2/3
糊を食べたのは
ねえ、おじいさん。
あなたと暮らすこの小さな屋敷は私の宝物だった。
一年に一度、破れた障子を張替えるのは、宝物を磨くことと同じこと。
昨日から、私は飯を食べることを控えて、糊を作った。
あなたは相変わらずおちゅんに飯を与えていたけれど。
あなた、障子を張替えたらなんていうかしら。
喜んでくれるかしら。
刷毛と紙を手に糊を置いた居間へ行き、愕然とした。
あの雀が糊をすべて食べ尽くしていた。
あなたが飯を分けていたというのに、
私は飯を食べなかったというのに、
この雀は賎しくも大切な糊を食べた。
悪びれもなく、嬉しそうに食べる姿に目の前が真っ赤に染まった。
私は、紙を切る為に置いた鋏で、賎しい雀の下を切り落とした。
血が手につき、生温い感触があったが、気にならなかった。
それほど、私は激怒していた。
雀が焦ったように外へ飛び出したのを見た。
雀の下を切ったことを知ったおじいさんはたいそう悲しんだ。
涙を流して「かわいそうに、かわいそうに」と嘆いた。
ねえ、おじいさん。
あの雀は大事な糊を食べたのよ。
食べるものにも困るこの生活のなかで、やっと作った糊を食べたのよ。