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装備の名前いいのが浮かばない
今から10年前、世界はずっとずっと発展していて、小さな争いはあれどここ数百年の中で一番平和な時を過ごしていた。
人間とアンドロイドが身近となり、何をするにも欠かせない存在となっていた。
だがこの平和は突然終わりを告げた。
いや、その前兆はあったのだ。あの日、あれが宇宙から落ち来るまでは。
『緊急速報です。ここから約8億435万kmの所で直径70m程の真円の隕石が発見されました。これは20階建てのビルと同じ大きさです。毎秒30kmほどの速度で接近しており、地球と衝突する確率は99.97%です。推定ですが5日後に衝突すると思われ、場所は緯度・・・』
何時もの平和なお昼時に緊急アラートと共にそんなニュースが全世界で流れた。
衝突推定地とされた所では住人が避難を開始し、太平洋や大西洋に設置された人工島への受け入れが始まった。
推定地に衝突した隕石は形を保ったままクレーターの中に沈み、それをサンプルとして研究者は削って持ち帰り、それらから発見されたのは未知なるエネルギーだった。
それは長ったらしい正式名がつけられたが一般には「マナエネルギー」として広がった。
理由としては専用の機械が必要だがファタジー小説に出てくる魔法のようなものが再現出来たからである。
そして、今までの燃料よりも高効率で安定した新エネルギーは、隕石から尽きることなく溢れ出ており、次第に地球全体に行き渡り、この世界にもとからあったかのように浸透していった。
そんな時、人間をサポートしていたAIの暴走が始まった。それも全世界同時に。
突然のことに見舞われた人間たちに対抗するすべは無く、次々と数を減らしていった。
暴走していたAI達から逃げるべく人間は人工島に移り住み、研究者はAIの暴走の原因は新エネルギーにあると断定し、AIだけに作用すると発表した。また、それに対抗するシステムを作り上げたが先の事もあり、一般に普及することはなかった。
だがアンドロイドに支配された地上を取り戻すべくマナを使った様々な兵器を作り上げた。
マナによって小型化されたレールガンを初め、今までは実現が不可能と言われた兵器が登場し始めた。
例えばロボットアニメのような10メートル程の機動兵器、モビリティアーマー。それを小型化し、ナノマシンを搭載したことによって自動修復を可能にし、機動性を上げるために人間の腕と足だけにアーマーを付け、スラスターで高機動を実現したナノモビリティアーマー。他にもマナを利用した様々な兵器を用いた兵士が今も前線で戦っている。
そんな世界で君もナノモビリティスーツを身に着け前線に立ち、ネメシスを殲滅して世界を取り戻そう!
・・・というソロプレイ専用のVRゲームを起動した俺はキャラメイクを始める。
せっかくだから性別は女にし、ボブカットの眠たそうな目をした16歳ぐらいのキャラを作った。胸をBぐらいにしたのはそれぐらいがちょうど良さそうと思ったからだ。ホントだぞ?
