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皇室紀  作者: 奇天烈
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第一話 夜

生温かい目でお願いします。

わからない物語内の用語あったら質問お願いします。答えられるものは追加していきます。

あと大陸の地図ですが、また適当に上げます。

「昔々あるところに一人の少年がいました。龍の魔力と森人の美貌を受け継ぐ彼は、幼い頃から民衆の英雄として日々王国のために戦い、魔族の手から人類を守っていました」

「『リムティアの少年』か、もう少しちゃんと覚えてからやれ」


 アスペリアル王国の最南に位置する商業都市アルムの大通り。先のザッシュ帝国との戦争により、壊滅した村の生き残りであろうか。両目を失明し、右足を失った女の語り部がうろ覚えの英雄譚を語っていた。少年は彼女の前に手に持っていたパンと干し肉を置き、語りかけた。周囲はすでに闇で覆われており、大きな路地であるものの歩いているのは数名の巡回兵と飲み屋帰りの男たちだけだった。

 少年の声に、その存在に初めて気づいた女は顔を上げ、見ることのできない目の前の少年を懸命に探していた。


「ありがとうございます」


 女はパンと干し肉を左手でなんとか掴み、感謝を伝えようと手を伸ばしたが、もうそこには誰もいなかった。しばらくの間右手を揺らしていた女も諦め、手元にある僅かな食料を感謝の言葉を小声で呟きながら、一欠片も失くさないように慎重に数時間前から空腹を訴えていた胃へと流し込んだ。暫くして、また語り部は詠い出す。また次の同情を求めて。






「女将!今日も泊めてくれ」

「嫌だよ」


 断られると思っていなかったリオは両目を見開く。そんなリオを冷たい目で見るライアは呆れたように言う。


「あんた、いつになったら今までの分払うんだい?これまでの分、金貨12枚銀貨7枚銅貨2枚きっちり払うまでもう泊めないよ!」

「えぇ!ツケてたのか!?てっきりタダで泊めてくれてるのかと⋯⋯」

「そんなわけあるか!」


 ライアは頭を押さえ、ため息をつく。しかし、そんな姿を前にリオは隣で宴会をしている大工たちの席から奪い取ってきたジョッキを呷った。そんな彼に周囲から鋭い目線が突き刺さるが気に止めることなく、これまた彼らから奪った焼き鳥を口へと運んだ。


「あんたさっさと職についたらどうだい?それなりに腕はたつんだろ?この間の戦いで王国は何人も将官が死んだらしいし、仕官するつもりはないのかい?」

「仕官ねぇ」


 相も変わらぬリオにもう一度ため息をつきつつ、ライアは職につくことをすすめる。しかし、彼はその提案に渋い表情を示す。暫くそうしていた彼だが、突然右手に持っていたジョッキをテーブルの上に置き、真剣な眼差しをライアへと向けた。そんな彼にライアは右眉を釣り上げつつ返事を促した。


「女将、俺はな⋯⋯働きたくないんだ!」

「威張って言うことか!」


 開き直る彼にライアは怒鳴る。しかし、やはり彼は気にせず最後の焼き鳥を口へと放り込んで立ち上がる。小銭の代わりに懐から真新しい封筒を取り出し、カウンターの上に置いた。ライアはその封筒を取り、封を切り中身を確認する。


「なんだい?これ」

「商人街のバーンズ家からの手紙だ。昼間、商人組合の前で会ってな。暇があったらあんたに渡してくれって」

「アイナが私に?なんでまた⋯⋯」

「いーや、娘の方じゃなくて母親の方だ」

「え?モーナ夫人が?それこそ意味がわからないね」


 ライアは不審げに手紙へと目を通す。しかし、読み進めるうちになるほど、と納得し手紙を懐へとしまいこんだ。リオは興味がないのか、窓へと目線を向ける。大きな通りと言っても往来の絶えない中央通りから離れた職人街の道である。数人の人影が通るのみで賑やかな店内とは違い閑散としている。ふと思い出したように彼は呟く。


