第四話 声
「あのぉ」
一応、洞穴の奥へ声をかけてみる。
返事はない。
「……おじゃましますよぉ…?」
恐る恐る、歩みを進める。
湿気を含んだ泥が靴にまとわりついてクチャクチャと音を立てた。
「……、……」
「!!」
確かに、聴こえた。
さっきよりもはっきりと。
洞窟はクネクネと曲がり始め、たいまつの明かりではとても奥まで照らせない。
右に大きく曲がった道にでくわし、そこを進むと…
「うわ!?」
青白く光ったゴーストと出くわした。
モヤモヤとした煙の塊のような…ゴースト、もとい幽霊はゆらゆらと漂っている。
これが声の主か。
「……ええと、ごめんなさい、急に現れて」
"サードアイ"……退魔師の能力。
一般人には声も聴こえず、光るモヤにしか見えないゴーストと、会話し、また生前の姿かたちを視ることも出来る能力……
の、はずなのだが。
「…あれ?」
モヤがふよふよと漂っている。
そして、"何か"声が聴こえるが……聞き取れない。 会話が、できない。
「どうしてだ……?」
確かに"サードアイ"は発現してるのに……。
思案していると、
ズキッ…
頭の中に鋭い痛みが走る……!
「ううっ……!?」
何だ!? 何が起こっている!?
このゴーストの仕業……? 頭が割れそうだ……!
「うううぅ……!」
文字だ。文字が浮かんでくる。
これは……
『フォースアイ』
フォースアイ……? 新たなスキル……?
「ああ……発動する…… 発動するよ…!」
ビキ、と眼が鳴った、気がした。
「あぁああああぁあああッ!!!」
………
「…?」
静かだ。 てっきりこう、サイヤ人みたいな効果音でも鳴るのかと思ったが…。
無音。ただただ寂々たる洞窟が広がっているだけ……。
と思いきや
「ねえ」
「びゃァい!!?」
思わず飛び上がってしまった。
慌ててたいまつを向けると。
「……」
腕組みをした少女……フランス人形のような恰好をした、金髪で蒼い目の。
ムスッとした顔でこちらを見ている。
「…あなた、私が見えるの?」
こちらを軽く睨みつけながら、少女が不機嫌そうに言う。
「あ、ああ……見えるよ。まるでフランス人形みたいな…あいや、異世界でフランスって行っても通じないか…」
「! あなた、もしかして別世界から来たんじゃ……?」
「別世界!? 僕は、日本から……」
「日本!?」
少女は大きな目を丸くしてびっくりしてみせた。
「私も日本からよ」
「ええ!?」
見た目はどちらかと言えば西洋人なのに……。
あれ? でも、今は『フォースアイ』で姿が見えているんであって、元はゴーストなんだよな?
「ええと、君は……幽霊? なんだよね?」
「幽霊……ちょっと違うわね」
「え?」
「私はメリー」
胸に手を当て、メリーは微笑んだ。
「都市伝説よ」