カオスでツッコミどころの多い勇者談
※深夜テンションに自身のある方だけ読んでください
我が村には、代々伝わる伝説の剣がある。
現在世界を支配している魔王を討伐する為の剣だ。言い伝えによると、勇者がこれを使い、魔王を倒すらしい。
剣は村の中心にある岩に綺麗に突き刺さっているが、誰もこれを引き抜いたことが無い。どうやら勇者しかこの剣は抜けないようだ。
突風が吹こうが雨が降ろうが、その剣は錆びず、砕けず、抜けず、勇者が来るのを待っている。満を持す時まで、ただひたすらにそこに居座り続けている。
ただ、魔王が世界を支配してから1万年が過ぎようとしている頃、1つの問題が顕になってきた。
「勇者が来ねぇぇぇええええ!!!!!!!」
そう、勇者が来ないのである。
──伝説の剣が抜けないから折りました──
とある日の快晴、昼。
1ヶ月に1度行われる村の会議は、伝説の剣についての話題で持ちきりだった。
「なぁなぁなぁどうすんだよあの剣! 勇者が来る気配何一つしないんだけど!?」
そう言うのは村1番の若者、キルキーだ。
「落ち着けキルキー、落ち着いて、餅つけ……落ち着けだけに」
それを村長が宥める。それによって俺を含める8人の行動が落ち着いた。というか凍えた。
ああ、さっぶ。
「ちょっとお茶淹れてきますね」
そして村長の無視を起点にして会議は再開される。
この会議では唯一和服を着ているオコトがそう言ってお茶を淹れに行った。因みにここはオコトの家ではない。村長宅だ。
「とにかく!もういい加減勇者来てもいい頃だと思うんだよ俺は。なのに、どこからも勇者の情報は無い。もしかしたら勇者なんていねぇんじゃねぇのか?」
「確かに……伝説の剣伝説の剣って言ってるけど、勇者なんていないのかもしれないわね」
「だろ? つーか魔王も魔王だぜ。伝説の剣が1万年もありながらも、一切それに関与してこないなんて、バカだよなー」
キルキーの発言が会議を動かしていく。何人かそれに共感したのか、深く頷いていた。
「ああ、本当バカだよな、魔王」
俺も同じように頷いた。
因みに魔王は俺だ。遅いぞ、勇者。
「もっもももももしかしたら! すっすすすすすでにこの中に勇者が居て! 本人はそれににににに気づいてにひゃいとかっ!!! 」
そう言いながら、目が回りそうな程に瞳に渦を描くのはペペチだ。吃音症ではないが、あがり症を極めすぎてこうなったらしい。手が震えている。
ペペチの向かいに座るアリエルが、それに即座に反応した。
「名推理じゃねぇカ、それは確かに有り得るカ」
「ああ、それは確かに有り得ま――」
「ああ、有り得るな! アリエルだけに」
お茶を淹れ終えて戻ってきたオコトの言葉に割って入ったのは村長である。ああ、さっぶ。
場は2秒ほど硬直した後、また動き出す。
オコトがそれぞれの場所にお茶を置き終えると同時に会話が再開した。
「てなると有力候補なのは誰だ? やっぱ俺か? 1番強い自信あるぜ?」
キルキーは豪語するようにして胸を張り、お得意のギザ歯を見せびらかす。
それを聞いて村長除く他のやつらが納得する中、アリエルは顎に手を当て、チラリと俺を見た。
俺は不思議に思い、視線を送り返す。
「どうしたアリエル? 俺の顔に何か付いてたか?」
この会議で初めて言葉を発したかもしれない。
「いや、キルキーも確かに強いが、ラージャも中々ではないカ。とな」
ラージャというのは俺だ。
アリエルの言葉に皆が納得する。村長もだ。
「ああ確かに! ラージャも中々に腕が立つ! 村の中じゃ剣術に魔法! どちらもトップクラスじゃしの! ラージャこそ勇者にふさわしいやもしれん! ラージャ、言ってやれ、ラジャーと」
ああ、さっぶ。
ちょっとキレが悪いのやめてくれよ村長。
「つめた」
もはや村長のダジャレを無視し始めたオコトが言う。お茶を淹れたはずなのに冷たいようだ。
原因は分かりきっている。
「おかしいですね、1000度で淹れたはずなのに」
もはやツッコミが追いつかないので俺はボケを無視する。
「リャージャ、しょんにゃに強いにょ?」
滑舌が悪いのかどうか分からない幼女グレアが言う。
因みに幼女とか言ってるが既に800歳である。エルフゆえにそんな年齢になったらしい。
「そっそそそそそそう言えばラージャさん、剣1振りで城を壊したことありりりりりまままますもんね」
もうその域まできたら魔王なんだよな。気づけよ。俺魔王だって。
ついでに言うとこのまま俺が勇者だーみたいな流れになると、魔王が切腹する感じになるけど大丈夫そ?