「さっき、めくらの女が通りで語り部してるのを見た」

「あぁ、近くの村からの避難民だね。最近良く見るよ。まぁ、まだ運のいいほうさ。傷のひどくなかった女の子たちは何人か花街の方に連れ去られてったよ。陛下が病に伏せてからこの国も随分と治安が悪くなったからね」

「この国もか」

「⋯⋯あぁ、ザッシュも少し前までそうだったね。やっぱりザッシュ出身なのかい?褐色肌だし」

「出身はな。ここ十年はほとんどセントルかヴァルニアの方にいた」

「なるほどね。なにかやらかしたのかい?」

「なにもやらかしてないと?」


 飄々と答えるリオに愚問だったねとライアは答える。ジョッキに残った酒を飲み干すリオを横目に見ながら、ふと疑問に感じたことを口にする。


「ここ十年は?あんた何歳なんだい?」

「16だ」

「16!?」


 ライアは目を剥く。見た目通りの年齢ではあるもののここ十年は故郷に帰っていないということは6歳ですでに放浪の身となっていることになる。彼もその異様さをわかっているのかニヤリと笑い彼女を見やる。


「これでも波乱万丈の人生を生きてるんだ」

「自分で言うな」


 ライアは再び頭を抱えため息をつく。


「生活費はどうしてきたんだい?」

「適当に山賊から奪ったり、野営してるどこぞの軍隊から奪ったり、踏み倒したり」

「本当にとんでもない人生だね、あんた」


 呆れたように呟く。リオは大きく笑いながらローブを羽織る。防護魔法が仕込まれているのか、一瞬彼の姿が小さくブレる。ライアは立ち上がりリオを睨む。


「あんた、飯代は?」

「もう払っただろ?」

「は?」


 自分の胸元を指差すリオに彼女は疑問符を浮かべる。


「手紙の配達をしてやったんだ。駄賃は結構だ」


 そう言う彼に彼女は唖然とする。リオはニヤリと笑い、扉へと向かって歩き始める。そんな彼にライアは慌てて声をかける。


「ちょい、あんた!そんなのどう考えても暴論だし、もしそうでも食べた分を考えたら全然足りな」

「じゃあな!女将!」

「っておい!話を最後まで⋯⋯」


 店を出た彼は熱魔法と飛行魔法を同時に展開し、空に飛び上がる。春も終わりが近づいているが夜風はまだ肌寒く、皮膚を撫でる。熱魔法の効果が徐々にあらわれ、温かい膜が彼を包む。彼を追いかけて店を飛び出したライアは空を見上げるが彼の姿はすでに遠く、夜空に溶け込みすぐに見えなくなった。

















「殿下、すでに夜も遅いです。そろそろお休みになられたほうが⋯⋯」

「もう少し待ってくれ」


 アルムの中央にそびえるアルム城の一画。数千冊の書物が保管されている王室書庫。司書室のすぐそばに置かれた机に大量の書物を積み上げ、彼は忙しそうにページをめくっていた。この城の主である彼は何時間も書庫にとじこもり調べものを続けていた。


「殿下、探しものでしたら我々がしておきます」

「大丈夫だ、もう少しで見つかりそうなんだ」

「殿下、それももう13回目でございます」


 そんな彼を心配そうに何度も休むように言い続ける侍女三人の言葉も軽く流し、彼は手に持っていた分厚い本を置き、また新しく取り出す。司書室からも司書長とその助手が顔を出している。ふと、彼の手が止まりじっと何かを読んでいたと思うと突然立ち上がり叫んだ。


「あった!あったぞ!」


 彼は手に持っていた本を抱え、書庫を飛び出すと侍女たちの叫びに振り返りもせず走り出した。夜であるにもかかわらず、城内は慌ただしくなり城兵たちはまたか、とため息をついた。


「兄上!兄上!」


 本を抱えたまま彼は自らの兄のいる客間へと飛び込む。そんな彼をルロルは驚きつつ迎え入れた。


「どうしたんだ?トロイ」

「兄上!ついに見つけました!オルグ草についての記述です!賭けは私の勝ちです!」


 そう言って、彼は手に持っていた本を広げルロルに見せる。その内容を見てしばらく呆然としていたルロルであったが、大きな笑い声を上げ、トロイの頭を撫でた。それをくすぐったそうにしながらも彼の顔は得意げであった。


