2完結
学校から大地の家に帰る途中、小さい公園のベンチで話す事にした。喫茶店でないのに申し訳ない。財布に7百円しかなかった。あと2日経てば副業のお金が入る。そんな事はどーでもいいが。大地が最初に口を開いた。
「おじさん、レナちゃん傷ついたよね。・・・泣いてた。可哀想だった。」
大地が俯いたまま、野球帽子を両手でぐしゃりと力を込めて潰す。
「うん。可哀想だった。・・・大地、学校に行く前、電車で話したろ?」
貴之は大地に寄り添って話す。
「うん。生た霊ならそのままにするって言ってた。除霊は出来ないって。」
大地はまだ俯いたままだ。レナの悔しさと、悲しみの入り混じった涙に堪えたんだろう。
貴之は大地の肩を抱く。
「そう言う事。生きた霊を除霊すると、残った体は中身の入っていないただの器になってしまう。そうすると、色んな者が入っちゃって大変になるんだ。・・・大地のクラスで長い間、休んでる子はいない?」
貴之は横目で大地を見る。まだ俯いている。
「・・・いないよ。」
「んー、じゃぁ上の学年か。」
「上の学年、、、?」
大地がやっと貴之を見た。そんな大地の頭を撫でる。
貴之は大体目星がついてきた。教室で残っていた霊の残り香。間違いない。長年、視えているものだから察しも良くなる。
「一年生から六年生の中に居るかもって事。まぁ、大体検討はついてるけど。大地、レナちゃんに手紙、渡したよね?」
貴之は確認をする。
「うん!学校入る前に渡したよ。」
大地の顔が少し穏やかになった気がする。
「じゃあ、夜だな。今夜ケリを着ける。安心して。」
「僕行きたい!」
「だあーめ。子供は寝てなきゃ。」
貴之は白い歯を出して笑った。大地の頭をぐしゃぐしゃ撫で回した。大地の頭はボサボサになって、ふて腐れた顔によく似合っていた。
レナの部屋。レナは一人っ子だ。とても愛されて育っている様にみえる。可愛いお人形、可愛いお洋服、可愛い自分のお部屋。でも、一番欲しいものは違う。
「今日もパパとママお仕事かぁ。」
ため息をついた。
リビングには温めて食べるように書かれたメモと、冷えたご飯。今日はご飯が用意されてるからいい方。ない時は、メモとお金が置いてある。結局、使わないで貯めている。一人で買い物に行くのが怖いからだ。
用意されたご飯をチンして、一人で夜ご飯を食べる。カレンダーをみる。
そろそろお彼岸の時期だ。そう思うと少し楽しくなる。レナの祖父母は一年前に亡くなっている。
和室に行き、仏壇の前でお線香を取り出し火をつける。
「おじいちゃん、おばあちゃんきて!お願い!」
線香の煙が舞う。それが徐々に人型になっていく。
すると、足のない老女が立っていた。
『おや、まあ。レナちゃん、まだ少し呼ぶには早いよ。ほほほ。』
老女は穏やかにレナに向かって笑っている。
「おばあちゃん!レナずーっとずーっと待ってたの!」
レナが立ち上がり祖母に抱きつくが、スッと通ってしまい抱きつけない。
『レナちゃん、一人は寂しいかい?』
「うん。」
レナの目には涙が溜まる。
『そおかい…ごめんね、一緒にいてやれなくて。』
祖母はレナの頭を撫でるような真似をした。
『レナちゃん、今日は特別に寝るまで、おばあちゃんが一緒にいてあげる。だから、どんな事があっても一人じゃないって強く思って、ね?』
祖母は優しい目でレナを見つめた。
『レナちゃん。』
遠くでレナを呼ぶ声。周りは白い霧で覆われている。
・・・だあれ?
『ワタシ、ワタシだよ。』
レナの肩に誰かに掴まれている感触。咄嗟に後ろを振り向く。
いない・・・
少し不安になる。俯いて、また歩こうと前を向く。
あっ!
レナの目の前に、白い服を着た髪の長い少し窶れている見慣れた女の子が立っていた。
『びっくりした?』
窶れた女の子は乾いた唇を上げながら笑っていた。
あなた、だあれ?いつも教室にいるじゃない!私の邪魔ばっかりして!
