no.3
「こんにちハ。、はじめましテ。
ぼく、グリーデルダ。
君たちの案内人でス」
そいつはにやりと笑って、ひげをヒクヒクと動かす。
ぼくたちは何と言って良いのかわからず、グリーデルダをただ眺めていた。
「じゃア、ぼくについてきテ」
グリーデルダは踵を返し、歩いていく。
ぼくらには、何もなかったから、仕方なくグリーデルダの後に続いた。
暫く歩くと、一人がグリーデルダに質問をした。
「ねぇ、私たち、どこに行くの? 」
グリーデルダは振り向きもせず「もうすぐつきますヨ」とだけ言う。
「おなかがすいたよ」
誰かが呟いた。
「のども渇いたわ」
もう一人が呟く。
その後は、関を切ったように不満が漏れ出した。
「足が痛い」とか「疲れた」とか「家に帰りたい」とか。
ぼくも疲れたし、家に帰りたかった。
読みかけの本もそのままだったから続きが気になるし、サルトウィンという甘い砂糖菓子も食べたい。
皆が口々に言うと、グリーデルダの緑色の毛がぶわっと逆立った。
「うるさイ!!
お前たちハ、ぼくの後についてくれバいいんだヨ!! 」
振り向いたその顔は、目をぎらぎらとさせていて、獣という色合いを濃くかもしだしている。
ぼくらはすっかり萎縮してしまい、とぼとぼとグリーデルダの後を付いて行くしかなかった。
「おまえたチ、ここに入レ」
グリーデルダはぼくたちを、灰色の建物のところに連れてきた。
無機質な感じのその外観に、ぼくは少しどきりとする。
あぁ、ぼくは今までどうやって生きてきたのだろう。
今まで生というものには無頓着だった。
ただ、寝て、起きて、勉強して……それさえこなしていれば、ぼくは幸せだったのだ。
幸せの定義は分からないが、多分幸せだったのだと思う。
しかし、今はどうだろう?
先ほどからぼくは言い知れぬ不安に、溺れそうになっている。
こめかみの辺りがヒリヒリして、
『この建物はなにか危険だ』ともう一人のぼくが教えてくれる。
けど。
本当にぼくは何も出来ない。
自分の中の自分でさえ信じることが出来なかった。
ぼくらはグリーデルダの言った通り、建物の中に入っていく。
階段を上って、ぼくらは『グリーンパラダイス』と書かれてあるドアに入れと言われた。
「ここって、余生を送るための施設なの? 」
「ぼくらはまだパートナーにも会ってないよ」
「どういうことなの? 」
皆、グリーデルダに質問をする。
「別に余生だけって決まってないヨ。
色んなやつらガ、ここにやってくるんダ」
グリーデルダは面倒くさそうに、もさもさの頭を掻きながら答えた。
ぎぎぎっときしむ音がして、重そうな扉が開いた。
中に入れとグリーデルダが言うので、ぼくたちはゆっくり、扉の中に入っていく。
「グリーデルダ。遅かったね」
中に入るなり、黒いスーツの男が言った。
「すみませン。ご主人さマ。こいつら意外と知りたがり屋でしテ……」
グリーデルダは耳を下にたらして、ぼそぼそと呟いた。
「まあ、いい。
じゃあ早速始めるとするか」
男はそういうと、小さいめがねを指で押し上げてぼくらを見た。
どきり。
不意に背中がぞわぞわとして、ぼくはひりひりとした恐怖を味わう。
これが恐怖?
まるで、自分の体から、神経が飛び出てしまったような恐ろしい感覚にぼくはめまいを覚えた。