「……待てよ、切腹プレイもいいかもしれない」
「なんてぇえ?」
俺の独り言に突っ込んで来たのは隣に居るポンペェだ。
しまった。独り言が漏れてしまった。だが聞かれたのがアホなポンペェでよかった。
もうこの際言ってしまおう。
「俺はドMだ!!!!!!!!」
……。
「しまった!!!!!!!!」
スタンドアップ。
下に敷いていた座布団を払い除け、俺は大声でそう言った。これでは傍から見れば、いやどこから見ようが俺はただの異常者であり変態だ。
心の中で呟くつもりが声に出してしまった。
「周知の事実よ」
周知の事実らしい。
俺は冷静になり、座って茶を飲み心を休めた。冷たい。
そう、俺はドMである。これが魔王でありながらも人間としてこの会議に出ている理由だ。勇者を俺の手で育て上げ、最大限に強くなった渾身の一撃を、この身で受ける。それはまさに至福と言えるだろう。
ただ切腹プレイも中々に良さそうではある。
「じゃあリャージャに1回伝説の剣引かしぇてみりゅ?」
グレアが提案すると同時にそよ風が吹き、皆の髪をなびかせた。
そんな中、唯一1人だけ髪ではないモノがなびいたやつがいる。
「きゃあ!」
周知の事実よ、と俺に言ってきた色気のあるお姉さんマキリアだ。
物理法則がどうなっているかは知らないが突風にでも吹かれているかのようにスカートがばっさばっさと舞い上がっていた。
マキリアがそれを押さえつけようとするも、風は攻撃を止めない。そこにだけ。
「ダメだ! やっぱここは俺のエクスカリバーを!」
スタンドアップ。
キルキーよ、恐らく今言うべきことではない。意味深すぎる。
ついでに言えばエクスカリバーでもない。ただの伝説の剣だ。
────かれこれなんやかんやありました。
結局俺が伝説の剣を引き抜くことになった。
下手したら切腹もんだぞこれ。
「さぁラージャよ! 親切に引くのじゃよ! 伝説だけに」
ああ、さっぶ。
その絶妙にキレ味悪いのやめてくれよ。剣の斬れ味も鈍るって。
外に出ると結構な猛暑だったが、今の村長のせいで極寒に切り替わった。
各々の家々が立ち並ぶ道のど真ん中にそびえ立つそれは、異様なオーラを放っており、もしかしたら俺でも引き抜けないのではと思うような気さえしてきた。
砂利をどけながら、俺はそこに向かい突き進む。
「ががががががががががんばんっ、引いてくだだだださいね」
多分ペペチ本人は頑張って引いてくださいねと言いたいんだろうが、あがり症が邪魔をして岩盤を引けとしか聞こえない。
「淹れ直したお茶でも飲みますか?」
ミコトの声だ。後ろは振り向かないし返事もしないがこれは言える。
飲めば死ぬ。
「いいから、とりあえず邪魔しないといてくれよ」
いい加減集中の邪魔になりかねないから、そう告げた。
別に引こうが引けまいが俺には関係ない。結局として俺に待ち構えている選択肢は、最終的には死ぬ1択なのである。
伝説の剣を目前にすると、変な緊張感が押し寄せてきた。手汗がにじみ出て、今にも剣を持とうとしているのに滑りそうで仕方ない。
村全体が静寂に包まれた中、俺は剣の柄を持ち、腰を中心に力む。
雲がゆっくりと進むのが、こうしてみると止まって見えてきた。
そうだ、ただ引けばいい。それだけなんだ。
俺は自己暗示をかけつつ、決心した。
心臓が高鳴り、徐々に脈も速くなっていく。
いくぞ……。
「だああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
「「うおおおおおおおお!!!!!」」
何故か後ろに居る村長達も唸りをあげた。
何となく、抜けそうな感覚はある。
……いける、いけるぞ。
そう思ったその時だった。
ボキッ。
「「あっ」」
全員が声を合わせ、村長がダジャレを言った時のように硬直する。2秒と言わず、何秒も。
そう、つまりはそういう事だ。
俺は顔だけを動かし、何度も伝説の剣と伝説の剣の間を確認する。上には剣、下にも剣。あっふ〜ん、そういうことね、はいはいはい。
そっと、崩れないように剣を戻し、こう言った。
「何円で売ろう」
ここまで読んでくださりありがとうございます!!!!
いや本当にありがとうございます!!!
作者もね、本当訳が分かりません(致命的)
でもね、完結させたし、清々しい気持ちではあるからいいと思うんですよ(よくない)
今書き上げた直後だし、朝の6時前なんですけど、色々終わらせて帰宅した頃には赤面だと思います。ええ。明日には焼死体で見つかってますかね。
一応ちゃんと作品として出してるのは2作品目です。どっちも頭おかしいのでこれでいいのかと思います。
いいんです(自己完結)
どちらもコメディ系ですので気になる方は読んでみてくださいね
まぁとりあえず語りすぎてもアレなので!
改めて、ここまで読んでくださりありがとうございました!
作中ほとんど喋れなかったポンペェからも挨拶があります!
「むだんてんのり! だめぜったい!」