざるを得ませんでした。左目をつつかれました。もうひたすら、何度も何度もつついてきます。「視覚機関として重要な役割を担っている」「壊れてしまう」「壊れたら左目の視界を失う」と、どうにかしてやめてもらう為に色々主張しましたが、意味はありませんでした。

 

 ***

 

 私は廃棄されました。ベルネクス王国の南部5番地区のゴミ廃棄場で、雨に降られながら私は、絶望していました。左目はあの時壊れてしまいました。醜くヒビが入り、青いゼリー状の液体が僅かに溢れていました。人間の事がもう嫌で仕方ありませんでした、この世界の事が嫌でした、生きるという事そのものが嫌で仕方ありませんでした。

「やっと見つけたぜ、おねーさん」

「棄てられておったか…酷いものじゃのう」

 知ってる声が聞こえてきました。クロとベラトリクスが、私を追ってきたようです。私は顔を上げました

「へへへ、あのクソ野郎の所から逃げ出してきたんだぜ」

「苦労したわい…もう二度と、奴隷商人には捕まりたくないのう」

 それを聞いて私は不安を覚えました。逃げたのならば、きっと…

「それ、あの奴隷商が追ってくるじゃないですか」

 するとクロが即座にこたえました

「その心配はねーぜ。殺っちまったからな」

「流石は一国家規模で追われた殺人鬼じゃ。不意をうって一発で仕留めおったわ」

「まぁ俺はガキだし、まともにやりあっても勝てないからな。逆に言えば気付かれないように近づいて急所を刺すしか無いんだよ」

 それを聞いた直後、私はふと思いました。クロに殺して貰えば…と。

「というか、その左目何があったんだよ」

「酷い有様じゃのう…」

 そんな事教えたところで、私はもう死ぬんだから。

「クロ…お願いがあります」

 私は質問を無視して話を切り出しました。

「私を……私を殺して下さい。もう何もかも嫌なんです、生きていたくないんです、すべて終わらせたい、逃げたいんです。だから…殺して下さい…!」

 クロもベラトリクスもすぐには答えませんでした。

「抵抗はしません…だから、死なせてください!」

 私は繰り返し言いました。

「俺はおねーさんを殺せないよ」

 クロはそう呟きました。そして、そのまま続けて言いました

「俺はおねーさんに死んでほしくない。だから、殺せない」

 私の我儘と、彼の我儘が衝突しました。私は何度も何度も殺してと願いました、でも、クロもベラトリクスも応えてくれません

「儂らが、そんな事の為にここへ来たと、そう思っておるのか?」

 ベラトリクスが口を開きました。私はこの言葉にはっとしました

「たわけが。儂らは心配だから来たんじゃよ。買われる事を恐れておったし、家族を失い、裏切られ、あの牢に来たばかりの時には何一つ面白くなさそうな顔をしておったお主を心配しない訳がなかろう。幸せを祈って儂らはお主を探しておった」

 私は…私は愛されている…?

「俺とベラ婆にとっておねーさんは大切なんだよ。それが見つけたと思ったらいきなり殺せとか、納得できないだろ」

 でも、それでも…

「でも、もう私は生きていたくないんです」

「じゃあ勝負といこう、儂らとな。儂らと一緒に過ごして…一週間の間に一度も"楽しい"とか"幸せだ"とか感じる事がなかったのなら、殺してやる」

 私は死にたいのに、いきなりそんな勝負なんて理不尽だと、そう感じました。そんな私の思考を見透かしたかのようにベラトリクスは言います

「やっと見つけて喜びを噛み締めようと思っていたらいきなり殺せと言われるのも、なかなか理不尽じゃぞ?」

 この勝負、逃げ道は無いみたいですね。

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