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第四話

注、この作品は主人公の一人称のみで構成されています

 具体的な日付は分かりませんが、ある時きらびやかな服装に身を包んだ人がやってきました。

「貴族かよ…。っつーかなんでこんな所に」

「これが世の闇じゃて」

 クロは明らかに嫌な反応を示していました、当たり前といえば当たり前かもしれませんが。一方ベラトリクスはこの場に貴族がいるという状況に対しあまり大きな反応は示しませんでした。私やクロより先にもうここにいたと考えると、この状況自体過去にも見ているのでしょう。

「ふむ、あちらの明らかに隔離されている三人は」

 貴族は私達の方を興味深そうに眺めています。この時私はこの三人のうち誰か一人が買われるんじゃないかと、本能的にそう感じました。

「お目が高い、あの三人は特別なんですよ。一人、特に誰だか見分けやすいのがいると思いますが」

「まさかとは思っていたが、あの黒髪のガキは…解体屋(バラしや)と呼ばれた殺人鬼の」

 直後クロはビクッと身体を震わせました。自分が王国騎士に追われていた時の呼び名で呼ばれたからでしょうか。少し前クロは、あの呼び名が大嫌いだと私達に話してくれました。本当に解体屋とは呼ばれたくないんだなと、改めて強く感じました。

「御名答、あの解体屋ですよ」

「わざわざ隣国まで買い物に来て良かったというものですな、こちらでは大暴れしていたあの解体屋が惨めなものだ」

 ベラトリクスは分かりきった顔をしていました。貴族が隣の国からやってくる、というのは普通の事なのでしょう。というか、クロが隣の国から来たという事の方に驚いていました。私もそれは意外でしたが。

「それで、特別というのはつまり全員元殺人鬼だとでも?」

「いや、少し違いますね」

 奴隷商は私達の方を見ると、一人ひとり指差しながら説明し始めました

「一人は、邪神の供物か…あるいはただの気違いか。自分の事を95歳と言っている奴隷です。それからもう一人は言うまでもなく」

「解体屋クロード…」

「そして最後の一人は、人型の魔導機械です。唯一無二でしょう。機械のくせに自分で考える事もできるし、動作もまた実に滑らか」

 こいつ、私の仕組みを知っていながら敢えて説明しなかった。極力高く売りたいからでしょうか。中身が魔法生物だとなれば、あまり高値はつかないのかもしれません。結局の所、私はただの絡繰り仕掛けのスライムにすぎない、それを隠し通したいのでしょう。

「あれが機械!?なんと…!」

 一方で何も知らないその貴族は、私が機械であるという事に驚き、強い興味を示していました。私はなんだかゾクッとしました、この人は今ターゲットを私に絞った、そんな風に感じられて仕方ないのです。それにこの人からは何か良くないものを感じます、見ているだけで嫌な予感がするのです。絶対買われたくない、でも絶対買われる。涙など流した事はありませんが、泣きそうでした。

 ですが、意外な事に私は買われませんでした。あの貴族は

「また日を改めて来よう。今度はまとまった金も持って来る」

 と言って帰ってしまったのです。その日は結局、何もないまま夜になりました。

「クロ、お主隣国から来たのじゃな」

「あれ、ベラ婆には話してなかったっけ?」

 私達の話題は、クロがいた国の話に集中していました。クロの自己紹介を聞いたときそんな殺人鬼の話題聞いた事が無いと思っていたら、隣の国だったなんて。

「儂も今初めて知ったぞ?」

 ベラトリクスがそう言うと、クロは観念したというふうに告白しました

「あー、じゃあ今言うけど、俺は隣のベルネクス王国で10人殺ったんだ。こっちじゃ話題になってなかったんだな」

「そうですね、バラズでは全くそんなニュースありませんでした」

 自己紹介の時には殺しという話題に盛大に驚いていた私ですが、気づけばクロの話す感覚が移ったのか殆ど頓着なく普通の話題のように話すようになっていました。そんな私達の異常性を買おうとする者がいる、という事の方が恐ろしくて仕方ありません。

「まぁ、考えても仕方あるまい。セブン、お主は恐れておるようじゃが…まだ決まったことでも…」

「ほぼほぼ確定したようなものだと思いますよ。あの人は私を買おうと思っている、きっと」

 ベラトリクスが出した話題であの時の泣きそうな感覚がまた私を包み込み、私の心には暗雲が満ちていきました。ベラトリクスの励ましを真っ向から否定してしまった、数秒の沈黙の後に私はそれにハッと気づき私はベラトリクスに頭を下げました

「ごめんなさいっ!」

「良い良い、気にするな。儂の方こそ配慮が足りておらんかったのう」

 私は自分でも気づかないうちにかなり心を病んでしまったのかもしれない、そう感じました。こんな調子ではもう、二度とあの頃のような幸せは手に入らないのではとさえ感じます。

「なぁ、いっそ逃げ出すのはどうなんだよ?」

 クロが言いました。

「そう簡単に行けば良いがのう、なかなか難しいじゃろうな」

「逃げたとしても追ってくるでしょうし、本気で逃げるならそこまで含めて考えないといけませんね」

 そんな話をしているうちに二人は眠気に負け横になりました。眠る分だけの時間を過ごさずに済むのはなんだか羨ましく感じます。というか何故私は眠らないのでしょうか、機械だから…?

 その夜もまたいろいろな事を考えながら夜明けを待ちました。夜を過ごす友は居ません。孤独で静かな私一人の、私だけの時間です。

「起きろ、朝飯の時間だぞ」

 奴隷商の声が響き、クロとベラトリクスが目を醒ましました。

 

 ***

 

 またあの貴族がやってきました。前回来ていたときの事を考えれば、今日は誰かを買うのは明白です。私には、もし買われたとしてもきっと優しいだろうと神に祈る事しかできません。

「ふむ、前来た時から品揃えは変わっていないようで」

「はい、変わっていませんよ」

 貴族の視線が私達の方に向きました。

「やはりこちらが面白そうで興味をそそられるな」

 私達3人を舐め回すようなその視線が気持ち悪くて、どうにかして隠れる事はできないかと思いましたがそんな事叶う訳ありません。

「解体屋も所詮はただのガキ、武器さえ無くなればなにもできないというものです。機械人形も武器を所持していましたが、奪ってあります」

「おいおっさん、お前普段はそんな喋り方じゃないだろ!」

 クロが突然奴隷商を煽りました。一体何故かは全く分かりませんが、何か意図があるのでしょうか

「黙ってろクソガキが!」

 奴隷商は声を張り上げます。するとクロはにやりと笑い貴族の方を向きました

「へへへ…これがココの現実(リアル)だぜ」

「ふむ、解体屋は躾がなっていないと」

「い、いやこれは…!」

 慌てふためく奴隷商を尻目に、貴族は話を続けます

「しかし、他の二人は静かだ」

 ゾクッとしました。ベラトリクスも冷や汗を垂らしていたし、クロもこの貴族の発言に驚いた様子でした。

「元気が有り余っているんですよ、コイツは…ハハハ」

 奴隷商は安心したかの如くそんな話をします。一方で貴族は品定めをするように私とベラトリクスを見ていました。

 

 ***

 

 私は馬車に乗っていました。

 購入されたのは私でした。正直なところ、怖いし不安でした。

「今後私の事はご主人様と呼ぶように。無理だったら即刻廃棄するから、忘れないようにすると良い」

 その貴族、いやご主人様は笑顔で私にそう言いました。予想は出来ていましたが、やはり私は使用人になるようです。

「あの…話したいことがあるのですが、良いでしょうか?」

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