『あは。レナちゃんって、自分の事「私」って言えたんだー?いつも、一人称は「レナ」なのにねー。おっかしぃ〜。あ!家では「レナ」なのか〜ふふふ。』
窶れた女の子はふわふわ浮きながら笑っている。
・・・何がそんなにおかしいの?
レナの顔が強張る。
『要は、あんたはさ、ワタシと一緒なの。みーんなから嫌われているの。みーんなから気味悪がられてるの。そして、、、みんなから、忘れ去られるのよ!』
窶れた女の子は笑いながらレナの腕を掴む。
『ワタシと一緒に行こう?きっと楽しいよ!』
窶れた女の子は風に乗って強い力でレナを何処かに連れて行こうとする。
い、いやあ!!離して!
『パパとママはあんたの事、嫌ってるのよ。ーーーだから帰ってこない。』
窶れた女の子はレナの耳元ではっきりと言って、笑った。レナの瞳孔が開き、目から涙が出る。
ふと、おばあちゃんの言った事を思い出す。
・・・おばあちゃん。。。
『はあ?おばあちゃん?あんたのおばあちゃん、死んでるじゃん!、、、!!』
窶れた女の子は言いきったすぐ、レナの腕を離す。
『あんた、、、何、持ってる?』
窶れた女の子の表情が虚ろになっていく。彼女の目が白目と黒目が交互に動く。その顔が怖い。
・・・え、な、何も持って、ない
『嘘だ。』
彼女の高い声が低く唸る。白い霧から黒い霧に変わっていく。
「そのまま行くと、地獄に落ちるよ。」
レナと彼女は声のした方を見る。レナの後ろから男の人が現れる。
・・・大地くんの、おじさん!
レナは驚きのあまり、目がかっぴらいている。
『あんた、今日学校にいた、、、!!おまえかあ!』
彼女の怒りで反応してるのか、周りも黒い霧になりつつある。
「ああ、俺だ。君の気持ちは分からなくもないが、彼女、レナちゃんを連れて行こうとするのは良くないな。ーーー君は、さっき病室で亡くなった。可哀想だけど、有るべき所へ帰ってもらうよ。ーーー地獄は嫌だろ?」
そう言って、貴之は、両手に数珠を持って叫ぶ。
「摩訶般若波羅蜜多心経!以下省略!強制除霊!!」
『や、やだ、ひとりは、、、いーーー』
貴之の放った清めの塩が彼女を捉え、黒い霧と共に、消えたーーー。
辺りは穏やかな草原になった。
・・・大地くんの、おじさん。
レナはまだ驚きを隠せない。
「これで、普通に暮らせるよ。おばあちゃんにもよろしく伝えといて。じゃ、おやすみ。」
貴之は手を振ってーーー、消えた。
『レナちゃん。』
レナの隣におばあちゃんがいつの間にかいた。
『お彼岸、少し先だけど、お彼岸終わるまで、レナちゃんの側におばあちゃん居ていいって。』
祖母は優しく微笑んだ。
『おじいさんはいつも通りで悔しがるけど、側に居ていいかね?』
レナは泣きながら大きく頷いた。そして、満面の笑みを浮かべた。
数日後。
「大地くんのおじさん、その節はありがとうございました!」
元気になったレナが大地と一緒に貴之の事務所を訪れてきた。お礼にと持ってきてくれたのはアサヒビール500mlが箱詰めされている品物だ!!残暑厳しい季節、ありがたい。
「サンキュー、レナちゃん元気になって良かったね。学校は楽しい?」
貴之は小型冷蔵庫に早速ビールを入れていく。
「はい!毎日楽しいです!」
満面の笑みを浮かべたレナは何か吹っ切れたように晴れ晴れしていた。
あの後、レナの家では家族で話し合いがされた。幽体のおばあちゃん、おじいちゃん含む。少し強引だが、祖父母の力を借りて何とか家族団欒の時間を取ってくれるようになったらしい。後は、ご両親が頑張って家族の絆を築いてもらえればいい。
「あの、大地くんのおじさんは、何屋さんなんですか?」
レナが貴之に聞く。
「俺はーーー、便利屋。、、、いや、除霊師。」
貴之はそう言って、白い歯を見せて笑った。