「そうかそうか。これを見てオルグ草は青いといったのか」


 ルロルは彼の手から図鑑を取り上げ机へと置き、座るように促す。長椅子へと座る彼を面白そうに見つめながらルロルは言う。


「トロイ、いいかい。書物には常に事実が書かれているとは限らない。別に嘘を書いてるわけでもないが。時として、著者が嘘を書いてなくても読者にとって嘘となることがあるんだ。特に古い書物はね」

「どういうことですか?」


 彼は首を傾げ、疑問符を浮かべる。嘘を書いてなくても嘘となるのはどういうことだろうかと必死に理解しようとするが、やはり意味がわからなかったのか頭をひねる。そんな彼を見守りながらルロルは椅子へと腰を下ろし、隣に座る彼の頭をまた撫でた。


「これは何色だと思う?」


 ルロルは首にかけているペンダントを取り出し、トロイに見せる。トロイはそれを見て目を輝かせながら答えた。


「父上から下賜されたペンダントですね!青色です!」

「そうだ。青色だ。じゃあ、これは?」

「緑色です」


 今度は今座っている椅子のクッションを叩きながら色を聞き、トロイはそれに答えた。ルロルはニコリと笑い、言う。


「いや、青なんだ。昔の人からするとな」

「⋯⋯え?」


 トロイは頭をまたかしげる。


「緑という色はここ数百年でできた概念なんだ。それ以前の書物には緑や青や藍色、あと紺色なんかも含めてすべて青と表現されている」

「緑は緑ではないんですか?」


 ますます意味がわからないという顔をする弟にルロルは微笑む。幼い頃の自分と重ねながら彼は答えた。


「今の概念で言うとするならその考えは間違いではない、時代とともに人の認識や解釈は変わっていくんだ」

「難しいです」

「今はそれでいい」


 ルロルはトロイの頭をポンッと叩くと彼の手を引き立ち上がった。トロイも立ち上がりルロルを見上げる。


「ほら、もう遅いし。寝なさい」

「はい、兄上」


 彼らが部屋の扉を開けると、トロイを追いかけてきたであろう侍女たちが息を切らせながら待ち構えていた。トロイは気まずそうに彼女たちを見やり、ルロルに挨拶し部屋をあとにした。ルロルは近くの兵士に彼が部屋に戻るまで見守るように言うと再び部屋に戻り、読みかけだった『薬草総覧』を手に取り棚へとしまった。

参考文献

ソフィア・リマーシャ『皇室回顧録』第一巻「相続」

トロイ・アスペリアル「手記」


(注)作品内には世界観を壊さないため時折、差別用語が出てきます。注意してください。(遅い)


用語リスト

アスペリアル王国

・大陸最北の王国。古くから大陸皇室から独立を許されている7つの王国の一つ。


ザッシュ帝国

・大陸皇室の失墜を機に独立し帝国を名乗る。アスペリアル王国のすぐ南に位置する大国。


セントル

・セントル地方。皇都の置かれている大陸中央部の地域。大陸内で最も発達しており、現在は皇室を抱えるダリア家が実質支配している。


ヴァルニア

・ヴァルニア地方。正式にはタルラン地方。大陸南方の地域。食物が地質的に育ちにくく、毎年大勢の餓死者が出る地域。現在は隣接するゲルダ地方(正式にはウォリス地方)も含めてニ王君主制のゲルダ・ヴァルニアが実質支配している。


アルム

・アスペリアル王国最南の商業都市。ルロルの弟トロイの領地であるがまだ幼いため、実兄であるルロルが実質的な政務を行っている。ルロルにも別に領地が与えられている。


陛下

・カロー王。アスペリアル王国の現在の王。ルロルとトロイの父。名君として名高く、大昔に当時のアスペリアルの家臣に奪われていた南方の一部を再び王家の支配下に置くことに成功した。また、北方の北夷七島とその周辺の島々のほとんどとの大同盟を成立させたことでも知られる。

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