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第2-4話 四国に向かって走れ

 

「ふむ……やはり金曜日はカレーですね」

「シーフードをメインに、隠し味のコーヒー・白ワインが絶妙のバランスを形作っています……ネイビーの伝統ここにありという事でしょうか」


「はううううっ……食べ過ぎたよぉ!」


 今日は金曜日……海軍の街らしく、学食のメニューはシーフードカレー。

 食缶から立ち上るスパイシーな香りに食欲を刺激されてしまったあたしは、思わず食べ過ぎて膨らんだお腹をさする。


 カレーマニアでもある恵は、じっくりとルーを味わいながら、何度も感嘆のため息を漏らしている。

 そんな恵は、食べ過ぎて机に突っ伏しているあたしの様子を絶対零度の視線で見降ろすと、その可憐な桃色の唇を開く。


「……毎度毎度お腹を膨らませているこの豚さんは、いっそのことフォアグラにしてあげましょうか……あ、でも美味しくなさそうです」


「容赦のない罵倒!?」


「今日は午後から長距離輸送案件が入っているのですから、食べ過ぎは厳禁だと言ったでしょう? ……踏みますよ」


「はいっ! すみませんでしたっ!」


 こういう時の恵はガチなので、椅子から飛びあがったあたしは腹ごなしのランニングに出発する。


「やれやれ……”走ること以外にも大事な事がある……ソイツを敷島に気づかせてやれ”……空先生もなかなか困難なミッションをおっしゃりますね」


 カレーを食べ終えた恵はため息を一つつき、食器を片付けると遥の後を追った。



 ***  ***


「今日の目的地は今治じゃけ、無理しないようにいくで~」


「お~っ!」


 純白のセーラー服を着て、にぱっと笑う咲良ちゃん。


 あたしたち摩耶山上高校組と咲良ちゃんは臨時のチームを組み、比較的遠距離の案件を多く請け負っているのだ。


 特に今回は尾道と並ぶ飛脚シューズの一大生産地、今治への長距離輸送。

 飛脚シューズの素材メーカーが呉にあり、そこで製造された素材を今治まで運ぶのが今回のミッションだ。


 女子組が地脈抽出素子の素となる合成水晶を、海くんが大きな荷車で数トンの特殊合皮を運ぶ。


「へへっ、この荷物を予定通り運べば、5月のブルーリボン・しまなみは頂きだねっ!」


 広島地区には”しまなみ”、”安芸”の2つの主要ルートがあり、あたしたちは順調に両者のランキングを駆けあがっていた。

 5月、6月に両方を獲れば、G3昇格基準の200ポイントを獲得できる……あたしのやる気は最高潮に達していた。


「……合成水晶はデリケートな部品ですから、いつもの暴れ牛のような走り方をしてはダメですよハルカ」


「うっ……わ、わかってるよっ!」


「はは……予定だと今治到着は夕方になるし、今日は向こうで一泊だな」


「!! という事は鯛めしが堪能できるんだねっ!」


「……お前はまたメシかよ」


 あたしたちはワイワイと騒ぎながら、呉市内の工場に立ち寄って荷物を受け取ると、今治の街に向けて出発した。



 ***  ***


「はっ……はっ……はっ、あのでっかい橋が入り口かな?」


 あたしたちは呉の街から山中を突っ切る高規格道路を通り、山陽道を経由して尾道の街の近くまで戻って来ていた。

 右手遠くに巨大なつり橋が見える……明石大橋、瀬戸大橋と並び、本州と四国を結ぶしまなみ海道……そのスタート部分である尾道大橋と思われる。


「むふ、尾道大橋でびっくりしよったら、マジでひっくり返るで~着いてきんさい!」


 そう言うと咲良ちゃんは一気に加速する。


 パァン!


 咲良ちゃんのローファーから紫色の粒子が散り、彼女の身体が加速される。

 いっしょに走っていて気づいたけど……パワーと速度を併せ持つ咲良ちゃんのレベルはかなり高い。

 さすがは海くんの従姉妹である。


「むっ、負けないぞ~っ!」


 あたしも負けじと両脚に力を入れると、咲良ちゃんの後を追った。



 ***  ***


「うわわ……ホントにきれいだぁ~……それに、足裏に感じる”地脈”も……」


 向島の上空を過ぎ、海の上に出る。


 天を衝く白銀のワイヤーの間に広がるのは初夏の日差しに輝く瀬戸内海と、幾重にも重なる島々の緑。

 まるで空を飛んでいるような光景に、思わず脚を緩めて歓声を上げる。


 それに、なんだろうか?

 足に感じる地脈が普段と違うような?


「おっ、気付いたね遥ちゃん」


 いたずらっぽい笑みを浮かべて、並走していた咲良ちゃんが近づいてくる。


「この辺りは海流が複雑じゃけ、地脈だけじゃのうて”海”からも力が上がってくるらしいで~」


「はえ~、女子でもでっかい荷物を持ってる子が多いのはその影響なのかな?」


 神戸に比べ、走っているメッセンジャーの子たちが持っている荷物が大きい。

 小さめの荷車を曳いている子までいる。


 女子にはパワーの”因子”は現れにくく、スピード勝負であるメッセンジャーになる子が多いのだけれど。


「なるほど……統計上女子にはスピード因子が現れる事が多いのですが、多島海の複雑な潮流が影響して、女子でもパワー因子を獲得しやすくなっているのかもしれません」

「メッセンジャー、トランスポーターが世の中に生まれてまだ2~3世代……この辺りの研究はまだ進んでいないのが現実です」


「大変興味深いですね……じゅるり」


「め、めぐみんちゃん? 眼光がやばいんじゃけど……」


 咲良ちゃんの鍛えられた下半身 (あたしも好き!)をモルモットを見る目をして舐めるように眺めている恵は放っておくとして……


 ”因子”の発現と強さは生まれ育った環境の影響が大きいもと言われる。


 恵の言ってることが本当なら、呉育ちの子はメッセンジャーとして相当有利な素質を持っているはず……なんで”中央”にくる子がほとんどいないんだろう?

 それってもったいないんじゃないかな?


 あたしの胸の奥に生まれた疑問……それが思わず表情に出ていたのだろう。

 むぅ、とひそめられた眉を見た咲良ちゃんが、あたしにそそっ、と近づいてくるとニヤッと笑う。


「そうじゃね……明日の帰り、ちょっと付き合ってもらってええ?」


 あたしに見せたいものがあるという咲良ちゃん。


 お届け先の飛脚シューズメーカーに無事荷物を届けたあたしたちは、瀬戸内グルメを堪能した後、明日に備えてゆっくりと休むのだった。


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