名前を名字から取った「クオン」にし、チュートリアルへと進める。
5秒ぐらいのロード画面が明けると目の前に広がったのは真っ青な空だった。
自分は今ナノモビリティスーツを身に着け、後ろのスラスターによって浮いている状態だ。
周りを見ると下には無惨にも荒れ果て、所々に骨のようなものが転がったビル群が見られる。後ろには自分の所属する部隊の航空戦艦が待機している。形は船の形そのままだが下の方にも艦橋のようなものが飛び出ていて砲塔もついているため、下方向にも攻撃できることがわかる。
左右には自分と同じ部隊のコンピュータアバターが一人ずついる。
『さて、今回は哨戒任務だがこの辺りは殲滅部隊が先行していたためまず接敵はしないだろう。だからといって気楽に行こうとは言えないがな。今回我々に初めて支給されたスーツだが今のうちに使い方をおさらいしておくとしよう。』
突如耳元から声が聞こえてきた。おそらく後ろの艦の艦長だろう。
なるほど、これから操作説明が始まるか。楽しみだ。
それから指示に従いながら次々と進めていき、僅か1ヶ月で全てをクリアしてしまった。
遅くないか?と思うかもしれないがそれだけボリューミーだということだ。加えてどの難易度でも敵の攻撃は基本ワンパン。設定で消せるが味方の攻撃も当たるし当てることが出来る。そして有料コンテンツであるアフターストーリーなども含めてだから早い方であると思う。
ネット上の評価だと否定的な物が多いが個人的にはとても満足のいくものだった。
特に有料コンテンツの裏ボスの装備が良かった。
今までが嘘のように敵をサクサクと斬り倒すことのできる双頭槍。スリップダメージを与えることの出来る重力発生装着。
プレイヤーに自動追尾してくる瞬間移動のできるゲートを展開できる6つのひし形のレーザードローン。機動力が通常の10倍になった6対の翼のようなスラスター。どの距離でもワンパンできるレールガンライフル。タイミングを合わせて展開するとどんな攻撃も耐えることのできるマナシールド。
これらを用いてお散歩モード(無限湧きモード)で無双するのが最高に気持ちよかった。
そして今日も無双するためにログインをし一時間が経過した頃、ロビーへ移動するべくゲートを起動する。
レーザードローンが正六角形の頂点部分に位置取り、その頂点を繋ぐように青白く光る線が生まれその中の空間が引き伸ばされる。
その中に入ると出口側の景色が現れる。
指定した座標はロビーのはずだが、眼の前に広がるのは荒れ果てたビルが並ぶ街並みだった。そして次に感じたのは太陽の暖かさと風が肌を撫でる感触。VRゲームはその辺りを再現することは出来ないはずなのに感じる。
「これは一体・・・」
自分が発した声も女の子の様に高く可愛らしい物になっていて何がなんだかわからない。
確認するように手を握ったり開いたりしていると、前からキュインというスラスター特有の甲高い音を響かせながら飛んでくる飛翔体が見える。
レーダーを見ると緑色の反応を示している。クオンのもつレーダーは味方なら青色で敵なら赤色、初めて会う識別不可能なものは緑色で表示される。
飛んできたのは初期装備ナノモビリティスーツを身に着けた赤髪の二人組の男女だった。年は二人共20代ぐらいだろうか。
二人はこちらにマナエネルギーを用いるアサルトライフルを向ける。
「所属不明の反応が出たから見に来たけど・・・子供か?」
「気をつけて、ヒューマノイドの可能性もあるわ。君、私達と敵対するつもりが無いなら今すぐ所属先と名前を教えてくれる?」
あくまで穏やかに告げる彼女だがいつでも撃てるようにトリガーに指を添えている。
しかしクオンは、こんなイベントあったかな?と呑気に考えていた。
何時までも言葉を発さないクオンに彼女達はしびれを切らしたのか語気を強める。
「答えなさい!所属と名前は!?」
「・・・クオン。今は何処にも所属してない」
彼女の声にハッとしたクオンは持ち前のコミュ障が発揮して小さな声で答える。
怖がらせたのかと思った男性が穏やかな声で話しかける。
「ごめんね。リンは怒りっぽいから。でもこんな時代だから許してやってくれるかい?」
「うるさいよジン兄。でも怖がらせてごめんなさい。言葉を発さないから新型のネメシスかと思ったの。」
やはりこんなイベントは知らない、そう思いわけも分からず二人を交互に見ていると、後から急速接近する赤い反応がレーダーに映る。
それから白い棒のような反応が飛んでくる。
ミサイルだ!そう確信したクオンは咄嗟に振り向く。
しかしブースターで加速されたミサイルはクオンのすぐ目の前まで迫っていた。
瞬間、凄まじい轟音が鳴り響き、クオンの後ろにいた二人は突然のことに耳と目を塞ぐ。
二人が目を開けるとそこにクオンは居らず、ただ呆然とするしかできなかった。
要はファンネルです。名前使っていいのか分からなかった