第0話 Prolog
ここは一体……。どこだ?
外が今……、朝なのか? それとも夜なのか……? 分からない。
今外は、雨が降っているのか? それとも晴れているのか……? それすらも分からない。
何故そんな簡単な事が分からないのかって?
それは俺が今、窓が一切無い、コンクリートの壁だけの部屋に居るからだ。いや、『居る』と言う言葉は間違っているな。正確に言うなら、『閉じ込められている』と言うのが正しいのかもしれん。
周りを見渡して見ても……。外側から鍵が掛かっている鉄の扉を除けば……、やはり何も無い。本当にコンクリートの壁だけの部屋。『どこかの建物の中』と言う事は、状況からしても、見ても分かる……が、俺にはこの建物の中は、身に覚えも無いし心当たりも無い。
それに……。所持品から財布や腕時計はおろか、携帯も盗られている……。
それらの事を考えると……。
やはり俺は今――
故意に閉じ込められたのではなく、誰かに捕まって監禁されているのか。
でも、誰に?
俺は部屋の真ん中に立ち、考える。
でも、答えは分からない……。
「―――?」
俺は鉄の扉へと視線を向ける。
突然、鍵の掛かっていた鉄の扉が「ガチャン」と、鍵の開く音が聞こえたからだ。
そしてそれは、俺の気のせいではなく、「ギィイイイイ」と、錆びた音を響かせながら、ゆっくりと鉄の扉が開いた。
「マスター!」
「マスターさん!」
鉄の扉の向こうから、うちの女性従業員の二人がコンクリートの部屋へと入って来た――それも、全身シルエットの人間にリボルバーを突き付けられた人質として……だけど。
「……」
俺が黙って睨んでいる事に対して、楽し気に「フフフ」と笑うシルエットの人間。
「相変わらず怖い顔をするねぇ~。《《マスターさん》》」
「何が狙いだ」
「まぁまぁ。そう焦らずとも。それにしても……、日本屈指の探偵と呼ばれているマスターが、こうもあっさり捕まってしまうとはねぇ~」
楽し気に語るシルエットの人間。俺はやれやれと溜息を吐く。
「人違いだな。俺は探偵じゃない」
「でも、世間ではマスターは探偵と呼ばれている。《《名探偵》》と……」
不気味に「ククク」と喉を鳴らして笑うシルエットの人間。
「ては本題に入ろう。マスターは仲間を助けるかい? それとも……、仲間を見捨てちゃうのかな?」
「……何が言いたい?」
「ほぉ~。名探偵と呼ばれているマスターが、この意味が分からないのかい?」
「……あぁ。俺は探偵じゃないから、分からないな」
「うん。じゃあ、仕方がない。小学生でも分かるような説明をしてあげようではないか。」
大袈裟に手を広げるシルエットの人間は、今度は指でクルクルとリボルバーを回し始めた。
「このリボルバーで撃ち殺す前提の話だけど、まぁ、撃ち殺すけど。ぷはは。失礼。で、つまりマスターは、仲間を助ける選択をしてマスターが撃たれ死ぬか、逆に仲間を見捨てる選択をしてマスターが生きるかぁ~だよだよ」
銃口を俺に向けるシルエットの人間。俺は、ふぅーと息を吐く。
「……なるほどな。お前がその約束を守ってくれるなら――」
俺はシルエットの人間を強く見る。
「殺せよ。俺を」
その返答を聞いたシルエットの人間は「フフフ」と笑う。
「マスターならそう言うと思っていたよ」
「話が早くて助かる」
「う~ん? それはどうかな?」
「どう言う意味だ? それは」
「僕が本気でマスターの約束を、素直に守るとでも」
その瞬間――
「――何!?」
人質として扱われていた女性従業員二人が撃たれ――
――三発目の弾が俺の方へと飛んできた。
ハッ――
『撃たれた』と、思った瞬間――俺は布団から目が覚めた。
俺は、気持ちを落ち着けるように胸に手を当てて部屋を見渡す。
いつもの俺の部屋。いつもと変わらない俺の部屋。タバコの煙とアルコールの臭いが入り混じっている俺の部屋。
俺は、自分の胸に手を当てているところを見て、ふぅーと優しく息を吐く。
「夢……、か」
呟いた俺は、優しく胸を撫でおろした。
まったく……。嫌な夢だ。