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怠惰の王は努力する  作者: りとかく
7/10

絶望と慈愛

「ふわぁ〜、よく寝た。さてと…」


怠惰の王はおもむろに外へ出る。


「んー、うん。えいっ。」


気の抜けた声と共に血が降ってくる。空中には複数の動物が球状に集められている。


複数の魔法を同時に使えるのは上位の悪魔達だけである。


その中でも詠唱も無しに使えるのはごく僅かであり、王達の中でも5人だけである。


「こんなもんか。後は焼いてと……」


空中の物が一瞬にして焦げる。


何をしているのか?怠惰の王は料理をしているのである。他の命を喰らう事でしか生きていけない矮小な人間の為に。


現に食べやすく丸められており、殺菌もされている。完璧である。


「おい、起きろ。飯を食え。」


「お母様…もっと一緒に寝ていたいです…」


「僕はお前の母では無いと言っているだろうが。いいから早く飯を食え。」


「お母様の料理…久しぶりです……」


因みに小屋は貴族以上に豪華であり、もはや小屋とは呼べないレベルの施設が備わっている。


「…お母様、なんですか?これは。」


「何って、食料だ。見れば分かるだろう。わざわざお前を生かすために作ってやったんだ。食べろ。」


「…お母様、今度は僕が料理させて下さい。」


「自分でできるのか?なら、そうしてくれ。手間が省けて良い。」


少年は苦虫を噛み潰したような顔で肉塊を食べる。


表面は焦げ、生焼けで臭みは物凄く、内臓や骨が混ざっている。


だが、少年は頑張って1つ食べた。久しぶりに母の料理を食べるのだ。残す訳にはいかない。


「そう言えば、お前の名前を聞いていなかったな。なんと言うんだ?」


「お母…様……うぅ…酷いです……僕の名前を忘れるなんて……!」


「お前の母じゃないと言ってるだろ!そろそろ現実見ろ!」


「分かっています…!貴女が悪魔だって事…でも、似ているんです!僕を逃がすために犠牲になった母に……!!」


珍しく怠惰の王が驚く。


「お前…分かっていて母と呼び続けたのか。」


「はい。悪魔は願いを叶え、魂を奪うと聞いています。僕がお母様に会いたいと願ったから悪魔が召喚されたのかと……でもそれは勘違いの様でした。でも……」


少年はアケディアを見つめる。


「お願いです。お母様を生き返らせることは出来なくても、お母様になる事は可能でしょう?なら、僕の母になって下さい!何でもします。僕の魂だってあげます。だから……だから最後にもう1度お母様に会わせて……!」


少年は泣きじゃくる。余程母に愛され、愛していたのだろう。


「…その願い、このアケディアが聞き届けた。代償は…お前の母の魂だ。」


「え?」


悪魔は代償として魂を奪う。だが、それは本人の魂であるとは限らない。


たとえ天界に居ようが魔界に居ようが代償は代償。不可視の力が働き、魂は引き寄せられ喰われる。


しかし、王レベルでないと天界や魔界からは魂を持ってこれない。


「ちょ、ちょっと待って、僕の魂で」


「契約は成立した。この魂は代償だ。」


「待って!話が違う!」


「何でも都合良く行くと思うなよ。…愚か者。」


魂はアケディアへ飲み込まれ、消えていく。


「酷いよ…!こんなの……!!お母様ぁぁぁぁ!」


アケディアは震える。その絶望の顔が愛しすぎて。悲しすぎて。


そしてアケディアも消える。母になるのだから。


この日、怠惰の王は人間になった。

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